世界が再び動き出す。あるべくして起こった戦いか。運命に踊らされているだけか。対立する帝国と天翼。戦う理由は人それぞれ。正義の意味も人それぞれ。それは極々当たり前のことなのだろう。けれど例え互いを認めようと、結局は己が為、誰かの為に対立する。そうやって敗北し、果てた者は数知れず。そして勝利した者は一体何を得たのだろうか。そう。世界はこんなにも愚かしく……さあ戦おう。我等の、この身果てるまで。
■禁止事項・他者の行動・行為を著しく制限、または指定する描写・単騎で戦局に多大な影響を与える描写・俗に言う無敵と思われる行為、行動や描写・世界観が大幅に無視されている描写・その他、不躾であったり、不快に思わせる行動や描写相手あってこその戦いであるということを忘れずに。■大陸地図[大きな地図]http://www.geocities.jp/kichi_k/LG_map/top.html作:クロゼット[携帯用小冊子]http://la-terre.lostworks.net/map/作:コルナ・コルチェット殿クロゼットとコルナ殿に感謝。
ビーストアークの北上の空白地帯。敵が陸地を攻めて来るならば、必ず此処を通る筈。故にボワ洞窟北側で待ち受ける。毎度お馴染みのトルスタン城などは他国間の戦場になっているし。それに王も待つ姿勢でいることだしね。ここがお前たちの墓場、か俺は追い返すことができればそれで良いのだけれど。翼人たちの想いを知れば、そんな簡単に事が運ぶはずもないか。「人間を全て打ち滅ぼせば、この憎悪の連鎖も断ち切れるのかな」そんなこと。できるわけもないが。
余りにも多くのものを失って。戦争で大事なものを失うのが怖くなって。失っていく事を目の当たりにする戦場から逃げ、なるべく見ないで済むように城内の勤務に逃げていた。そんな老いた男の元に届いたのは一通の手紙。この大陸に帰って来た時にすぐに親しくなったかけがえの無い友人からの手紙。本来なら喜ぶべきソレは―――郵便受けの音に気が付いて、その背中を追いかけて。戦場で落ち合うという約束を待てずに捕まえた友人の困ったような表情に…突きつけられた現実を、理解…した。「戦場で言うのも変な話だけど、出会った頃よりずっと良い顔をしていると思うよ」見慣れた後姿に最初で恐らく最後の口説き文句。
後姿からはどんな表情で受け取ってくれたのかは読めないけれど、言葉を交わす暇が無くなる前に伝えたい事は伝えておく。「今期の戦争は君の行きたい場所について行こう 君の望む闘いに協力しよう」過去に彼女と闘った時とは逆に。以前、彼女は理想主義者の男の望むままに力を貸してくれた。それも本来与えられた彼女の役目とは真逆のワガママな望みに。今度は思い出の地を守りたいと行ってくれた彼女に力を貸す番。一体どれだけの力になれるのか、どれだけのものを彼女に与える事が出来るのかは分からないけれど…心なしか小さく見えた彼女の背中に声をかけて、返答を待った。
ついに戦争は始まった。しかしまだ、帝都は平和。戦争中だということを、忘れさせるくらいに。「この平穏を壊すってんだから物好きだよな」戦いに出ず、ここに残って入れればどれだけいいか。しかし、雇われのよそ者にそれは贅沢。「さて、仕事だ」そう言って、強い酒を一口。いつもの儀式。「残りは帰ってからだ・・・」それだけ呟いて家を出る。必ず帰るという、小さな決心をして。目指す先はボワ洞窟。どんな兵がいるのか、期待に胸を弾ませながら。「ま、こうやって戦いを楽しみにしてるあたり、俺は物好きの象徴だな・・・」軽く笑って、ボワ洞窟へと歩みを向けた。
今回の戦争の相手は、天翼という事になりました個人的に戦闘に参加するのは初めての相手になりますただ、前と勢力図も随分変わってるので前の戦いの資料はあまり参考にならないかもしれませんね・・・私は、とりあえず行く先を決める事にします「ここからだと、やはりまずはギュレアを目指しその後、ペドンからBAの周囲を通過する感じで進みそして、ボワ洞窟の方から入国する感じでしょうもっとも、その途中で敵軍と遭遇して戦いに入る事になるかもしれませんねまあ、後はその状況で判断しましょうか・・・」私は、地図をしまい、支度を済ませるとそのまま部屋を出て、出国門の方に向かう事にしました・・・
「懐かしい匂い…」黒い翼の少女は鼻をすんと鳴らす。眼下を見下ろせば兵たちが慌ただしく走り回っていた。戦の匂いはこの少女にとって嫌いではない匂いだった。「生きているって実感を持てるのが戦っていうのも悲しいけど…」そう一人ごちる。なんとなく腰の後ろに提げた2振の愛剣の束をぽんと叩き、彼女は眼前に広がる大地を睨みつけた。「さてと…久しぶりに暴れさせてもらうよ…」口元には自然と笑みが浮かぶ。目指すは――ボワ洞窟。
開戦の知らせを受けてから数日‥別にバードマンのように人間種に恨みがあるわけではない。ただ‥何もせずに負けるのは癪だと言うだけで戦支度をしている。「ふむ‥大体はボワに向かったようだな‥」『でもよ、海路から乗り込んでくるってのも考えられねーか?』地図を観ながらルートを確認していると、従者が横槍を入れてくる。「‥‥あちらとしては、海よりも陸の空白地帯を経由した方が楽だろう」地図を懐にしまうと幾ばくかの回復アイテムを持ち城外へと出た。「行くぞ、葬鵠。ボワ洞窟で迎撃する」『了解〜』大鴉と共に、黒い翼を広げて飛び立った。
「さぁって、とぉ」『行くのか?』開戦の報に対しての最初の言葉に、居候が即、こんな言葉を投げてきた。「ああ。行かんわけにゃ、いかねーだろ?」それが仕事なんだしよ、と嘯けば、確かにな、と哂う声が返る。『で、どうする』「……さすがに、今回は本陣強襲はしたくねぇ」寒そうだしな、と。思いっきり、本音が出た。「……取りあえず、主戦場はボア洞窟の辺り、と。 そこまで行って、後は戦況に応じて、臨機応変に動く」
つまりは、いつもと同じく行き当たりばったり、という事らしい。「ま、気配を拾ったら、横道にそれるもよし。 オレは基本、遊撃要員だからな」 軽い口調で、言う。実際、主戦場で動くよりも単体での遊撃……というのが一番性に合うのだが。 『あるじー、さむいの、へいき?』真白の妖狐が尻尾をぱたぱたさせつつ問うのには、何とかなるだろ、と返して。「じゃま、留守番任せるぜ、月白」『はーい、なの』いってらっしゃい、なのー、という声に送り出されつつ、愛槍を手に、飛び立った。
今回の相手は天駆ける翼騎兵だ…何時もの長剣を装備し、必要な装備食料を所定の場所に身につける新米の頃から行っている事だが、戦争の為の装備を身に付けると気持ちが引き締まる「さて、行きましょうか」小さく呟いて出国門に向うそこに行けばフィーナさんは居る筈だ…と、言ってもフィーナさんが先に向ったのだから追いかけるだけなのだが…「早く行かないと…待たせてしまってますね…」急ぎ出国門に向って走り出した…
呟いてからしまったと思う。同行しているものは、まさしくその人間なのだ。しかし、そんな失言など気にせず語りかけてくる相方。良い顔、か。そうなのだろうか?そんなこと、考えたこともないけれど。きっと彼がいうのならばそうなのだろう。これでも幾らかは成長したのかもしれない。「ありがとう……此処で良い。此処で迎え撃とう」振り向かず、前を見据えてそう答える。敵はきっと此処に来る。それを食い止めるだけで良い。ただ護りたい。それが俺にとって一番心地よい戦いなのだ。剣は戦場に在ってこそとか、剣は主がいるべきだとか、そんなことはもうどうでも良かった。
後方から見ると、進軍する軍と言うものは壮観に見える前から見ても同じ思いを抱くのでは?と言われればそうなのだが着いて歩きながら周囲を見ても、鎧兜を身に付けずに従軍している者は余り見かけない進軍先は、軍人ではない自分は教えて貰って無いが、地図と進路を見比べて大よその見当はつく洞窟となると空からの攻撃はないのだろうかと思うのは早計なのだろうねしかし、昔世話になった国が相手と言うのは少々面白い。今の翼騎兵にはどんな兵がいるのやら興味深い事ださて、さて、無事に記録を持って帰れるといいのだが革の鞄ごと映写機を落とさぬように気をつけておこう
そういえば、小休憩時に話し相手になってくれた若い兵士は自分は絶対大丈夫だと自信を持っていたようだがアレは自分への鼓舞だったのか、気になるな、ん夜の休憩時にでも訊ねて見るとするかな何にせよ、待たせている相手が居るのだから生きて戻って欲しいものだが余裕が有れば、彼の戦争を追ってみようしかし、冷える貰ったマフラーが無ければ凍えていただろうね帰ったら改めて御礼を言うとしようこれだけ冷え込むと冷気も一種の敵だね。両軍共にと、いかん立ち止まって進軍を眺めている場合ではないな遅れぬように歩くとしよう此度はどんな欠片を得られるだろうか、楽しみだね、ん
「どう考えてもここから登った方が早いんだよな……」見慣れた山を見上げるほぼ一年近くを過ごした城だ、大規模な増改築でもしていない限り隅々まで知っている他にもよく知っている事がある上空からならどこからでも出入り出来るが、地上からはほとんど入り込めない構造だ昔開けた勝手口もさすがに塞がれているだろうしかし…帝国の馬に乗るのを楽しみにしていたが、今から帝国まで戻るのも本末転倒な気がする
『馬なぞ無くとも主には我がおるではないか。空も飛べる立派な騎獣ぞ』飼い竜がずっと売り込みをしてうるさいが、絶対乗る気は無い落ちたら死ぬじゃないか馬なら落馬してもたまにしか死なないが、空から落ちたら必ず死ぬのだから仕方がない、情報収集をしながら山を下り、本隊と合流しようその前に少し城の様子を見て来るか……
「まいったな・・・」柄の両端に刃のついた、双刃剣と呼ばれる特殊な愛剣についた血を振り払いながら、ポツリと呟く。足元には、2人の天翼兵の遺体。つい今しがた仕留めた敵だ。装備から見て、偵察兵だろうか?「こいつらが帰らないって気づいたら、向こうもこっちの接近に気づくな」気づかれないように接近し、要所に急襲をかけるつもりだったのだが。「仕方ない。迂回して横をつくか・・・」そう呟いて、風下からボワ洞窟の側面をつく道を選ぶ。これなら、どんなに鼻の良い敵兵がいても気づかれる可能性は低くなる。とはいえ、敵もその程度は予想できるだろう。後は運次第になるが。
出国門の前で待っているといつものようにライさんが現れます「こんにちわ、ライさん♪もう先発隊は戦場に向かったようです私達も後れないように急ぎましょうか・・・」挨拶もそこそこに私達は戦場へと向かいます目指す場所はボワ洞窟・・・情報によると、やはりここが主戦場になりそうですね「さて、今回はどんな出逢いがあるんでしょうか・・・」そんな事も考えつつ、私達は戦場を目指しました・・・
姉と一緒に帝国に仕官できたと喜んでいる矢先、知らされた戦争の相手は天翼だった。白い翼の少女の心中は複雑だった。前期に一緒だったみんなは戦地に出てくるかな?出てくるよね、戦争だもん。戦地では知ってる人に会わないといいな…。あ、でも会ったら足止めするふりして守れるかな。そこまで考えたところで、先に出陣していった姉の顔を思い出す。久しぶりに生き生きした顔を見た気がする。
「さてと…薬はこれでよしっと」私も行かなきゃ。住処であるパティンから、アンプルマを経由してボワ洞窟で姉と合流。よく知った土地だから、いくらなんでも迷わないだろう。姿を消す光の法術を見破られない自信はあるけど、お城は避けて通るとしよう。「今行くからね」透き通った刃の大鎌を携えて表に出ると、姉のいそうな方角にそう呟いてから詠唱する。それが終わると、少女の姿は空気に溶けるように消えた。出だしだけふさふさと羽音を立てて、見えない少女は飛び立った。
彼女は前を見据えていた。彼女の守りたい場所を脅かす存在を誰一人見逃すまいと言うように。彼女は覚えているだろうか。天翼の交流所で自身を武器として語った事。甘い事しか言わない男に対して厳しくソレを言い放った事を。彼女は戦場に行く前に「思い出の場所を守りたい」と言ってくれた。武器として厳しくあった過去の彼女は今の彼女になんて言葉をかけるだろう?そう思うと、戦場だと言うのに不謹慎にも笑みがこぼれた。「この戦い、必ず生き残って…最後の約束を果たそう」戦いの匂いと音がボワ洞窟へ近づいてくる。言葉を交わす時間が、僅かな時間が減って行く。その中で、彼女への答えを告げた。
フィーナさんと合流し、ボワ洞窟へ向う共に戦場を駆けているとフィーナさんの呟きが聞こえた「さて、今回はどんな出逢いがあるんでしょうか・・・」出会い…という言葉に何故だが感慨深い物が心に沸いてくるこの世界に降り立ってそろそろ一年が経っていた…時が経つのは早い物だ「そう言えば…フィーナさんとあってもう一年以上経ってますね…まぁ、それは良いとして、今回もお互い帰れる様に頑張りましょう戦場に向う途中で変に思うかもしれませんが…どんな相手戦えるか、いつも楽しみにしているのは可笑しいでしょうかね?」ちょっと困った笑みを浮かべながら、ボワ洞窟へ向った
「天駆ける翼騎兵…ってーと、空の護りは万全そうだよなぁ」身を切るような冷たい空気をかいて、精霊は空を行く。「とはいえ、ビーストアークや月光の上空を飛ぶのも危険だろうし。 …てーと、やっぱ北から行くしかねぇか」確かに、他国の領地を突っ切れば早いのだが、その分リスクを伴う。精霊は他国の領地を避け、北から相手国の領地に行くことに決めた。それでも陸地を行くよりは早く行けるだろう。若干出遅れた分、丁度いいのかもしれない。「ボワ洞窟の…北、あたりから、になるかな?」飛びながら袋を探り、小さな地図を見ながら慎重に飛ぶ。
「当たり前だ」これでも古の魔剣だ。君一人くらいは護ってみせるよ。「俺は当然生き残るし、君を死なせるつもりもない」だから。「だから」今だけ、支えていてくれ。俺の心が折れぬように。これからも頑張れると証明できるように。「帰ったらとびきり美味い大福を食べさせてあげるよ。楽しみにしていると良い」そう言って振り返り笑顔を見せてやる。……む。「なんだ。人に良い顔をするようになったとか偉そうなことを言っておいて。君だって同じではないか。良いのだぞ? 何時ものへたれた顔をしていても。ん?」確かこんな顔だったよね、と思いつく限り最大限の情けない顔を真似しながら。
ボワ洞窟方面へと急ぐ私達・・・その時、ライさんが私の呟きに反応して話しかけてくれます「そうですね・・・もう1年以上になるんですね、早いものですもちろん今回も無事に帰りたいと思いますねどんな相手に出会えるかは、私も楽しみにしてますよですから、ライさんは全然おかしくないと思いますね出会いは偶然のようで、実は必然だっていう話を聞きましたが今回の運命の出会いは、さて誰になるんでしょうね・・・?」そんな事を話しながら、私達はBAの国境周辺を通過していきます目指す天翼まではもうすぐです・・・
つい、先日墓参りにボワ洞窟へ行ったばかりだった…青年司祭は寒そうに、襟元を掻き合わせ、雪の空を眺めていた。激戦地の天翼迄は…遠すぎる…薬草を煎じる乳鉢の手を休めては、時折、書物を開く…「御武運を…」誰に言うでもなく…十字架を握り締める薬草が調合出来たら、出掛けるとするか留守番…だがね
ボワ洞窟へ向け出陣した帝国兵に紛れて、乞食のようなマントを纏った人影がひとつ。「天翼ですか・・・懐かしい」天翼といえば、故郷とも言える懐かしい国。とはいっても、一度国を出てからは一度も戻れては居ない。いずれは戻りたいと思っていたが、まさか敵兵として故郷の土を踏む事になろうとは「あのときの皆様は、変わらず元気でいるのでしょうか」しかし、そんな複雑な思いの他に、見知った顔に会えるかもと言う場違いな期待を持つ。「・・・ぁ、見知った顔が居ても、敵なのですよね、そういえば」
「さて……と」到達したボワ洞窟の上空で、周囲を見回す。「ぼちぼち、お客さんもお出でなさいますかねぃ、と」口調は軽いが、表情は険しい。蒼と紫の瞳には、微かな緊張の色彩。……それと共に、楽しげな光もあるのは、はっきりと見て取れるだろうが。どんな形であれ、戦場にいれば昂揚するのは傭兵としての気質か、魂魄に宿るモノの性か。「……ま、どっちでもいいけど、な」低く呟いて、愛槍を、握る。空の上、開いた黒の翼が目立つのは、承知の上。それが敵を寄せるのもまた一興、と思いつつ。風を読み、敵の動きをゆっくりと辿り始めた。
「鉄壁の女性にそう言って貰えると頼もしいよ」閉ざされた大陸で共に戦った事を思い出しながら、楽しみにしていた『約束』を確認し合う。そう言えば、彼女の笑う顔をじっくりと眺めるのは初めてかもしれない。彼女の表情は人間の女性そのもので、今までで一番『良い表情』その表情がからかう様に表情豊かに変って行き、つい吹き出してしまう。「言葉では褒めているのに、顔では褒めてないじゃないか」こんな些細なやり取りをする時間が永遠であれば良いのに。無常にも戦の鐘は止まず、彼女の時間は砂時計の砂が落ちるように減って行く。
上空に見える黒い翼、相手はバードマンか雄雄しく広がる翼が戦う相手の強さを物語っている隠れもせず、こちらの動きを探っているのは自信の表れだろうか?「フィーナさん…敵です」さて、こちらはどうするか…一度上空に居る相手を戦った時に投擲武器ではあまり攻撃の意味をなさないのを知った…「空からの攻撃は恐ろしいですが…カウンターが決まれば一撃…フィーナさん、もしもの時の防御をお願いします」剣を抜き、闘気を籠める蒼い炎を剣に纏わせ、一度鞘に戻す隙の大きな行動だが、防御を任せられる人が居るからこそ出来る事だ「セイ!」居あい抜きの要領で剣を振りぬき、真空刃を空の男に向かって放った
常日頃歩いている慣れた山道を歩く。ただし今日は少し外れて、普段は近付かない城の方へと少し寄り道をする。静かだ。……まあ大抵この城は城壁の下は静かなんだよな……見上げれば時折、兵士らしき翼人が飛び立つ影と、その羽ばたきが聞こえる。そういえば、この城を外からゆっくりと眺めた事なんて無かったな、とぼんやり考えた。あの辺が正門で、そこで戦ったのは誰と誰、あの辺の城壁から入ってきたのは誰、等々明瞭に覚えている。その中で今も命長らえている将は一体何人いるのやら。
さて、こうして眺めていてもすぐには収穫は無さそうだ。数日見張るのもいいが、ろくに目の見えてない自分ではあまり役に立ちそうにない。前線までの様子を窺いながら自軍に合流するとしよう。布で巻いた長剣を荷物の様に背負い直し、バランスを取ってするすると山道を下る。これを持っているせいで非戦闘員ですという言い逃れがきかないのが痛いが、それもしょうがない。そういえば以前飼い竜に『主は真っ白だから上空からすぐ判る』と嘲笑された。……何かまあいいやと開き直る気持で、しかし一応木陰を伝う様にして歩き出す。
少女は既に地に降りていた。飛んでいる状態ではあまりにも目立ちすぎるため、ボワ洞窟の見えてくる一歩手前で空から降り、身を隠しながら移動をしていたからだ。(りっちゃん、早くしないともう衝突しちゃうよ?)まだ姿を見せぬ妹に思念言語を飛ばす。――彼女ら双子は生まれつき遠く離れてもお互いの位置を知り、会話も出来た。いわゆるテレパシーの強化版である――妹の返答を待ちながら周囲への警戒は怠らない。既に愛剣は鞘から抜き放ち、両手に収まっている。その重さを手に馴染ませるように軽く切っ先を揺らす。「早く、早く…もう始まっちゃうよ…」
「ふー、とりあえずここまで来られたか」何とか無事にたどり着き、精霊は冷や汗をぬぐう。ここから先は、天駆ける翼騎兵との境目となる。空の警戒は、当然万全だろう。「歩いて行った方が未だマシかなー」空では身を隠すところが無い。故に、精霊は地に降りる事にした。そっと木の陰に重なるように降り立つ。「んで、本隊と合流できりゃいいんだけど」合流する前に見つかっちゃいませんように、と祈りつつ、精霊は国境に向かった。
暫く飛んでいると自分と同じように空から行く者や既に到着している者の姿が見えてきた。「先客が居るようだが‥何とも静かなものだな」どうやら未だ戦闘は始まっていないらしい。『敵さんの数とかも気になるからな‥ちょいと索敵行ってくるぜ』「ああ。見つけ次第リンク、俺が牽制をかける」地上に降り立つと即座に術を発動できるよう警戒、従者の鴉は上空を旋回しつつ偵察を始めた。「さぁ‥誰か引っかかるかな‥?」
吹き出したのに釣られ、一緒に吹き出す。ぷ、あはは、と。「すまぬ。ふふ、あまりにも似合わぬのでね」戦場にいるというのにこの緊張感のなさは相変わらずか。だがもうあと何度できるかわからぬ戯言だ。こういう時間も後々大切な思い出となるのだろう。そしてそんな時間は長く続かない。遠くを眺めるように、右手を額にあてる。「始まったね」きっとこれが最後の……
「大分・・・近づいたな」物陰に隠れながら、地図を確認して呟く。迂回した分、時間がかかった。戦況もわからないため、あまりのんびりもしていられない。「だっつーのに・・・」忌々しそうに上を見上げる。空に見えるのは、天翼の偵察兵。先ほど始末した偵察兵の仲間なのか。それとも違う部隊か。何度か上空を通り過ぎ、ひやひやさせられている。「ま、気づかれてない分マシだけどな」やがて、偵察兵は元来た道、もとい、空路を引き返していった。
「ようやく行ったか・・・」やれやれと、隠れていた茂みから抜け出す。「失念してたな。偵察兵みかけねぇと思ってたけど、向こうには羽っつー便利なモンがあんだよな」ため息混じりに呟く。単騎で来たのは失敗だったか。陸と空、常に両方に気を張っていなければいけないのもなかなか堪える。「ま、ここまで来ちまったら、引き返す訳には行かないしな」観念したように呟くと、いつでも対応出来るように双刃剣を構えなおし、再び侵攻を開始した。
天翼領土に入りボワ洞窟の近くまでやってきた私達・・・その上空に1人のバードマンの姿が目に入りますどうやら上空から敵の姿を探っているようですライさんは、敵の姿を見て少し考えた後・・・「空からの攻撃は恐ろしいですが…カウンターが決まれば一撃…フィーナさん、もしもの時の防御をお願いします」そう言って、剣に闘気を籠め始めました「わかりました・・・防御の方は任せて下さいね」私はそう呟くと、体の気を高めて迎撃体勢を取りますそして、次の瞬間ライさんが真空刃を上空の敵に向かって放ちました・・・(さて、敵はどうでるでしょうね・・・?)
散発的な戦闘幾度目かのそれが始まる頃、この隊が進軍先と決めていたであろうボア洞窟が見えてきた盾を備えた歩兵から弓兵、騎兵、合間に魔法使い等非常に軍隊らしい軍隊。と言うよりも帝国だけに人がメインだからそう思うのだろうかこれが月光の民の場合はまた違った感想を抱いたかもしれない取り留めの無い思考のまま、進軍にあわせて三脚の上の映写機を動かしてゆく果たしてコレが帝国の本体なのか、それとも陽動を主とした遊撃なのかもう少し色々と話を聞いてから従軍先を選ぶのだった珍しく下手を売ったと今更ながら苦笑いが漏れそうになるとは言え、どちらを選んだとしても死ぬ時は死ぬのだろうが
さてそろそろ戦闘が終わる哨戒の小隊だったのだろう。犠牲が出る前に素早く引き上げる動きの速さは機動力の有るバードマン故彼らの去った先に視線を向ければ洞窟はもう目前映写機を通してみる兵達の顔つきは数度の戦闘で既に厳しく引き締まっている鎧の擦れる金属音闊歩する軍馬の足音兵士達は大きなうねりとなり戦場へと向かう大きく口を開ける洞窟近辺での戦闘は果たしてどのような規模となるのか三脚が付いたままの映写機を担ぎ、大きなうねりを追う様に洞窟へ、走るこれから始まるだろう命の記録を収める為に
感覚が捉えたのは、気配、二つ。その内の一つの動きを風が伝えて──。「……上っ等!」真空の刃が大気を断つ気配に、口をついたのはこんな言葉。こちらとて、ただ漠然と気配と風を読んでいた訳ではない。槍と波長を合わせつつ、気の集中をしていたのだから。「いよっと!」さすがに、初手から喰らってはいられない、と翼を大きく羽ばたかせて上へと抜ける。駆け抜ける波動、それが伝える空気の震え。それが、危機感と共に煽るのが昂揚感な辺りは、どうにも始末におえそうにない。
「……やーれ、やれ。一対二、か」空の上、態勢を整えつつ、一つ息を吐く。相手方は、攻撃担当と防御担当に分業している、という所か。それはそれで、こちらも似たようなもの、と言えるから、別段不利とは感じない。『……お前は不利を不利と認めんだけだろうが』魂魄の居候がぽつり、呟くのは、無視しつつ。槍に込めた気に、意識を凝らして。「ま、何はともあれ……いきなりのご挨拶、ありがとさんっと!」『……そこは礼を言う所か』居候の突っ込みはまたも無視して。槍を横薙ぎに振りぬき、お返し、とばかりに衝撃波を地上へ向けて打ち込んだ。
(もうすぐだよ、もう少しで着くよ)姉に思念言語で返事をしつつ、急いでボワ洞窟に向かう。姿を消してはいるけれど、天翼の兵を警戒して飛行ルートを選んでいたら、思ったよりも遅くなってしまった。幸い、鼻の利く者に見つかることはなかったようだが。目的地が見えて、飛ぶ速度を上げる。…見覚えのある姿が戦っているのが視界に入ったが、とにかく姉の元を目指す。(お待たせ、カズちゃん!)滑空し、姉…壱緋の横をやや通り過ぎ、洞窟に近い辺りに降りた。慌てたため、着地の際に思ったよりも大きな音と埃が立ってしまったが…。まだ、姿は消したまま。
歩いて国境を越え、洞窟付近に近づくにつれ、戦の音が迫ってきた。「ん、もう始まっちゃってるか」背に負った鎌を構え、走り出す。なるべく乱戦状態の所へと行き、飛び立った。別に積極的に戦うのが目的ではない。自らを天の遣いと呼ぶバードマンは、本物の天使に対して、多大な畏怖を抱くという。(としたら、俺の姿はどう捉えられるだろう?)白い翼を複数纏う姿。とある者に、天の遣いと思ったと云われた。(まあ…そんな大層な力も魔力もねぇけど、飛ぶ姿を見て混乱してくれればこっちのもん)精霊はかく乱目的で、鎌を振るう。
流石に初手は回避されるいきなり命中する様な事があれば流石にそれにも驚くが…そして、上空から放たれる衝撃波振りぬいた剣に闘気を籠め直し、納刀する居合いの一閃は威力は大きい代わりに隙も多い実戦で使うには信頼できる前衛が必要だ衝撃波の防御はフィーナさんに任せよう「フィーナさん、衝撃波の防御をお願いします…信じていますよ」フィーナさんに全てを任せ、剣を抜き放つチャンスを待った
ライさんの放った真空刃を相手はうまく避けて上空へと舞い上がりますそして槍を横薙ぎに振り抜き、衝撃波を打ち込んできます私はそれに合わせて右手を突き出し衝撃波に向けて大き目の気弾を1発放ちますお互いの間で両方の攻撃がぶつかり破裂します「ここで、ライさんの攻撃のサポートもしておきましょうか」私は、ライさんの次の攻撃の時、相手にむやみに避けられないようにする為今度は左腕から複数の気弾を、相手の周辺に向けて放ちました「今度は簡単には避けさせませんよ!」
彼女の始まりを告げる言葉が和やかな空気を終わらせた。いつまでの浸っていたい夢から覚めた後は過酷な現実。帝国の攻撃も天翼の攻撃も激化していく一方で、僅かでも貴重な時間を過ごせたのは小さな奇跡だったに違いない。「…………?」僅かな違和感。その小さな違和感に耳を澄ませる。とても聞きなれた声だ。自分とは違う何かに対する悪意の声。人間である自分はよく有翼人から色々と言われた物だった。今回の戦争の相手が人間の国だからだろうか…いや、それとは違うから『小さな』違和感なのだろう。人間を見下す、のではなく…寧ろ逆…のような…自分より高位の存在に対する悪意………?
「サイスさん、味方の様子…おかしくないか?」人間に対する悪意で統率されていたバードマンの兵が『何か』に対する悪意で乱されているような。「何か感知出来るかい?」違和感だけを感じても魔力に全く縁が無い男にはそれ以上を察知する事が出来ず。この辺は魔力に縁のある相方に任せる事にした。「ココで守りをひっかき回されると…」光の届かない洞窟から王城の方を眺め。「………まずいよね、凄く」王の一声があれば乱れた士気はいっせいに整うのだろうが…元々運気の低い男にそんな幸運が訪れる訳は無い。原因を取り除く必要がある。
「恐らく原因はアレだと思うが」宙を駆ける敵兵を指差す。白い翼を複数もつその姿はまさしく天使。天使自体そう珍しいものではない。だがあれ程立派な翼を持つ者を俺はみたことがない、けど。「んーなんだろうねアレは。見た目天使のようだが、魔力の質はもっと純粋な……そう、精霊のような」とにかく、アレを野放しにしておいてはこちらとしても色々とまずい。後続には敵の部隊も接近しているしね。「グレイ殿」まずいよねと、いい感じにヘタレてきた同行者に真顔で言う。「君の銃でアレ、撃ち落として」俺は空は飛べぬから。落ちてきたら俺がぶん殴って追い返すよ、と笑顔を添えて。
大地を滑っていく音と砂塵を立てて彼女の双子の妹は現れた――とは言うものの姿は光の屈折を術でいじっているために見えないが――。「待ちくたびれて先に一戦交えようかと思ったよ…」姉は軽くため息をつく。しかし、目は穏やかに微笑んでいる。彼女とてただ一人の己の片割れは大切なのだ。「周りはすでに始めてるみたいだから、私たちも派手にいきましょうか?彼らに私たちの本領を見せてあげなきゃ」
早く戦いたいと言わんばかりに妹が頷く前に彼女の手の中には術式の構成が編み上がり、黒い霧のようなものがまとわりついている。術の構成は派手だが威力は低い威嚇用のもの…単純に敵を引き寄せるためのものだ。「せーのっ!」掛け声と共に手の中から放たれた術は上空へと黒い手を広げた……。
「相変わらず凄い事をさらりと言うなぁ…」真顔であっさり言ってのける様はいつも通り。「女性に優しく出来ない男はモテないんだぞ? おじさんが女性陣の恨みを買った時は責任を取って貰うからね」冗談で返しながらも愛銃の空きっ腹には6つの弾丸。天翼の美味しい水をたっぷりと詰め込んだ水の魔法弾。一発当てれば水も滴る良い女 or 良い男の出来上がり。元は水の塊。当たっても多少の水流を感じる程度。彼女のリクエストである打ち落とす、には答えられない可能性が高いが、要は此方に注意を向ける事が出来れば良い。士気を乱す要因さえ取り除く事が出来れば後は何とかするだろう。
「それにしても同じ有翼人同士でも揉める事が有るんだねぇ」今でこそ他種族と手を組む事に友好的なバードマンを見かけるようになったが、種族としての誇りを持つバードマンには耐えられないのだろう。それは人間が人間を妬むのと似ているのかもしれない。狙いは獲物と言うには神秘的で美しい有翼の女性。銃口を突きつけ、引き金を引けば飛び出すのは数発の弾丸。水の魔力が開放され、的を狙い水の塊が飛び出す。引き金を引いた後に思い出す。冬将軍の大活躍するこの時期に水の魔力を使うなど自称紳士のやる事では無かった、と。
打ち込んだ衝撃波は相殺され、大気が揺らぐ。「中々……」荒っぽいねぇ、と呟きつつ。直撃狙いではない軌道の気弾に、す、と目を細める。「なんだ……?」『動きを封じる算段……と見るべきだろうな』「はっ……用意周到なことで」居候の言葉に、にぃ、と笑いつつ、振り抜いた槍を戻して、構える。『どうするつもりだ、宿主』「……避ける道を封じられたってんなら」『……避けぬだけ、か』「……そーいう、ことっ!」
このまま遠距離の打ち合いをしていても、埒は開かない。ならば、近接戦に持ち込むのみ。飛び込みにカウンターが来るのは、予測しているが、しかし。「……当てられるのにビビっちまってちゃ……」ばさり、と。黒の翼が、大気を打つ。「戦場で生きちゃ、いけねーってな!」『……真理だが、無謀はするなと』「うるせーから、黙ってろっての!」ぼやくような居候の言葉は受け流し。風を周囲に集めつつ、一気に地上へと降下した。
上空の男は周囲の風を集め、一気に地上へ降下してくる上からの強襲は戦いの上策である、その為、こちらは相手に備えカウンターを狙うのが最善手だ相手方から近付いてくれなければ、こちらはまともな一撃を加える事は難しい「フィーナさん!追撃を!」フィーナさんに向って叫び、跳躍する納刀した剣を、一閃して解き放つ真空刃狙いは男の周囲に集まった風…少しでも男の勢いを殺す為だ(後はフィーナさんの追撃に期待するしかない!)男の攻撃に備え、防御の体制を取って相手の動きに備えた
相手国とて、バードマンだらけではないように、帝国だって人間ばかりではない。その程度は相手だってわかっているはず。故に、一般兵ならともかく、大将格に自分のかく乱が通用するとは思えない。だから、冷静な敵将などが現れたら、とっとと撤退する予定だった。が、そうは問屋が許さなかったらしい。正体不明の爆発音と共に、何かがこちらに迫ってくる。それは、水の塊となって精霊を襲った。「魔法…じゃないな、魔法弾!?」音は銃声か。飛び道具は、空を舞うものにとっては脅威だし、魔法と同等の力を持つならば、本当に厄介だ。「風よ護れ!」
風は水流を絶ったが、水飛沫をかなり浴びてしまった。これが毒水だったら…と戦慄が走る。実際は違うようだが、それでも。「寒ぃ…」ただでさえ薄着なのに、水を浴びて寒風を浴びたら、確実に風邪をひく。風邪の精霊、などという家主の冗談が頭に浮かび、小さく首を振った。魔法弾が飛んできた方向、銃声が聞こえた方向を見ると、一人の男性がそこにいた。精霊は鎌を構えて、そちらに急降下する。「あんたか、あの水鉄砲を放ったのは。 寒い思いをさせやがって、許さね…くしゅんっ」言葉はくしゃみに中断された。鼻をすすりながら、男性に向けて鎌を振るい、地に降り立つ。
私の放った気弾は相手の動きを抑制しますしかし、この情況に業を煮やした相手の方は風を纏いながら上空より降下を始めますライさんがそれにあわせて跳躍し剣を一閃して真空刃を放ちます(邪魔な風を吹き飛ばすつもりですね・・・ならば私も追撃を・・・!)私は、両腕に再び気を纏いますそして、さらに左腕には氷の呪詛を絡め気弾は、相手の体に向けてそして、冷気弾は背後の羽根を狙って発射しました(出来れば相手へのダメージと一緒に厄介な羽根の動きをある程度でも封じられれば一石二鳥なんですけれどね・・・)
「始まったか・・・」そこかしこで、剣戟の音が響き、空が爆ぜる。戦場特有の空気。嫌が上にも気が高ぶる。「敵さんの腕の立つモンは・・・大体散ったか」残念な気もするが、目標の攻撃がしやすくなったことはありがたい。狙うは敵の戦線の生命線。兵糧などの補給物資や、援軍の通る道の寸断。それさえうまく潰せれば、いかな質のいい敵とて、物量の差でどうとでもなる。案の定、補給物資の保管場所の警備は手薄になっていた。にやりと笑い、双刃剣を構え直す。
タイミングを計り、茂みから躍り出る。気づいた天翼兵が、阻止をしに群がって来た。「邪魔だ!雑兵は引っ込んでろ!」楽しそうに、敵にそう叫ぶと、剣の一閃で敵兵を数人纏めてなぎ払う。「ははっ!いただき!」踊るように軽やかに、雑兵の群れの中を進む。そして、最も近くにあった補給物資に火を放った。それは瞬く間に燃え上がり、あたり一面を赤く照らす。炎は燃え移り、あたりの補給物資を飲み込み始めた。
「どうせ恨みを買おうが買うまいが……」言おうとして止める。「いや、何でもない」下手してこんなところで泣かれては困る。有翼人同士の争い。でも我々も人の国を相手にしている。人間種に立ちはだかる人間。そして人が造った道具。それはきっと同じようなものだろう。そしてその人間に組する翼人に銃口が向けられた。放たれた弾丸は水。「うわ、酷いな」思わず声が漏れてしまった。だが注意をひきつけこちらに飛んで来たのは上出来と言えよう。なのでここは褒めておく。「偉い、グレイ殿!ほら、来るぞ。下がれ」降りて鎌を振る瞬間に合わせ、地を蹴る。側面から何の変哲も無い跳び蹴りを仕掛ける。
『主ー、だいぶおっ始まってるぜ』「ふむ‥らしくなってきたな」従者の大鴉【葬鵠】を通して戦場を見渡せば、あちらこちらで戦闘が始まっている。『‥‥来たぜ、後方。物資の方だ』鴉が敵兵の手により補給物資に火の手が上がるのを見つける。隙をついて兵糧責め、と言ったところだろうか。「そのままソイツを見失うなよ。」葬鵠と視界をリンクさせている故に、離れた場所からも目標を見失わず遠距離攻撃が可能だ。「影よ、敵を貫け‥」敵将の足下の影が揺らめき影が棘のように盛り上がる影術を放つと同時に、物資保管所へ飛び立った。
「補給物資はこれで終わりだな・・・」燃え上がる敵の物資を見て、小さく呟く。既に、立っている天翼の警備兵は一人も居なくなっていた。「次は・・・」援軍の寸断。地図を確認し、そちらに歩みを向けようとしたときだった。異質な気配。一瞬の判断で、その場を飛び退る。「・・・・っつ!?」痛みと共に目にしたのは、影が茨のように突き出た異様な光景。掠った左肩を抑えつつ、ゆっくりと立ち上がる。
「影使い・・・か」話には聞いていたが、目の当たりにするのは始めてだ。「っち・・・。計画中止か。まぁ、物資を断てただけよしとするか」小さく呟きながら未だ見えぬ敵の気配を探し、ゆっくりとそちらに向き直った。「歓迎にしちゃ、手荒い挨拶を感謝するよ?俺も相応に答えねーと・・・な?」にやりと笑い、その手に紅蓮の炎を纏う。「まずは、見下ろすのをやめて貰おう!」そう吼え、影を放ったものの居るであろう上空へ、迎撃のためにいくつもの炎弾を放つ。その間に双刃剣に魔力を流し込み、敵の次の手に即応できるように備えながら、自らも距離を縮める為に敵に向かって駆け始めた。
跳躍する男の放つ真空刃。風はそれに対する、という狙いもあり、その点では狙い通りではあった。風で衝撃を緩和しつつ、こちらの有効距離に持ち込む、という策。近接戦になれば、援護する方の動きもある程度は緩和できる、と踏んでいた……のだが。「……つか、ちょいまちっ!」連携された攻撃は予想外だった。続けて打ち込まれた気弾……は、さておき。翼へと向けられた、冷気弾。闇と焔を抱くモノと半ば融合した身にとって、水と氷、それに属するものは──平たく言えば、弱点。「……ヤベっ……」『宿主、貴様は気の防御に集中しろ!』大きく飛んで避ける猶予はない。ならどうするか、という思考を遮るように。
強制介入の気配。槍が、微かに震えるのがわかった。「って、こら、居候!?」『……あのようなモノ、まともに喰らってはおれん!』思わず上げた声は、苛立ちを帯びた一言に遮られ。虚空に、焔の花が咲く。色彩鮮やかな紫紺の炎が周囲を巡り、冷気を打ち消した所に、気弾が炸裂した。真空刃の方は風に緩和されてある程度凌げたものの、魂魄の居候の強制介入の影響か防御はやや遅れ──その一撃はまともに入った。「……ってぇ……」思わず声を上げつつ、ふるり、頭を振る。『反応が鈍いぞ』「……半分はてめーのせいだろうが」『まともに、冷気を喰らいたかったか?』「……そりゃ、願い下げっつーもんだ」
突っ込みに、思わず愚痴が零れる。傍目には、単なる独り言にしかみえないだろうけれど。「ま、何はともあれ……」呼吸を整え、相手を見据える。雑兵ならまだしも、手錬相手となれば、一度に集中できるのは一人。この場合は、真空刃を操る男の方に意識を向けるべきか。「……適当に手伝え、居候!」大雑把な言葉と共に翼を羽ばたかせ、一気に距離を詰めてゆく。そもが不利な一対二──魂魄の居候の介入があっても、こちらは一人と半。相手に時間的な猶予を与えるのは避けなくては、と思いつつ、突きの一閃を繰り出した。
まさに水も滴る良い女。本来ならその鎌で命を刈り取られるかもしれないと言うのに、お嬢さんの勢いとくしゃみのギャップについ吹き出してしまう。そんな呑気な気持ちで構えていられるのも近距離戦に向いた頼もしい仲間が側に居るからだろう。「接近戦は君に任せるよ」彼女の言葉に甘え逃げるように距離を取る。遠距離武器は絶対的に有利な武器ではあるが、近すぎる獲物には何の役にも立たないのだ。一秒の差が生死を分ける戦場で、弾を込めるその長い時間は命取り。後方支援武器と言うのは前衛が居てこそ扱える物だ。裏を返せば彼女を振り切って此方に来られた場合…逃げ惑う以外に選択肢が無い訳だが…
「この寒い時期に君には悪い事をしたとは思うんだ」正直、この寒さの中でずぶ濡れになる事など想像したくないし丁重に断らせて欲しい状況だ。「でもね、相手が誰だろうと命の奪い合いは良くないと思うんだ」戦場に立つ理由は人それぞれ。少なくとも俺達は奪う為に居る訳じゃない。「退いてくれたら、お互い傷つく事も無いと思うんだけど…」君が退いてくれないなら…俺達は全力で抵抗するだろう。「平和的解決は無理かな?」新たな魔法弾が愛銃に充填された。引き金を引けば次の魔法が『敵兵』を襲う事になる。『敵』ではなく、ただ通りすがっただけで済ませたいのが本心。引き金はいつでも引ける。
自分に向って放たれる突きの一閃…今自分に出来る事は、相手を攻撃する事ではない隙を作り出す事だ(こちらに向って来てくれたのは好都合だ!)防御の構えを解き、放たれる槍の一閃目掛けて剣を振るうギィン!と金属と金属のぶつかり合う音が響き渡る相手の槍を受け、弾き飛ばすこちらに気を向けさせたままの状態ならば、フィーナさんも攻撃しやすいはずだ「フィーナさん!今です!」作り出した隙を生かす為にフィーナさんに向って叫んだ(こちらに突撃してる来るか…?それはフィーナさん次第か!?)
自分のくしゃみのせいだろうか、相手の男性が吹き出すのが見えて、少しむっとする。が。視界の端に映ったのは浅黄色。それがこちらに蹴りを放ってきた女性の髪だと気づくのに、数瞬かかった。「いっ…!」その為、鎌の柄で防ぐのが精一杯で、慌てて二人から距離を取る。下がった精霊に、男性が放った言葉は。『この寒い時期に君には悪い事をしたとは思うんだ』『でもね、相手が誰だろうと命の奪い合いは良くないと思うんだ』「そう思うんだったら、最初から水なんか使うんじゃないやいっ。 だけど、そりゃ、俺だって…命の奪い合いをするために来たんじゃないよ」
戦場では、命の奪い合いをするものだ、とはわかってはいる。いるのだが、結果としてそうなるならともかく、それを目的にするつもりは無い。甘いとは思うが。『退いてくれたら、お互い傷つく事も無いと思うんだけど…』『平和的解決は無理かな?』「うーん」困ったように頭をかく。直感的に、彼らは今自分が背を向けても、追撃をかけてくるような輩じゃないのはわかった。だが、状況はそれを許さないだろう。敵前逃亡が、味方の士気にどれだけ影響を与えるか、位は理解している。ため息をついて、鎌を構え、二人に向けた。「正直…あんたらとは戦いたくねぇよ」
「戦場で優しく話しかけて来るようなお人よしさんだし、ね。 でも、俺は自分の役割を果たさなきゃ、一緒に戦ってる人達に顔向けできねぇんだよ。 今俺が退いても、あんたの銃弾が俺の同胞を貫かない保障は無いし。力及ばずとも、それを止めなければ」風が周囲を取り巻く。お喋りのせいで、大分身体が冷えてしまったが、動けば暖まるだろう。「俺はシーファ。ドラバニア帝国所属の風の精霊だ」戦場で敵国の兵に名を名乗る理由はただ一つ。これから命をかける相手に対する礼儀だ。「行くぜ。風よ刃となりて敵を貫け――鎌鼬っ!」鎌を振るうと同時に、複数の風の刃が二人に向かった。
剣戟、咆哮、悲鳴に怒声戦場はやはり坩堝だぶつかり合った両軍の前線に居る者の殆どは血を浴びるような勢いで戦っている事だろう後方に近い此方はといえば、空からの攻撃に対して主に魔法使いが迎撃を行なっている他の者は盾を構え、彼らを守りながらの進軍時折、散弾のように広範囲に放たれた魔法で砕かれた肉片が血の雨の様に降って兵を染めるかと思えば近くで戦っていた者が矢に穿たれ崩れ落ち急降下して切りかかるバードマンに騎兵が殺され傷を負い落とされた鳥人は多数の刃で止めを刺される私はといえば、運良く肩を打ちぬかれた程度だが、当然治療もままならない
生きる為に死んだ兵の盾を借りながら行軍についてゆく映写機を守ろうと覆いかぶさったのが不味かったか燕尾服に血が滲んでいるのか、触れた白手袋の指の先が赤くなっていた肉が絡まない内に矢を抜き取り、止血される前線ほど激しい戦いではない御蔭か、運良く衛生兵に手当てして貰えたのは幸運だろうしかしこれは離れるタイミングを失したか話し相手となってくれた兵士も見失ってしまったさて、さて、どうしようかね
本当に何も考えずいつもの調子で下山したら、位置的には天翼軍の後方に出てしまったこれで部隊でも任されていれば後方から狙ってみなくもないが、1人では偵察がいいところそれにしてもここまで特に誰何されないのは地元の避難民だと思われているのか今期新しく来た傭兵だと思われているのか俺の隠行が完璧なのか最後は無いなそういえば天翼にいた時、疑問に満ちたいぶかしげな顔で見られる事はあったが特に迫害される事もなかった人間なんだけどな 多分大きな火の手が見える帝国の強者が前線を抜いて一働きしたようだお陰で混乱に乗じて移動出来る
羽音と剣戟の音が雨の様に降ってくる帽子の端を上げて見てみれば、めまぐるしく飛び交う影大きな空間で動く有翼の者は地を歩く者にとっては本当に厄介だなおまけに疾くて追い切れないやっと帝国軍が見えたと思った時ぼんやりしたいつもの視界に、ひとつ、はっきりと像を結ぶ人影があった人で無い事だけは判るがさりとて何なのかは判らないごく最近覚えがある前の解放軍で、一騎打ちをしていた戦士だ帝国の戦士に躍りかかるここでも一騎打ちなのか……いや、援護がいる「それより、ありゃシーファさんか」顔見知りと、結局正体を知る事は無かった戦士と好奇心に足を止められ、つい戦場を忘れて見物してしまった
私の放った2つの気弾のうち冷気弾は炎により防がれましたが、気弾は相手へ命中しますとりあえずまずまずダメージを与えたようですねそれに冷気は苦手な感じですね・・・後々使えるかも相手のほうはどうやらまずはライさん中心に仕掛けてくるようですそれなら、私のほうが攻撃を仕掛けるだけですねそして、ライさんの剣と相手の槍が交錯しますその瞬間ライさんが私に向かって叫びます「フィーナさん!今です!」私は、素早く相手の背後に回り込みますそして、気を込めた左脚を相手の体に向かって蹴り込みました・・・
相変わらずだねと苦笑する。だが止めはしない。誰もがわかりきった答え。それでもその男は聞かずにはいられない。それがグレイ殿なのだから。返された言葉は予想通りの結果を告げる。想いは同じ。だが立場が違うのだ。帝国の翼人、シーファ殿から発せられた言葉はすんなりと俺の中に入ってくる。だから。「天翼のサイス・エグザトースだ。互いの目的が一致した以上、俺は君を排除する」その言葉、後悔させてあげるよ。
シーファ殿より放たれる魔法。先程防御に使ったのと同じ風属性の魔法だ。恐らく魔法のミドルレンジと鎌を使った近接。俺とグレイ殿を足した攻撃が可能なのだろう。迫り来る風の刃に対抗する術を俺は1つしか持っていない。グレイ殿の前に立ち、手早く呪文を唱える。掌を前に突き出し、発動させるのは唯一使える魔法。「防魔結界陣」俺の腕が切り裂かれる直前。風刃は空気の奔流となり、俺の両脇へそれていく。防魔の魔法を間に合わせた。だが斬られなかったとはいえ、その衝撃は全て俺の腕にかかってくる。「グレイ殿!」次が来る前に。早く!
高く、響く、金属音。突きの一閃がいなされ、僅か、態勢が崩れる。……と、前後するように、背後に回りこむ、気配。『……宿主!』「わぁってら!」交わされる声から、向こうの意図は察する事ができる。できた上でそれを食らうほど、お人よしでないつもりだった。何より、突きをいなされ態勢は崩れている。このまま、地上で態勢を整える必然は、自分にはなく。「いよっと!」黒翼を羽ばたかせ、宙へ、舞う。ついでに散らす、黒の羽。目的は撹乱。一瞬でも、相手の視界を遮ること。
滞空時間は短く刻み、男の背後に素早く降り立つ。低い姿勢から、右足を軸に一回転。その勢いに乗せるよに、槍を大きく振り上げる。放つのは突きではなく、穂先両翼の刃による斬撃狙いの一閃。(さぁて、どうくる!)相手の取りうる選択肢は複数ある、と思う。オーバースィングの一閃は、避けるのは容易いだろうが、しかし。挟撃状態からこちらが抜け出した状況で、向こうがどうでるかは正直読みきれていない。蒼と、前髪の下の紫の瞳は厳しいまま、相手の動きを追った。
「月並みな言葉だけど…戦場で出会わなかったら、君とは美味い酒を呑めたと思うよ」俺達に『大事な場所を守りたい』と言う想いがあるように。お嬢さんにも命を掛けてでも戦場に出なければならない理由があるのだろう。それが分かるから…それ以上は何も言えない。言ってはいけない。俺と彼女に相手の命を奪う意思は無くとも、人の命を奪う事が容易な凶器を手にしている限り…互いの言葉はすれ違うだけ。仮にお嬢さんの方から同じ事を言われたとしても、その鎌が仲間の首を跳ねない保証は無い。「天駆ける翼騎兵所属、グレイ=シルヴァーだ 退けないと言うのなら…全力で阻止させて貰うよ」君は俺達の敵だから。
互いに『敵』への敬意を払い終わった瞬間、風の刃が戦争の再開を告げた。頼りになる相棒がくれた貴重な時間の中で、彼女に出来る最大限の支援を考える。「任せろ!」銃口から放たれるは暴風。間髪入れずに6発撃ち尽す。身を斬るような威力は無い。鋭利な刃は仲間まで傷付ける事になる。それに…目的は傷をつける事ではない。目的は相手の体温を奪う事。温もりを持つ生物は体温を奪われる事を嫌う。水の弾丸を使うのも体温を奪いやすくする為の布石。しかし相手は自分よりも風の扱いに長けた種族。冬とは言え、風力を重視した為に威力は本来の物より低い。だが、今回は相棒が居る。今は集中力を欠ければ良い。
「ふふ‥なかなか素早いものだな」鴉を通して見た、掠めながらも不意の一撃を避ける反応の良さに、口端を上げ笑みを浮かべる。‥そろそろ自分の目でも姿が確認できる頃か。『アイツ、俺じゃなくて主の気配を確実に手繰ってやがる‥』「当然だ。それぐらいでなければ面白くない」鴉と合流し様子を窺えば、吠吼と共に紅蓮の炎弾が幾つも撃ち込まれるのが見えた。「ふふ‥ご要望通り降りてやろうじゃないか。行くぞ、葬鵠」炎弾の間をぬって急降下すると同時に剣を抜き、地面に激突する直前に方向を変え目標へと斬りかかった。
フィーナさんの攻撃を回避し、自分の後ろに素早く降り立つ男勢いに乗せて振り上げられた槍の動きは大きく、何とか回避出来そうだ(それならば!)前転で槍を避け、すぐに立ち上がって間合いを詰める槍の長所であるリーチを逆手に取った零距離戦に持ち込めば勝機はある!「これなら…どうだ!?」瞬時に繰り出したのは闘気を纏わせた右肘相手の胸元辺りを狙い、体当たりを繰り出した
上空の敵は、上手く炎弾を交わしながら急降下してきた。こちらも、構わず前進を続ける。地に下りるのかと思いきや、すれすれでこちらに向かって方向を転換し、超低空の一撃を放ってくる。「面白い!!」思わず声にでる。双刃剣を軸に、まるで高飛びのように敵の頭上を飛び越え背後に着地する。「貰った!食らえ!」背後をとり、絶好の機会。剣に流し込んだ魔力を反応させ、双刃剣なればこそ出来うる、背を向けたままの状態で斬撃を放つ。タイムロスのない一瞬の一撃。冷気を纏った刃が影使いに牙をむいた。
私の蹴りを、敵は寸前で上空へ舞い上がりかわしますしかも、羽を散らして視界を遮り距離を取る時間を稼いでいます(う〜ん・・・やはりあの翼は厄介ですね)舞い降りた相手は槍を振り上げますその時、翼が微妙な動きをした気が・・・「やはり翼を狙うしかありませんよね・・・」私は、気を込めた両腕を広げ、相手の開いた翼めがけ複数の気弾をライさんに当てないように発射しました
『月並みな言葉だけど…戦場で出会わなかったら、君とは美味い酒を呑めたと思うよ』「ふふ、ホントに月並みだなぁ。ま、今度生きて何処かで会えりゃ、付き合うぜ?」気質も風である精霊は、相棒である黒犬が納得しさえすれば、ずっと帝国に留まる理由もない。故に、彼らが護る国にも、所属する可能性はあるのだ。その為に出た言葉。中年の男性…グレイと、浅黄色の髪の女性…サイスが、自分に対して名を述べてくる。相手の名も知らずに消滅する事はなくなったと、少し安堵しつつ、二人に感謝を込めて頷いた。そして、自分が放った刃は、というと。
『防魔結界陣』蹴りを放ってきた為に格闘家かと思ったが、サイスは防御の魔法を使ってきた。刃はただの風へと戻り、横にそれていく。銃を持ち接近すると下がる、遠距離系とすぐわかるグレイとは違い、サイスは今一つタイプがわからない。見た目は人間だが…感じる気質は、何となく違う気がした。だが。グレイに対しても、同じ事が言える。魔法と違い、魔法弾は、その魔力が解き放たれないと何が撃たれたのかわからないのだ。喰らってみないとわからない魔法なんて、恐ろしい事この上ない。その上、二人とも自分より遥かに力量が上だという事は、新兵に毛が生えた程度の精霊にもわかっている。
更にこの二人のコンビネーションは抜群、ではなかろうか。(何だか前言撤回したくなってきた…)泣き言を言いたい気持ちを押し込め、魔法弾から解き放たれる魔法に集中する。解かれた魔は、風。激しく吹き荒れる為に乱される風精達。「風の精霊って名乗った俺に、風を使うんか?」それを宥める様に、精霊は手を水平に薙いだ。暴風のエネルギーを、逆に自分の防御へと成そうとする。つまり、この隙に仕掛けてくるだろうサイスへの防御。風は結界となり、自分への攻撃を反らそうとする。風の中心にいる精霊は、結構寒かったりする。今、接近戦に持ち込まれるのはまずい。
(‥‥よくあれで剣が折れんな)受けるか弾くと予想していたところに頭上を飛び越えられ、一瞬だが思わず呑気な疑問が頭をよぎってしまう。そんな場違いな思考を振り払っている間にも背後に迫る次の手。(避けきれないか‥!)とっさに身を翻し飛び避けようとするが皮肉にも冷気を帯びた刃は左翼を斬りつけ、バランスを崩して転がるように距離をとる。「なかなか‥機敏と言うか反応がいいな」立ち上がって余裕そうに口を開きつつ斬られた翼の様子を見れば風切り羽の辺りを斬られたらしく、どうやらこの戦は飛ばずに戦わなければならないようだ。
とは言え、術の性質から見れば空より地上の方が戦い易いのも確かか。「俺を地に降ろしたこと‥後悔するなよ?」言うと同時に自分の影を相手の影へと繋げると、ぐにゃり歪ませ足元をぐらつかせる。その直後に地を蹴ると一気に間合いを詰め細剣故の素早い斬撃を何発も繰り出した。
放った一撃に、僅かな手ごたえ。どうやらすんでで避けられたか。「なかなか‥機敏と言うか反応がいいな」そう声をかけて来た敵は、自らの羽を確認していた。どうやら羽に当たったようだ。「それは・・・どーも」一応、答えはするが、気は抜けない。何しろ初めて対峙するタイプの敵なのだ。そんな敵を前に、一瞬でも気を抜けばすぐさま切り伏せられるということは、長い戦場生活の中で嫌でも理解する。(まだ、余裕が見えるな。なるほど、空戦に依存している訳でもなさそうだな・・・)敵の術からいっても、地上のほうがやりやすいかもしれない。空から下ろしたといって、胸は撫で下ろせなかった。
「俺を地に降ろしたこと‥後悔するなよ?」相手がそう声をかけて来た。思わずにやりと笑みが出る。「当たり前だ。マシに攻撃も出来ない場所から、一撃かませるとこまで降りて貰えたんだ。後悔なんざ・・・っと!?」異様な感覚。足元がぐにゃりと歪み、バランスを崩す。良く見ると、自分の影と相手の影が繋がっているのが見えた。相手がバランスを崩したところを狙って連撃を放り込んでくる。「・・・つぁ」とっさに、直撃しそうなモノを剣で弾くものの、連撃が腕や足の薄皮を裂いてゆく。痛みで冷静を取り戻し、連撃の一つを選んで敵の剣を弾き、距離をとった。
「いてー・・・。なかなかやりずれぇな」影に気を配りつつ、じりじりと距離を詰め、対処法を考える。(どうやら、影を通して敵を操るのも可能か。操られんのは簡便だな。なら、影を消してしまえば?)試す価値はある。手に持った双刃剣を捩り、柄の真ん中から分けて双剣にする。その両方に炎を纏わせた。「実験開始!」そう吼えると、片方の剣の炎で自分の影を消し、もう一方で周りの目ぼしい影をカバーしながら敵に突っ込む。
最後の風刃……防ぎきったッ!同時に駆ける。右腕が衝撃に耐え切れず態勢を崩しながら。それでも駆ける。少しでもシーファ殿へ近づくために前へ前へ。グレイ殿の放った弾丸は風。……って風ぇッ!?「うわ、あのばか!あほ!へたれーーッ!」案の定、シーファ殿は空気の激流を上手い具合に制する。何者の侵入をも拒むように。それはまさしく風の結界。だが俺も今更止まれない。殴るのが無理なら、せめてこの結界を断つ。「実は俺、さっきの名は仮の名でね。本当は魔剣エグザトースっていうんだ」そう。我が正体は剣。空間を断ち世界を二分する、謂わば次元断の剣。
言葉にならない言葉を紡ぎ、両手で何かを握るように合わせ、魔力を篭める。そして両腕を右上から左下へと振りぬき……その瞬間、一瞬だけ。一瞬だけの、剣と人の同時存在。俺の両手に収まる漆黒の大剣。それは延長線上の空間を断ち、風の結界を二分する。まるで斬ったそこに、見えない壁ができたように。そのすぐ先にシーファ殿の姿がはっきりと見えた。そしてシーファ殿から俺への直線状、俺のずっと後方には……すぐさましゃがみこむ。「撃て!」頼む!ここで時間を稼がれれば、増援の危険が生じる。周りにいるのは俺達だけではないのだから。だが言ってからふと思った。あれ、あの銃って何発式だっけ?
放った風の魔力が逆手に取られる。ふと、北風と太陽の物語を思い出した。力で勝とうとするから上手く行かない。力を理解した上で上手く使う事が必要なのだと。強引に押し進めようとして招いた危機をフォローしてくれたのは相棒。「撃て!」言葉と共に閉ざされた道が開かれる。(…見える!)風で阻まれた空間の先に『敵』の姿が。閉ざされていた道に差した光が。塞がれた壁に空いた穴が。今なら…撃てる!否、先ほどは『撃てなかった』のではなく『撃たなかった』のだろう。味方を傷付ける恐れがあるから…だが、それは言い訳に過ぎない。
信じきれなかったのだろう。自分自身を、そして…信じてくれた相棒を。炎や水の弾丸を放った所で風で阻まれ、此方に返される危険性があった。だから弾かれても味方が…自身が直接的被害を受けない風で押し切ろうとした。『俺は当然生き残るし、君を死なせるつもりもない』彼女の言葉を信じきれずに。それでも彼女は『ヘタレ』な援護を信じて道を切り開いてくれた。もう…自分に言い訳はしない。彼女にも、敵兵にも。込めた弾丸は何れも攻撃用。相棒に当たれば彼女の命を危機に晒す。それでも彼女は信じてくれている。躊躇する必要は無い。
放ったのは何かの袋。敵兵と相棒の方へ飛んだ小さな袋を狙い、一発目の引き金を引いた。間髪入れずに残り五発を撃ち込む。飛び出した魔力は氷。袋を貫き中身の白い粉が飛び散る。その氷と粉を巻き込んだのは五発分の水流。氷は水を冷やす。水は氷を溶かす。混ざった粉…塩は溶けきらなかった氷を溶かし、水の温度を氷点下に下げる。飛び出した魔力は『敵』の元に届くまでに変化して行く。当たれば身を斬るような寒さを与える絶対零度の水流に。結果に問わず、飛び散った冷水は地面に氷の床を作るだろう。それは味方の足を取る事になるかもしれない。大丈夫。彼女が俺を信じているように俺も彼女を信じているから。
「そう容易くは、当たっちゃくれねぇか、と!」前転して避ける動きに、零れたのはこんな呟き。そう、容易く当たられても面白くない──というのは、『戦勝』を重視するならば不謹慎だろうが。『勝敗という結果』以上に、『戦場での交差という過程』に重きを置く気質からすれば、ごく自然な発想で。振り切った槍を引き戻し、構えを取り直す──所に飛び込む、肘の一撃。中距離主体の槍使いにとって、懐に飛び込まれるのはかなり手痛い。ここは下がって避けるべきか、と。そう、思考した所に飛来する、気配。「……ちっ!」『……騒がしいものだ』舌打ちに重なる、魂魄の居候の呟き。
『翼を持っていかれるわけにはゆかぬ……止めるぞ』「……って、おい!」『忘れるな。お前が死ねば、我も消える』それは困るのだ、という言葉に続いて。普段は強引に眠らせているモノが、蠢く気配。「居候っ……」『いつぞやのよに、乗っ取りはせぬ。 貴様は、眼前に集中しろ!』「……ったよ!」実際問題として、このまま一人で二人を相手取るのは厳しいのだから。飛び込んできた肘の一撃は、引き戻した槍を身体にぴたりと寄せて構え、柄で受け止める。それと同時に、魂魄の居候が、動いた。再び舞う紫紺の焔は、飛来する気弾が翼に達する前に受け止める。
(……長引くと、色々やべーかねっ)今更、融合状態だの侵食だのにどうのこうのと言う気はないのだが。宿す者と宿るモノ、双方が自意識を保った状態で同時に動くのは──正直、疲れる。「ま、何はともあれ……」ぐ、と。両手に力を込める。「零距離戦闘、さすがにお断り、ってな!」口調だけはどこまでも軽く、言って。槍を前方に押し出すようにしつつ、相手を突き放し。追撃するよに、突きの一閃を繰り出した。
肘による攻撃は槍で防がれ、その防いだ槍で自分の体を突き飛ばす僅かに体制が崩れた所に追撃するように放たれる槍槍の真骨頂である突き攻撃を何とか左に回避する僅かに左脇を掠め、鈍い痛みが走る「くっ!」右肘を防がれた事により、腕が痺れてすぐには反撃出来ないここはフィーナさんに任せるとしよう(少しでも時間稼ぎを!)後ろに飛び退きながら手に生み出したのは形の悪い気弾その気弾を下手投げに投げて、男から距離を取る一端の仕切り直しと言った所だボン!という音共に舞い上がる砂埃を眺め剣を構えた(これならフィーナさんの追撃もやりやすいか?)
『うわ、あのばか!あほ!へたれーーッ!』「ちょ、酷ぇ」迫り来る女性の、グレイに対する台詞に、思わず浮かぶのは苦笑い。だが、彼女の勢いは止まらなかった。『実は俺、さっきの名は仮の名でね。本当は魔剣エグザトースっていうんだ』先程の勘は当たっていた訳か。サイスは、何かを振り下ろす動作をする。…否。一瞬だが、彼女の手に見えたのは、確かに剣だった。その剣は…漆黒の大剣は自分の作った結界を「切り裂いた」。「なるほど…魔法に対抗できる剣、なんだな」先程の魔法防御の術式といい、多分そう考えて良いのだろう。
「っ! なんて言ってる場合じゃねぇか!」サイスの体が沈みこみ、こちらに真っ直ぐに突きつけられるのは、グレイの銃口。サイスの作った結界の穴に向けて、小袋と弾丸が打ち込まれた。解き放たれるのは氷と水。よっぽど彼は自分を氷付けにしたいらしい。精霊は即座に翼を広げて上空に避けようとする。が、水と寒風を受けた翼は、かなり動きが鈍っており、タイミングが遅れた。直撃は避けられたが、片足に冷たい水が張り付き、凍りつかせる。「く、う…!」炎に焼かれるよりも「ヤバイ」痛みが走った。飛んだ事でサイスの接近は避けられたが、グレイにとっては格好の的だ。
ならば、地に降りる前に。「風の槍よ、地を砕け!」鎌を振るい、風で作った槍を地に叩きつける。地を叩いた衝撃で出来た石つぶてを、暴風で周囲に撒き散らす術だ。目くらましも兼ね備える術式を放ち、精霊自身は地に下りてグレイに接近する。地に下りた足に、激痛が走った。痛みを噛み殺すが、長く戦える自信はない。
翼を狙った気弾は相手側の紫紺の焔に止められてしまいます2対1での戦いの割にはなかなか戦況を有利に出来ませんもっとも相手の方も「もう一つの意思」みたいなものを感じ取れるのでそれほど優位では無いのかもしれません(いずれにしても翼へは攻撃が当て難そうですねなら、彼自身の方に狙いを変えましょう)ここで、突きを繰り出す相手に対しライさんが気弾で砂塵を巻き上げ敵の視線を邪魔します「今です・・・!」私は、相手の左後方へと回り込みそのまま地面を蹴って飛び掛りますそして、その勢いのまま、彼の背中に右拳を振り下ろしつつ彼の首を絞めようと左腕を巻きつけにかかりました・・・
連撃は手数が多い反面、一撃が軽い故に弾かれやすい。距離を置かれると何処か楽しげな笑みを浮かべたまま剣を構える。相手の剣には炎。‥どうやら炎で照らして影そのものを消すつもりらしい。「目の付けどころは良い。が‥生憎、俺の術は影を物質化するものもあってな」炎の灯りが及ぶ前に自分の影に術を発動させる。「物質化し影から切り離したモノは既に只の影に在らず。灯りなんぞでは消えんよ」影から飛び出し分離したのは四匹の黒い蛇。「往け。闇蛇走剋」陽光すらものともせず、蛇は相手の四肢に喰らいつこうと飛びかかる。それと同時に蛇を追うように此方も距離を詰め斬りかかった。
上空へと退避するシーファ殿。跳躍してももう届かない。この後予想できる行動は二つ。1つは上空から俺を攻撃する。もう1つはグレイ殿相手の近接攻撃。前者は俺の防魔を見ているため、可能性が高いのは後者。故に俺の最善の行動はグレイ殿へ近づくことだ、が。「ぐ、しまっ――」爆ぜる地面。衝撃と巻き上げられた地面に完全に足を止めてしまう。視界も限りなくゼロだが、俺にとって主眼は人の目ではなく魔力感知。その魔力反応が、敵がグレイ殿へと向かい、俺がどうやっても間に合わないことを知らせている。彼は見えているだろうか。俺にできることは唯一つ。「正面直ぐ近く!来るぞ!」言って走る。
弾丸が命中したか否か、それを確認する時間は無い。次にすべき事、そしてそれを実行する事が彼女に返せる最善。致命傷では無いが回避された訳ではない、反応を耳にした感じでは…少なくとも最悪の事態では無いようだ。「風の槍よ、地を砕け!」空を斬るような声が地を裂いた。その衝撃に思わず顔を上げるが…(見えない…?)あれ程明確だった的が。地と風の防壁に阻まれ狙いを定める事が―――完全に見失った………足音のような物が近い…しかし場所の特定は不可能。人間の眼など目に見える物しか捕らえる事が出来ない。眼に見える物は暴風と地の産物。
「正面直ぐ近く!来るぞ!」道に迷った視界を導くのは…人間とは異なる眼を持つ彼女の声。闇の中の二つの足音。近いのは…敵?「後は頼むッ!!」放ったのはたった1発の弾丸。小さな呪いの力。短い時間で込められたのはこれだけ。弾丸から漏れる黒い靄は商品価値が殆ど無い殺意の呪い。呪い系魔法の需要が無い為、生成に失敗した魔法を引き取った物だ。威力はせいぜい…風の楯を1枚、数秒消し去る程度。風を纏い直せば終わる、短い時間。敵が此方を向いていると言う事は彼女に背を向けている状況だろう。風の守りを数秒でも解く事が出来れば…彼女に攻撃の機会がある。
照らされていない影が、蛇へと姿を変える。剣の炎で、影を消そうとする。が、蛇は形を保ったまま。「うげ!消えねぇ・・・」どうやら、敵の術は影を物質化するもの。光で目ぼしい影を消して先手は打てても、具現化された影は消せないらしい。「なら・・・!」もはや炎には頼れまい。踏み込みの速度を上げる。2刀で蛇を叩き伏せる。目は、突っ込んでくる敵を捉えたまま。「面倒な技使いやがって!だが・・・面白い!」向かってくる敵を睨み付けて吼える。臆する、という言葉は、彼の辞書になかった。
敵との距離が縮まる。自分には、特異な術はない。ならば鍛えた正攻法で向かうのみ。敵との距離がお互いの射程に迫った瞬間一気に、深く、低く踏み込む。急激な速度変化と視界からの消失。相手の体は直ぐには反応できないはず。「面白い!あんた面白いぞ!」本当に楽しそうに。今までで、一番の強敵。戦しかしらない青年は、心底楽しそうに声をかける。「さぁ、お返しだ!」相手を見上げる形から、一歩ずつ体を回しながら相手にむかって踏み込み、突き・切り上げと、炎を纏った刃で連撃をかける。遠心力を纏った連撃は、通常の攻撃と同等に1撃1撃が重い。
突きの一閃は相手を捉え、手応えが伝わる。そこから追撃……とは、さすがに都合よくは繋げない。小さな気弾が作り出した目くらましに一瞬動きを止めた隙に後方から近づく気配、一つ。「……ったく、集中させろってーの!」『この状況で、無茶を言う……』「無茶を通して道理を貫くのがオレ流だっ!」そんな、漫才染みた主張していたのが悪かったのか──いや、間違いなく悪かったのだろう。背に入る、一撃。身体が僅か、傾ぐ。とはいえ。(あちらの本命はっ……)こちらの動きを抑えること、と読めたから。態勢の崩れ、それをそのまま、生かそうと。
衝撃に逆らわずに倒れこむ事で首を狙う腕をかわしつつ。槍から右手を離して地につき、そこを基点に身体を支え。「いよっと!」翼で揚力を作り、くるり、回転してから態勢を整える。「……つか、さすがに効いたか」距離を空けて槍を構えなおしつつ、ぽつりと呟く。気弾の衝撃、先ほどの肘を止めた時の反動、それから今の一撃。目に見える傷はない、が、内側に通ったダメージはそれなりに大きい。真紅のハチマキの下に、脂汗が滲んでいるのは、自覚していた。
「さって……どうしたもんか、ねっと」それでも、ダメージを受けた様子などおくびにも出さずに。余裕を感じさせる口調も崩さないまま、次の一撃を仕掛けるべき相手を見定め──。「……せいっ!」気合と共に、動く。近い方の相手──女の方へ突きかかる、と見せかけ。直前で槍を引き、横方向へと跳ぶ。羽根の撹乱を併用したなら、上手くフェイントをかけられるか、と思いつつ。剣を構える男へ向け、下から、掬い上げるように切り払いの一閃を放った。
『正面直ぐ近く!来るぞ!』背後から聞こえる声。人間じゃない事はわかっているから、視界を封じられても場所がわかるのは、特に驚かない。そして、銃声と共に、自分が纏っていた風の残りが剥がされた。「…む」だが、止まっている暇などない。滑り込むように彼に向けて鎌を振るい、すれ違う。踏み込んだ足が、妙に痛んだ。やはり火傷より凍傷の方が辛い。手ごたえなど、やっぱり気にしていられなかった。翼を広げ、急制動をかけ、振り返ろうと…いや、自分が振り返るのが先か、それともサイスが辿り着くのが先か。どちらにせよ、鎌を後ろに振るいながら、振り返る。
フィーナさんの攻撃をあえて受け、その勢いと共に自分に槍を放ってくる流石に今までダメージは蓄積しているだろうが、槍の一撃をまともに喰らう訳にも行かない!「そう簡単には…!」掬い上げる槍を剣で横薙ぎに切り払う何度もフィーナさんに任せていては彼女の負担も大きい…ここは…(連携して一気に叩く!こちらに気を取られているなら私が盾になれば良い!)かく乱されたフィーナさんが上手く動けるか分からないが、賭けて見るしかない左腕に闘気を集め、鉄杭をイメージし形成する無骨な鉄杭を男目掛けて振りぬいた「こいつで…どうだ!!!」
一瞬、風の流れが変わるのが分かった。視界を奪う前方の壁が微かに揺らめいたからだ。その小さな揺らめきを掻い潜るように現れたのは…死神を連想させる鎌と天使を連想させる有翼人の女。反撃の弾丸を込める時間は無い。感覚は恐ろしいまでに研ぎ澄まされ、眼は敵の動きをしっかりと捉えていると言うのに。無意識に取った行動は頭を庇うように両腕を掲げる構え。腕を犠牲にしても首さえ繋がっていれば生き延びれる。まだ死ぬわけには行かない。生き延びて最後に残した約束を果たす必要がある。生きて帰れるなら腕の1本や2本くれてやる。悪足掻きと悪運には定評がある方だ。こんな所で死んでやるものか!!
過ぎ去った一閃の風。「………?」何も起こらない。痛みすら感じない。余りの拍子抜けな展開にずれた帽子を直そうと腕を上げた刹那。何処かに亀裂が発生したような小さな音と水音。「………ぁ…」気の抜けたような息が漏れた。「………………っ」幸い、無事だった利き腕を咄嗟に動かし口元を塞ぐ。まだ繋がっているらしい左腕がガクガクと震えていた。無言の返事。痛みに叫び声を上げれば彼女がチャンスを捨ててでも助けに来るかもしれない。だが状況が許さない。このチャンスを逃せば…彼女は足手まといを庇いながら次の機会を待つ事になる。敢えて無言で答える。何も起こっていないと。
この先に彼女がいる。腕に魔力を溜められるだけ溜める。強化、そして敵に打ち込むための魔力を。肉眼でもわかるグレイ殿とシーファ殿の交錯。頼む、と知らず何かに祈っていた。だんだんはっきりするグレイ殿の姿……良かった。立っている。四肢も首も繋がったままで。安堵も束の間、無言で立ち尽くす相棒の脇をそのまま走り過ぎる。一瞬目だけを合わせ、そして先へと視線を戻す。すぐ視界に入った背中。瞬間思いっきり大地を蹴る。爆ぜる体はシーファ殿への距離を一気に詰める。……いや、違うッ
違う。詰めたのではない。詰まったのだ。急に動きを止め、振り向くシーファ殿。俺の行動が見えていたか、それとも偶然か。良い感じに刈り獲られるタイミングで飛び込む形になってしまった。強化した腕を迫り来る鎌に差出す。「――ッ」高密度の魔力に覆われているとはいえ、予想通り肉に達する刃。だが唯でやられるつもりはない。もう片方の腕を引き、そして前に放つ。先程の防魔の衝撃でいまいち力が入らぬが、それでも。徐々に食い込む刃。そして、繰り出す右の衝掌がとてもゆっくりと感じられた。
四匹の蛇は双剣のもとに斬り伏せられ霧散した。これは予想通り。ほんの数秒の間でも蛇に気が向いている隙に斬り込む。‥ハズだった。「しまっ‥!」一瞬にして視界から姿が消え失せ、逆に此方に僅かな隙が生まれる。其処に遠心力をもって通常攻撃と威力の変わらぬ連撃。後方に跳び避けようとするが、動作が遅れた故に2撃目の斬り上げは避けられても1撃目の突きは脇腹を抉った。
背中への拳の一撃はうまく相手を捕らえますしかし相手はその勢いのまま倒れ込んで私の首への攻撃をかわしました「やはりそう簡単には事は運びませんね・・・」相手は、そのままこちらに攻撃を・・・と思ったら直前で槍を引いて、そのまま横方向へと跳びライさんめがけて切り払いの攻撃を放ちました「くっ、羽根で撹乱ですか!?・・・ならば!」私は、素早く両腕で気弾を形成します、そして・・・「近距離の気弾を喰らって貰いましょうね・・・!」相手の体と脚を狙って2つの気弾を発射しました・・・
「くっ‥やってくれるじゃないか‥」脇腹が焼けるように熱くて痛い。否、本当に焼けているのか。存外まともに喰らってしまったらしい。「ふふ。すんなり勝たせてはもらえんか‥しかし俺にもプライドと言うモノがあるんでな」笑みを浮かべると体から黒い靄のようなものが立ち上り、剣を包み込む。そして次に姿を現したのは細剣ではなく‥クレイモアのような大剣。「今暫く付き合ってもらうぞ‥!」脇腹の痛みを堪えつつ駆け出し、上から叩き斬る様に振り下ろす。大剣は一撃が強力な分隙が大きいので、勿論そのフォローに即座に術が使えるようにはしておく。
初手の一撃に確かな手ごたえ。この戦闘が始まって、初めて敵に与えた明確なダメージが、その感触で伝わる。が、敵は追撃を上手くかわし、距離をとった。「くっ‥やってくれるじゃないか‥」そういう敵のわき腹には、確実に残ったこちらの牙の後。(接近戦なら何とかなるか・・・。が、近づくまでが難点、だな)ようやく、攻略の糸口が見えてきた。そう思い、双剣を再び一つの双刃剣に戻す。接近戦ならば、馴染んだタイプの装備を。そう考えていると、敵が動く。いつの間にかその手には、巨大な剣。「おいおい・・・なんだそりゃぁ・・・」思わずこぼれる声。
「今暫く付き合ってもらうぞ‥!」そういって、敵が駆け出す。完全に、驚いてい分の出遅れ。回避は間に合わない。受け止めるべく、押し戻すように双刃剣を突き出す。止めてしまえばこちらの物。「がっ・・・!?」しかし、思いとは裏腹に、重みとともに襲ってきたのは痛み。敵の剣は体を裂きはしなかった。何事かと目を走らす。左肩に乗る切っ先。腕が、痛みであげられない。どうやら、肩とはいかないが、鎖骨あたりが砕けたか。「くそったれが!!」痛みをごまかすように吼え、転がるように刃の下から抜け出すと自由な右手で、敵の腹の裂傷を狙って炎弾を放つ。
振り返る時に鎌を振り回すようにしたのは、警戒の為だったのだが。既にタイミング良く、サイスがそこに居たのには、逆に驚いた。「うわっ!」鎌に重い感触が伝わる。勢いがあった所為か、魔力の防御を抜いて、肉に到達したようだ。しかし、そもそも力が伴っていない為、更に焦って鎌を振り抜いてしまった為に、浅く斬るだけに終わってしまう。弾かれなかっただけ、マシともいうべきだが。そして、振り抜いた不安定な体勢のまま、風の防御も無い所に、サイスの衝掌が入る。無防備な胸に衝撃が走った。
「く…は……!」反射的に後ろに飛びのいたが、息がつまり、その場に崩れ落ちそうになる。(駄目だ、ここで倒れたら、二人の追撃が)もう一度地を蹴り、翼を広げて後方に大きく跳んだ。精霊は、グレイの傷を知らない。悲鳴も上げなかったという事は、上手い事防御したのだろう、と考える。「げほげほっ! ごほっ!」降りた先で、思わず膝を着き、激しく咳き込んだ。咳き込みながらも何とか立ち上がり、鎌を構えようとする。
「――つッ」腕を滴る鮮やかな紅。刈り取られると覚悟したが、何とか繋がっていたようだ。安堵した直後、痛みという嫌な情報が伝わってくる。予想していたより遥かに痛い。左腕は暫く使い物にならぬか。ゆっくりとグレイ殿の方へ後ずさりながらシーファ殿を確認。先程の攻撃は上手く入った。予想通りの反応を見せるも、すぐに立ち上がり戦う姿勢を見せる。やはり攻撃力の無さが痛いな。グレイ殿との連携により有利に事が運べているのだろうが、二人の決定力の無さは保証できる。だが、それを得るにはこの男に『敵を確実に死に至らしめる刃』を持たせることになる。正直それはあまり嬉しいことではない。だから。
「まだ続けるか?君は共に戦う仲間の為此処にいるのだと言ったね。だが彼等が君に一体何をしてくれる?今もこうして君は戦っている。にも関わらず誰も助けには来ない。明らかに我が軍よりそちらの数が多いにも関わらず、だ。そんな者達の為に、君は此処で命を散らすのか?ここで我々を殺すのか?」彼女の戦う意志を揺さぶる。これはグレイ殿には好まれないやり方だろう。同時にもう1つ、好まれないだろう行動にでる。すっと差し出す右手。『繋げ』と。いつでも剣として使い手の手の中に在れるように。彼にとって、それはきっと再び迫る悪夢。
戦う意志が無い訳では無い。遠い空に、想いを馳せる。病に倒れて、行けなかったのだ。余りに北国の寒さに…どれだけの人間が倒れただろうか…。雪が吹雪く中を、一人、また一人と倒れていく仲間を癒やし励まし、強い向かい風に声を掛けている神官の姿を見かければ、自ずと病に伏せがちな自分も何かをしなければと、無言で冷たい壁を塗りながら、胸元のクロスを握りしめ、頬を撫でていく冷たい風に溜め息を、つく。…足手纏いになる位ならば…いっそのこと、仲間の強さを信じて…『祈り』が届くように…
衝突、そして…彼女が口を開く。その言葉を精霊はどのように受け止めるのだろう。仕える国に拘りが無いのなら手を引いてくれるかもしれない。しかし、その逆だった場合は…?恐らく…自分が一人で戦い、命を落とす危険性に晒されても天翼の兵は見向きもしないだろう。天翼のバードマンは人間を憎んでいる。殺しても助ける事は無い。それでもこの国に居続けるのは守りたい仲間が居るからだ。人間ではない精霊が人間の味方をする理由。俺達には精霊の想いは分からない。お互いの考えがすれ違ったように。しかし、精霊にも何か強い想いがあるとしたら?……最悪の事態を引き起こす可能性がある。
彼女が差し出した手の平。それを受け入れ、精霊が戦う意思を見せた時…あの時と同じ事になるのだろうか。敵だった。攻撃しなければ首を取られていた。彼女を振るった結果、敵兵の腕は裂けた。あの後の事は知らない。もしかすると…腕を失ったままなのかもしれない。人が人を殺すのではない、戦争が人を殺すのだと言うけれど…俺と彼女が結果的に敵だった少女の腕を奪ったのは事実。出来る事ならお互い武器を下げて何も無かった事にしたい。そうでなければ…奪われるか、奪うかの2択を選ぶ事になる。もう、退く事が出来なくなる。彼女の声を聞きながら、そっと彼女の手に触れる。後は…返事を待つだけだ。
「んー、何でだろうな」精霊は、サイスの問いに対し、息を整えながら鎌を担ぐ。所属が違うのに、『気をつけて』と送り出してくれた家主。一生懸命後方支援しつつ、『応援しています』と元気付けてくれた、優しき小さな友人。『無事に帰って来い』と言ってくれた、黒服の闇司祭。眠りについていても、きっと心配しているであろう、蒼き魔族。この場に居なくとも、彼らは自分を想っていてくれる。「うん、まあ、あいつらが思っててくれるだけで、十分なんだよなー」独り言のように呟き、「そりゃっ」と担いだ鎌を二人に向けた。「直接助けに来なけりゃいけねぇか? 目に見える結果が出ないと納得しねぇか?」
「…ふふ、そうじゃない事ぐらい、わかってそうだけどなぁ」にぃ、と笑う。「んで、あんたらはどーすんのよ。誰も助けに来ない孤独で哀れな精霊を、二人でお手手繋いで倒すのか?」問われているのは覚悟そのもの。ならば。「俺は戦場に立ってる以上、色々失う覚悟は持っているつもりだぜ? あんたらにも……」その覚悟が、失わせる覚悟が、無いとは言わせない。大体、ここで退くのならば、最初の時にとっくに退いている。息は整った。風が、精霊の元に戻ってくる。先程剥がれた風の楯を再び纏い、精霊は二人に向けて鎌を構えた。
女から返される言葉。男が握る手のひら。一人は仲間の為に。そしてもう一人は多分俺のために。二人の『覚悟』を受け取った。ふ。本当に生き物というのは……何故にそうまで愚かしく、そして愛おしいのか。未だ腕を流れ落ちる赤い液体。それを見て思う。そう。そして俺も、多分その生き物の仲間なのだろう。「ああ、そうだ。誰も助けにこない孤独で哀れな君を今から我等二人で倒す」言葉にすることで全てを結びつけ、そして再び始めるとしよう。「残念だが俺は失う覚悟などしておらぬ。俺が常に覚悟しているのは奪うことだけだ」1つは命。そして1つは信念。その2つを奪い、俺は俺の目的を果たす。
サイス・エグザトースから魔剣エグザトースへ。漆黒の大剣は使い手としたグレイ殿の手に収まる。何時以来だろう。目覚めてから、初めて経験した剣としてのまともな戦闘。マスターを失ってから、戦闘で初めて使われたのがこの男だった。内容はどちらにとっても散々なもの。結果、剣は主の願いを捨て、自身の願いを選んだ。そんな二人。今回は上手くやれるだろうか。いや。上手くやるつもりなど全く無い。今、俺は俺の願いだけでこの姿をとっているのだから。それはグレイ殿にも伝わっているはずだ。俺の手に触れたあの心許なさからも解る。だが。"頼む、グレイ殿"この地を護る力を俺にくれ。
回避されることも考えていた一撃は、予想に反して避けられることなく受け止められた。手応えは充分。しかし次の瞬間視界に入ってきたのは、脇腹をめがけ放たれた炎弾。「この‥っ!」剣で受けるにも、大剣故にモーションが大きく間に合わない。相手とは逆の方向に跳びながら、斬られて飛べない翼をとっさに羽ばたかせ、炎弾を翼と風圧で叩き落とす。
翼の一部が焼かれる、嫌な臭いがした。勿論、神経も通っているからとてつもなく熱い。しかし脇腹の深い傷を焼かれるよりはマシだ。そして‥この機を逃すわけにはいかない。「まだだ‥まだ終わらん!」受け身をとると同時に術を発動、相手の足下の影から無数の黒い羽が空高く舞い上がる。「術式解放、影戯・黒翼陣ッ!」宙を舞う羽はその一枚一枚の形を刃へと変え、大地に降り注ぐ。‥‥我ながら嫌な術だと頭の隅で考えながら、再び剣を構え駆け出した。
(あぁ…そうか、君も同じなんだね…)『敵』である女の後ろに精霊を待つ仲間の姿が見えたような気がする。憎むべき敵にも同じ想いがある。だからこそ、余計に闘いたくは無い。こんな所で出会わなければ…きっと良い友人になれただろうに。こんな所で出会ってしまった以上―――「君を通せば…仲間の士気に悪影響を及ぼすだろう…」先ほどのように統率を乱される可能性は高い。「お互い退けないと言うのなら―――」退路は絶たれた。死にたくなければ奪うしかない。奪う事を拒むのなら、死を受け入れるしかない。「君とは…別の場所で会いたかったよ」漆黒の大剣…魔剣エグザトースを構える。
「独断……閃光ッ!」叫ぶ。一つは負傷した腕の痛みを誤魔化す為。もう一つは臆病な自身を奮い立たせる為。両手に魔剣を握り締め、自ら敵の元へ駆ける。いつもでは有りえない事だった。いつでも争いを避け…敵も味方も怪我をしないように努めて来た。常に逃げ道を探していた。でも今回は違う。敵も相棒も…覚悟を見せた。逃げ出せば二人を侮辱する事になる。以前はお互いの願いが反発し、お互いに傷を負った。今は…大事な場所を守りたいと言う願いは…同じ。魔剣を掲げ、敵の武器をめがけ振り落とす。武器を奪えば戦力は下がるはずだ。恐らく、武器を失っても立ち向かってくるだろう。その時は―――
放った炎弾は、器用に羽で叩き落された。体の焦げる、嫌な匂いが鼻を付く。「っち、羽・・・か」隙を突いて、敵とのある程度の距離をとり、呟く。わき腹の傷を狙った一撃は、上手く逸らされた。「さて・・・、左手がうごかねぇ・・・どうするか」双刃剣から双剣へ、というのは無理そうだった。片手では、出切る事も限られる。相手に何をしようか。睨み合いながら考える。そんな中、先に動いたのは向こうだった。「まだだ‥まだ終わらん!」敵の声。影の刃が複数表れ、しかも敵自身も一撃を食らわせるためこちらに向かってきた。
「っち!しゃらくせぇ!」悪態をついても、動く手は一本。防げる攻撃もどちらか一つ。「ならば・・・」迫る敵を見てにやりと笑うと敵に向かって走り始める。影の刃が、腕を裂き足を貫こうとも、速度を変えずに。「どうせ防御がままならないのなら、皮を切らせて骨をたつ!そいつが俺のやり方だ!」吼えながら突っ込み、手に持った双刃剣に風の刃を纏わせる。これならば、斬撃の範囲が広がる。「片腕だからって舐めんなよ!?」そのまま。今度はフェイントなしの直球勝負。真正面から、風魔法で範囲の伸びた突きを繰り出す。更に、柄尻側に付いた刃で、切り上げるような追撃を放った。
一閃は受け流され、一瞬、態勢が崩れる。「……っと!」このまま零距離戦に持ち込まれては叶わない、と一歩引いて、距離を開けた。槍を戻し、構えを直しつつ──感じたのは、複数の気の気配。一つは前、後二つは後ろ。上に抜けて同士討ちを誘うという選択肢もなくはないが、それは主義に合わない。『わざわざ優位を捨てずとも良かろうに』「るっせえ、性分だ……てめぇは大人しく、後ろのとめとけ!」呆れたような呟きを漏らす居候に返しつつ、意識は目の前へ。どちらか一方に集中しなければ、こちらが不利なのは変わらないのだから。振りぬかれる気の鉄杭は敢えて、避けず。相手へと槍を突き出す事に専念する。
『……まったく人使い荒い上に、自身を省みぬのだから、こやつは……』一方の居候はといえば、ぶつぶつと文句を言いつつ、防御の焔を巡らせる。相互干渉状態が長い。大きくは力は使えない。そも、居候の力は今振るわれている槍に、その大半が押さえられている。そんな状況での連続防御は、決してラクではないのだから。『……胴体への着弾は避けられるが……』足は無理だぞ、と。素っ気なく言いつつ、焔を巡らせる。身体を狙う気弾は辛うじてかき消せたものの──足を狙うそれまでは消せずに。槍が繰り出されるのと前後して、態勢が大きく、崩れた。
「奪う…か。うん、魔剣らしい言葉だ」失うのが覚悟ならば。奪うのは、権利なのかもしれない。それらは、きっと誰にも平等にあるもので――鎌を構えながら、人の姿が魔剣に変わるのを見る。漆黒の大剣。先程一瞬だけ見えたが、綺麗なフォルムだ。『君とは…別の場所で会いたかったよ』それを構える男性も、同じく奪う覚悟を決めたようだ。応えるように、精霊は微笑む。「俺もそう思う」これほど優しい人間には、なかなか会えないだろうから。そして。もう言葉は、自分達には必要なくなったようだ。
グレイが叫び、こちらに向かってくる。振り下ろされる魔剣は、精霊の鎌を狙っていた。「く…! こちとら魔剣なんて持ってねぇんだぞ!」精霊の大鎌は、確かに死神を連想させはするが、特に業物という訳でも、魔力が篭っている訳でも無い。だが、『魂葬』を司る精霊にとっては、鎌という形状が、自分の力を引き出してくれる。しかし、普通の店でも購入できそうなそれは、サイスの力そのものである、この魔剣の前では、棒切れ同然だろう。それでも、何とか軌道を反らそうと、鎌の背で滑らせようとする。だけど。魔剣の力、グレイの技量、両方とも精霊より遥かに優れているのだ。ましてや踏み込む足は負傷している。
当然…「うくっ!」鈍い音がして、鎌の柄がへし折れ、刃が落下する。「くそったれ!」女性の使う言葉じゃないが、訂正している暇はない。地に落ちる寸前で、鎌の刃を風が攫い、回転しながらグレイに向けて飛んだ。
衝撃。こみ上げる何か。じわりと熱い胸。両膝を地に付く。両手を地に付く。口から吐き出す赤いモノ。思わぬ攻撃に間に合わせる唯一の方法。とっさに戻った人の姿は使い手を庇うのに十分な大きさで。そう、この人の身体を盾に使うことにした。普通の人間なら此処で息絶える。が、俺は。エグザトースの魔力素体であるこの人体は強力な自己修復機能に護られている。だが、それ故に素体が傷つけば、それだけ魔力を失うことになり……まあ、それは良い。「この程度で、がふッ、ごはッ……グレイ殿ぉッ!」人は再び剣になる。敵の武器は潰した。だがまだ風の魔法がある。まだ終わりじゃない。まだ。
(やったか…!?)耳を劈くような金属音。武器を『奪う』これで接近戦用の武器は無くなった。他に隠しているとしても大鎌以上に厄介な物は隠していないだろう。恐らく。戦争中に油断をする事程愚かな事は無い。武器を奪い取った事で勝利を確信してしまった。その僅かな時間は大きな代償を生み出した。凶器が最期に放ったのは死の刃。腕を引くが、片手を負傷した腕の反応は鈍く魔剣を構える時間がない。水滴が地に跳ねる音がした。痛みは無い…痛みを通り越して感覚が無くなったにしては普通に立っている。何が起こったのか理解出来なかった。眼では事実を捉えているのに頭が付いて行かない。
少し遅れて軽い眩暈を起こした。頭が真っ白になるとはこのような時を指すのだろう。「あ…ぁ……うあぁああぁぁあああぁぁあっ!!」魔剣を高く掲げ振り落とす。当たっていようが外していようが関係が無かった。ただがむしゃらに魔剣を振り上げては『敵』に向かい振り下ろす。対象を定めきれない不安定な攻撃を繰り返す。頭では理解している。友人が戦場で散った事を後で知っても胸が痛むだけで正気は保っていた。それは『戦争で人が死ぬのは当たり前』だと冷静に受け止めていたからだった。理性で抑え込んでいた殺気。気が狂いそうな中で弱い心は強い決意を固める。奪い尽くしてやる、と。
自分の鉄杭を敢えて避けず、突き出される槍前門の虎、後門の狼と言った状態で全く怯まず繰り出される槍の切先を凝視する(何処に来る…!?)刺し違える…なんて事をすれば槍と鉄杭ではこちらの方が遥かに不利だ、致命傷に成りかねない突如、男が体勢を崩したフィーナさんの気弾が足に命中した様だ(まずい!)男の身体に向って繰り出した拳を瞬間判断で槍の切先に目標を変える交差する鉄杭と槍が火花を散らす左拳は槍の切先に目標を変えた事により、酷い裂傷を負う結果になってしまったが、命を落とすよりはマシだ剣での攻撃は困難と判断し、男を上空に投げ飛ばす為に相手の胸倉目掛け腕を伸ばした
降り注ぐ無数の刃を避けることもせず、真っ向から向かってくるのは予想済み。「真っ直ぐなのは好意に価するが、な‥」しかし驚いたことに相手の剣が纏ったのは炎ではなく風。即座に踏み込みを止め、横に凪ぐつもりだった大剣で突きを弾いた。だが柄尻の刃は見落としていたのか胸に追撃を食らい、視界に紅い飛沫が舞う。(やはり接近戦は不利か‥しかし‥)「くっ‥でぇぇりゃぁぁぁっ!」ギリっと歯を噛みしめ痛みを堪えると大剣を支えに思い切り蹴り付けた。
気弾は、脚の方に命中して相手がバランスを崩します私は、さらに追撃を仕掛けようと、相手をめがけて走り出します体勢を崩した相手に向かってライさんの腕が胸元へと伸びていきますどうやら、投げか打撃かを狙っているようですなら、私は無理に仕掛けずに、ここは相手の動きを確認してからライさんのフォローしたほうがいいようですね(さて、相手はどう動くでしょうね・・・)私は、相手の動きを見逃さないように見つめながら気をさらに両手脚に集中しました・・・
追撃に、手ごたえ。しかし、小さく舌打ちした。(浅い・・・っ)相手を行動不能にするにはまだ足りないと、すぐさま理解する。そして、反撃があることも。目の端に、迫り来る相手の足が映る。それはまるでスローモーションのように嫌にゆっくりと見えた。「畜生・・・っ」受身や防御は間に合わないと、理解したからこそこぼれる悪態。歯を思い切りかみ締め、蹴りに備える。次いで襲ってきたのは、強烈な衝撃。横へと吹き飛ばされる。左腕が動かない状態で、しかも手加減など望めるはずもない一撃。そのまま転がるようにして、地に落ちる。
「がはっ・・・かっ・・・」肺から強制的に酸素が逃げ、思わず咳き込めば、血が地面に飛び散った。どうやら口の中をしこたま切ったか。体中に、痛みが走る。(左腕は、もう我慢でどーなるモンでもなくなったな。アバラも、数本、逝ったか?)双刃剣を構え、ゆっくりと立ち上がりながら自分の状態を冷静に分析する。「お互い、酷い有様だな。だが、もー少しばかり付き合ってもらうぞ?」時間稼ぎに、相手に話しかける。呼吸を整え、意識を整理する。しかし、この距離は敵の距離。どうやって近づくか。暫く考え、にやりと、笑みを浮かべた。
今の距離は、相手の距離。どうしても、近づけなければ分が悪い。しかし、敵の影の攻撃は厄介極まりなかった。ならば、敵が的を絞れなければ?「仕掛けんのに時間はかかるが・・・やってみる価値はある!」双刃剣に、冷気を流し込み、構える。あたりの温度が、急速に下がるのがわかった。「さぁ・・・手品を、見せてやるよ」攻撃は仕掛けない。だが、その顔には何かしらの企みを匂わせる不敵な笑みをたたえて、相手に告げる。
自分が放った刃は、人と化したサイスに阻まれる。自分を楯にしたのは、それが最善と判断し、以後戦いに支障をきたさないと判断したからだろうが…それでも人と同じ血を流し、吐血する姿に、精霊は眉をしかめた。そしてグレイは。再び剣へと戻ったサイスを、がむしゃらに振り回してきた。「うわっ、と、ちょ、まっ!」(人の心ってこんな脆かったっけ…?)叫び、正気を失い、むき出しの殺気を振りまきつつ、剣を繰り出す男性。技も駆け引きも伴わない攻撃など、冷静になれば対処できる。いかに、得物が魔剣であろうと。更に、彼がもっと壊れる言葉を吐けば、自滅させる事も可能だろう。
離れつつ、術を使って対処すれば、倒すことも不可能ではないかもしれない。そういった状況を判断しつつ、精霊の取った行動は。「こっの…!」不規則故に、予測のできない剣戟に飛び込んだ。強い殺気を放つ眼を睨み付け、手の届く範囲へ。魔剣の鋭い切っ先が、翼を捕らえた。「ぐうぅぅっ!!」白い翼が紅く染まる。激痛が走るが、対象を捕らえた事で、相手の攻撃も一瞬だが止まるだろう。精霊は手を振り上げ、「目ぇ覚ませよこの馬鹿! 魔剣を名乗る奴がそんな簡単にくたばるかってんだ!」グレイの横っ面に叩き付けた。
良い音がしたかは定かではないが、そのまま胸倉に掴み掛かる。「てめぇもそんな簡単に壊れるんじゃねぇよ! あんた『覚悟』したんじゃねぇのか!? 俺達に見せてくれるのは、そんなもんなのかよ!」一気に怒鳴り散らし、少し落ち着いたのか、一旦相手から離れ、ポツリと。「そんなんじゃ、使われるサイスが可哀相じゃねーか…」どうしても嫌だったのだ。魔剣の…彼女の気持ちはわからないが、少なくともこんな戦いを望んではいないだろう。自分だってそうだ。だから、無茶した。相手に届くかわからない言葉を吐いて。
態勢の崩れが手先をぶれさせたのか、それとも共有状態を長く続けた疲労のためか。槍は払われ、更に態勢が崩れる。「ちょーっと、やべっ……」思わず呟いた言葉は、恐らく、相当呑気なものに聞こえたのではなかろうか。それはさておき。伸ばされる、手。それが何を目的としているのはわからぬものの──。「どっちにしろっ!」脚のダメージが大きい現状、地上でやり合うのが不利なのは明らか。となれば、選択肢は一つ。ばさり、と音をたてて黒翼が羽ばたく。手をぎりぎりすり抜けるように上へと離脱して、槍を構え直す。
「っかし、ってぇなあ……」距離を取ったところで、口をついたのはこんな言葉。いつもなら、痛みなどは強引に忘れるか押さえ込むのだが──今回は相互干渉状態が続いているせいか、多少、過敏になっているのかも知れない。平たく言えば、魂魄レベルで疲労している、という訳なのだが。「さぁて、と……ここから、どうしたもんかねぃ、と」言うまでもなく、引く気はない。始めた戦いに決着を着けないのは主義に反するし、『仕事』も成立しない。「……取りあえず……だ」地上で集中される気、あれをどうにかした方がいいか、と。そう、考えて。
「……居候、合わせろ!」『気軽に言うな……』「るせぇ、人の生命削ってんだから、そのくらいやってみせろ!」無茶な理屈を通しつつ、槍に闘気を集中させ。「……おらよっと!」掛け声と共にそれを振るい、放つ。標的は定めず、幅の広い気の刃を地上へ向けて。それに絡みつくように紫紺の焔が生まれ、刃と共に飛んだ。闘気の風と、魔法の焔の乱れ撃ち。そこに生じるのは、熱風の刃。これに、相手がどう出るか──。(どっちにしろ、そろそろやべーんだよなあ……)内心でこんな事を考えているのは、表情に出しはしなかったが。
自分の突き出した手は空を切る男が上空に飛び上がり、放って来た攻撃は闘気の風と炎の乱れ撃ちによる熱風の刃…フィーナさんの前に仁王立ちして、まだ動く右手に剣を持ち、全身全霊を籠めた闘気を剣に集中する「フィーナさん…防御は任せて下さい!」迫り来る熱風の刃…その刃に向って全てを籠めた闘気の真空刃を放つ真空刃と熱風の刃がぶつかり合い、熱風の刃はある程度かき消される…しかしある程度だ…残った余波が自分達に向って襲い掛かってくる
「例え無茶でも…成さねばならない事もある!」両手一杯に広げて、フィーナさんの楯になる様に熱風の余波を防ぐ全身に走る鋭い痛みと流れる血が熱い…何とか余波を防ぎきり、跪いて、微笑む「後は…お願いします」意識を保つがやっとの状態で男を見据えた…
ライさんの手をすり抜けた相手は、そのまま上空に舞い上がりますそして、彼より放たれた闘気の風と炎の乱れ撃ちによる熱風の刃がこちらに向かって襲い掛かってきます私はすぐに気弾で迎撃しようとしましたがそこへライさんが立ち塞がり真空刃を放ち残った余波を体全体で受け止めました・・・「ライさん・・・何て無茶を・・・」
それに続く言葉を今は飲み込んで、私は上空を見上げますそして、気を思い切りこめて地面を蹴って飛び上がりますそのまま、私は両腕に集中した気に氷の呪詛を込めて一気に10個程の氷気弾を形成します「さあ・・・ここは全力でいかせて戴きますよ!」私はすべての氷気弾を、相手の体全体に向けて発射しました・・・
思い切り脚を振りぬいたためにある程度の距離は出来た。しかし蓄積されたダメージと魔力の消耗により、追撃が出来ない。(思いの外、失血が厳しいな‥そう長くは保たんか‥)思案を巡らせていると、相手の言葉に次いで周囲の温度が急激に低下していることに気付いた。「炎、風の次は冷気‥氷属性魔法か?何ともバリエーション豊かだな」軽口を叩きながらも、どうも嫌な予感がする。もし予測が当たっているなら、深追いは危険。「ふふ‥ならば此方も隠し玉を用意しておくべきかな」笑みを浮かべ様子見のように、ひとまずは脚目掛けて【虚影突】‥一番最初に鴉の目を通して放った、物質化影術を再び発動させる。
"俺のことはともかく、確かに言うとおりだ。落ち着け"冷静に考えれば予想できたことなのだろう。心の傷というものは中々癒えぬもの。俺が、主を失うことを恐れたように。彼にとって仲間が傷つくということがどういうことかを理解していた筈なのに。結果、敵に塩を送られてしまった。甘いが、本当に面白い者だ。こういうところもグレイ殿には辛い要素だろう。見知らぬ誰かでさえ傷つけるのを恐れる男に、彼女が斬れるだろうか。"無理なら俺が戦う。まだ戦えるか、グレイ殿"俺がやる、などと言っても今人の身体に戻れば恐らく……だが此処で無理矢理戦わせても結果はみえている。今は彼の意思に委ねるしかない。
「炎、風の次は冷気‥氷属性魔法か?何ともバリエーション豊かだな」相手からの軽口。「こっちは、あんたみたいな特異な術なんかはないんでね。せめてバリエーションがねーと、生き残れないのさ」にやりと笑いながら、軽口で返す。が、気になるのは相手の笑み。(向こうも奥の手があるか。ま、当然だろうな・・・)そう考えていると、敵が動いた。戦闘始めにみた敵の術。技の発動には、まだ若干冷気が足りない。(間に合え・・・!)よもやこれで倒れるわけにも行かない。
数本の影の刃が、体を貫く。「やーれやれ、なんとか間に合った・・・」何処からともなく、声が聞こえる。と、同時に、一人、二人と大小様々な傭兵が、そこに現れ始めた。「どーだい、面白いだろ?」奇策の正体。それは、蜃気楼。冷気で冷やされた場所が、急激に暖かくなることで生じる、自然の作り出した幻術。「さぁ!そろそろ勝負をつけようか!」幻術が、一斉に声をそろえて叫び、敵に向かって一気に駆け出した。
影に貫かれた体は靄のように揺れ、微動だにしなかった。(やはり‥そう来たか)分身か幻術で惑わせた隙に攻撃を仕掛けてくるだろうとは予測していた。「しかし残念だな。所詮は蜃気楼。分身そのものに実体がある場合を除いて、本体にはあって偽物にはない物が2つある。君は気付いているか?」焦る様子もなくニヤリと笑みを浮かべて問い掛ける。その姿は水に潜るようにトプン‥と影に沈んだ。「1つは気配。もう1つは‥影、だよ」辺りの様々な影から声が響きわたり、本体であろうと目星を付けた1体の背後の影から静かに姿を現し、背中に斬りかかった。
戦場に出る前、彼女から受け取った手紙には…彼女の命が何年かで尽きてしまうと言う、そう書かれていた。長くて……何も無く平和に過ごして5年。その僅かな時間で彼女と言う存在は亡くなってしまう。魔力を失い…命が終わる。彼女が自身を治癒する時に魔力を消費するであろう事は魔術に疎い男にも理解出来た。故に重傷を負えばそれだけ…傷を癒すのに命を削る事になる。一体どれだけの命を削る事になるのかが想像出来ない。想像出来ないから余計に怖かった。生きて一緒に帰れないのではないか、と。此方も攻撃を仕掛けている以上精霊に非がある訳ではない。戦争だと分かっていても行き場の無い恐怖を抑えきれなかった。
目の前が真っ白な中、視界に映るのは青緑色の瞳と…翼を捉えた紅。左腕の負傷を忘れる程失っていた感覚を取り戻させたのは良い音を響かせる手。何処かに置いてきた意識を取り戻させたのは意思の強い声。「てめぇもそんな簡単に壊れるんじゃねぇよ! あんた『覚悟』したんじゃねぇのか!? 俺達に見せてくれるのは、そんなもんなのかよ!」再度、真っ直ぐな瞳と眼が合う。意思の強そうな綺麗な瞳だ。どうして命のやり取りをしている相手の為にここまで真剣になれるのだろう。そう思うと…紅く塗れた精霊の翼を見るのが辛かった。「君は…人が良すぎるよ…」腕よりもよっぽど痛む頬を摩る。
素手ではなく風の刃を纏った鋭利な手だったら…首を掠めるだけで殺す事が出来たはずだ。その機会を逃してまでどうして君は…「君は…真っ直ぐ過ぎる…そのうち命を落とす事になるよ…」片手で魔剣を構え、紅く染まった翼を直視して…「取り乱してすまない…もう、大丈夫だよ」お人好しな精霊と相棒に呟く。魔剣から感じる力は…気のせいか小さい。先ほど暴れた際に振るい過ぎた腕に感覚は無く、紅く塗れた左腕は動かない。恐らく『敵』も余裕が無いだろう。次に攻撃を交え、先に力尽きた方が………魔剣を構え、走り出す。重量のある大剣を片手で扱っているせいか、動きは鈍く太刀筋も安定しない。
ざわり、と、嫌な予感が背筋を走った。「分身そのものに実体がある場合を除いて、本体にはあって偽物にはない物が2つある。君は気付いているか?」余裕の口調で話す敵に、その予感は更に強まった。「1つは気配。もう1つは‥影、だよ」今まで目の前に捉えていた敵が消え、あたりに不気味な声が響く。(しまった・・・!影か!)敵の技は操影術。影の存在には、人一倍鋭いはず。そこを見落としていた。その場凌ぎで思いついた技の、弱点といってもいいだろう。
(どこだ?どこからくる・・・?)感覚を研ぎ澄まし、消えた敵の姿を探す。次の瞬間、感じたのは背後からの殺気。素早く体を入れ替え、敵を正面に捕らえると、既に刃が迫っていた。防御も、回避も、間に合わないだろう。「くそ・・・!」愚痴がこぼれ、走馬灯が頭をよぎる。が、直ぐにそれを振り払った。目に湛える光が強くまし、敵を唱える。「強い!楽しい!アンタ、最高だよ!」そう叫びながら、敵の刃をかわしも受けもせず、寧ろ敵に向かって踏み込んだ。がつんと、肩に衝撃。そして痛みが走る。しかし敵の刃は肩を裂き、食い込みはしたものの、両断するまでにはいたらない。
剣は、刃の切先で敵を切る。しかし、恐れず踏み込み一撃を刃の地で受けることで、力の入りきる前に一撃をうけ、斬撃としての威力も殺せるのだ。「残念だったな?大剣にしてれば、今頃俺はお陀仏だったのになぁ?」強気な口調とは裏腹に、顔面は蒼白。だが、まだ倒れられない。話しかけながら、相手の足の間に更に一歩を踏み込む。そうすることで、敵の下がる動作もよける動作にも障害となり、その行動を遅らせられることを知っているから。
「つまるとこ、俺は本当に接近戦向きだ。策を練って戦うなんて似合わない真似、するんじゃなかったのかもなぁ・・・」踏み込みながら更にぼやく。その顔にはもはや、精力はない。気力と、体力。根性と意思。それのみで動いている、そんな顔。「さぁ、相棒。いい加減疲れた。これで、仕舞いといこうや。」態々、敵からこちらの得意とする至近に踏み込んでくれた。ここまで来て、逃がす気はない。残る体力と気力の全てを持って。敵の腹部に向かって、渾身の突きを繰り出した。何の変哲もない突き。だが、至近では最も避け難く、威力を発揮する一撃を。
叩き込んだ熱風の刃は真空刃に相殺され。打ち消されなかった熱風の余波は──。「おー、やるねぇ」思わず口をついたのは、こんな呟き。他者を身を挺して庇う──というのは、自分には無縁の行動だからか、他に理由があるのか。口調は、軽い。とはいえ、茶化している余裕は当然の如く、ない。跳び上がって来た女の纏う気、そこに込められる氷の気配。形成された氷気弾に、文字通り血の気が引いた。「……さすがにっ!」あれを全弾喰らっては、無事でいられる自信はない。ここで取れる選択肢は、一つ。
ハチマキを解いて槍に結びつける。『封魂』の強化。いつもは文句を零す居候も、今回はさすがに静かだった。単に、突っ込む余裕がなかっただけかも知れないが。「まともにゃもらえねえっての!」一つ、羽ばたいて多少なりとも距離を稼ぐ。零れ落ちる、光の黒羽根と闇の白羽根。避けるべきは、翼と、急所への直撃。それだけ凌げれば──。「……上等っ!」相手が全力と宣言したからには、こちらも全力で応ずるのは戦場の礼。意識を凝らし、蒼い焔の壁を作り出す。
壁は幾つかの気弾を止めるものの、先ほどの同時攻撃の時点で、かなり消耗は大きかった事もあり。全弾は、とめられない。壁を突き抜けてきた気弾の幾つかが、衝撃を伝えてくる。気だけならまだしも、冷気の与えるダメージは冗談事ではない。翼と、急所への被弾は辛うじて免れたものの、それ以外はまともに入り、結果。揚力を維持できずに、落ちた。「……ってぇ……」地上に落ち、それでも倒れこみはしないのは、意地の領域。片膝を突いた姿勢で真紅を結んだ槍を構え、蒼と紫の瞳で眼前を見据えた。
『君は…人が良すぎるよ…』『君は…真っ直ぐ過ぎる…そのうち命を落とす事になるよ…』「わかってるけどあんたに言われたく無い」くく、と低く笑う。本当にお互い様だ。似た者同士なのかも知れない。『取り乱してすまない…もう、大丈夫だよ』片手で魔剣を構えて告げる男性に、精霊は黙って頷いた。(お互い満身創痍だな)片手で持った、と言う事は…もう片方の手に何か隠している、という訳ではなく、多分負傷した上に無理に動かし、握る事が出来ないだけだろう。だが、こちらも人の心配など出来る状態ではない。武器は失い、足も翼も負傷。はっきりいってかなり辛い。
「……や、前言撤回。やっぱ俺、あんたよりずっと馬鹿かも知れない」良くまあこんな状態で、相手に発破かけられたもんだと苦笑する。それでも。精霊は風を纏い、身構えた。一応、体術の心得は無いことも無い。こちらに走ってくる男性を見据える。思った通り、片手で大型剣を振るうのには、バランスが悪そうだ。「一陣の風よ吹け!」武器を振るうタイミングで突風を吹かせ、続けて踏み込んだ。今度は平手打ちではなく、風刃を纏った拳を一閃する。踏み込みが足らない体術など当てにならない。牽制に近い攻撃だ。必死に相手の動きを探りながら、精霊は風の護りを強化した。
空から落ちてきた男は、未だに槍を構え色違いの瞳で自分達を見据えている殆ど意地の領域だろう…もし戦えるならこちらに止めを刺している筈だ跪いたまま、男に話し掛ける「これ以上の戦闘は止めにしましょう…恐らく…互いに手詰まりではないですか?」軽口ではない…本音だフィーナさんは戦えるかもしれないが、自分がまずい出血と痛みもあるが…ちょっと心配を掛けすぎたかもしれない
「出来れば…停戦して頂けるとこちらも助かります…命まで奪うつもりありませんし、それに…治療が必要なのは貴方だけではないですからね…」頬をかきながら停戦の意志を伝える…心配を掛けているであろうフィーナさんにも「ご心配お掛けしました」冷汗を流しながら二人の反応を待った
私が放った全力の氷気弾を何発か受けた相手は揚力を維持できずに地面へと落下しますそれでも、彼は片膝を突いた姿勢で槍を構えます(まだ戦うつもりのようですね・・・なら再び上空に逃れる前に攻撃を仕掛けましょう!)私は、地面に着地後、すぐに相手に向かってダッシュしますしかし、そこでライさんが相手に停戦を申し出ます(やはり先ほどのダメージが大きかったんですねなら、あまり戦闘を引き伸ばす訳にもいきませんねさてさて、お相手の方はどうでるでしょうか?)私は、相手の手前で立ち止まりますそれでも、戦闘態勢だけは解かずに相手の出方を伺いながらライさんの申し出の返事を待ちました・・・
静かに振りおろされた刃は直前に体を反転、逆に踏み込まれ勢いを殺される形となり、懐への接近を許してしまった。(この土壇場で‥良い判断だ。大剣の解除が仇となったか)感心する反面、ここまで超至近にまで踏み込まれ、冷静に考えながらも焦りの表情を浮かべる。否、本当に冷静に考えられていたなら、即座に術でフォロー出来るはず。ぼやきと最後の一撃だと言わんばかりの台詞に、反応が遅れていた。
次の瞬間、腹に打ち込まれる拳という名の武器。「か…は‥‥っ」痛い。苦しい。物の見事に鳩尾へと入り、血なのか何なのか分からない物がこみ上げてくる感覚がした。しかし‥これで堕ちるのはかなり悔しいものがある。「釣り、だ‥取っておけ‥っ!」ぐっとこみ上げてくるものを堪えると剣を手放し、おもむろに相手の服を掴み近くの木へと思い切り投げ飛ばし‥自分は膝から崩れ落ちた。
着地後、こちらに駆ける気配に一つ、息を吐く。後一撃、打ち込めなくはない──が、制御する自信はないかも知れない。この状態で気絶すると、恐らくは事後処理が厄介な事になるため、どうしたものか、と思ったその時。投げかけられたのは、停戦の申し入れ。「……まあ、手詰まりっつーか。 ぶっちゃけると、後は殺るか殺られるかの最終選択っきゃねー、ってのは、確かかねー」構えは崩さぬまま、口調だけは軽く、返して。
「で、俺の方は殺られる気はねーし。 ついでに、戦う気のない相手に無理に仕掛けるのも、趣味じゃねーんだよな」戦場に身を置く最大の理由は、気迫の交差の中に見出せるモノ──ぎりぎりの緊張感や駆け引きなどを楽しみたい、という気持ちがあるが故。勿論、身を置く陣営に義理を全く感じていない、という訳でもないのだが。とにかく、そんな気持ちが根底にあるから。戦意のない相手に挑むのは、主義に反すると言えて。「……そちらさんが、それで問題なしだってんなら。 こっちは、引くに問題ねぇよ?」真っ直ぐお帰り願う必要だきゃ、あるけどな、と。冗談めかした口調でさらり、こう返した。
相手の方は、まだまったく戦闘不能という訳では無いようですしかし、ここで彼は戦意が無いなら引くと言いますその代わり、私達に真っ直ぐ帰ってくれと言いました「そうですね・・・では私達の戦いはここまでにしましょうかでも、真っ直ぐ帰る前に一つだけお付き合い下さいね」そう言うと、私は構えを解いて相手の方へと近づきますそして、気を纏った両手を氷気弾の当たった所に付け治癒の気を流し込みます
「これで氷の呪詛も解けて、効果や痛みも治まってくると思いますよ後は、お国の看護師さんにお願いして下さいね♪・・・で、もちろん私はいつでも殺られる気はありませんよ機会があった時には必ず勝たして貰いますので・・・♪ではでは、その時まで・・・♪」私は、彼に一礼して振り返るとライさんの元に駆け寄ります「さて、こちらの方が怪我が酷いですよね・・・とにかく応急処置を急ぎましょうか・・・」私は、そう呟くと治癒の気をライさんの傷口へと流し込み始めました・・・
地に伏した一人の兵士。傷付き動けぬ死にゆく兵士。手当てをすれば万に一つの可能性はあるけれど。苦しみに呻く彼を私は静かに見下ろした。彼の目に浮かぶ警戒。こんなになってまで彼はまだ戦いを諦めないのだろうか。それとも、それ程に死が恐ろしいのだろうか。何れにせよ私にはわからない。だが、せめて安らかにと思うのは傲慢さか。「恐れる必要はありません。あなたの命は精霊の糧に、そして世界に帰る」だが、彼の警戒は消えない。理解できなくても仕方ない。それは当然の事。こうしている間にも彼の命は無駄に流れて消えていく。説明の暇は無い。「あなたの命、戴きます」私は彼に手を翳す。
フィーナさんが自分の身体に治癒の気を流し込んでくれる…応急処置のお陰で、一先ず出血は止まった治療してくれたフィーナさんにお礼を言う「ありがとうございます、フィーナさん…無茶してしまって、すいません…」心配を掛けたことを謝り、そして男に向って話し掛ける「こちらの停戦の意を汲んでくれてありがとうございます戦えた人が貴方の様な高潔な方で本当に良かった」頭を下げる、今出来る最大限の礼だフィーナさんの治癒の気を受け、そっと目を閉じる少し顔を上げて、空を仰いだ…
『もう大丈夫だよ』その言葉を信じ、駆けだした男に全てを託す。片手で持つ俺は今まで以上に危なっかしいのだが、それでもきっと大丈夫。グレイ殿。我侭を言ってすまなかった。改めて、君はやっぱり戦うべきではないと思う。シーファ殿に言える立場ではない。君もだ。君もそんなことでは何時か命を落としそうで。俺は心配だよ。君は俺の存在を知るもう数少なくなった友人の一人。せめて君には、長く生きて欲しいと思う。だからこそ、今だけは。迫る敵。俺は魔剣としての最後の役目を果たそう。刀身に幾重にも浮かび上がる魔法陣。それは切っ先へと集まり……溜めの状態に入る。恐らく最後の、世界を断つ刃。
打ち抜いた一撃に、確かな手ごたえが伝わる。放ったこぶしは、的確に敵の鳩尾にめり込んだ。(終わりだ・・・。勝った・・・)その一撃に、そう確信する。それほどの手ごたえだった。そして油断が生まれる。「釣り、だ‥取っておけ‥っ!」その声が、一瞬、何処からの声か理解できなかった。そして、足が地から離れる感覚。自分が投げられたのだと、ようやく気づくが、もはや抵抗できず。(まだ動けたのかっ・・・)油断をしたうかつな自分を呪う。戦場での油断は一瞬たりとも死を招く。それはよく知っていたはずなのに。
飛ばされて、宙を舞う間が嫌に長く感じる。そして、背中から木にぶつかり、後頭部をしたたか打ちつけた。「ぐっ・・・がはっ・・・」視界が揺れ、木にもたれかかるように崩れ落ちた。視線の先で、敵も同じように崩れている。暫くの沈黙。「あ〜・・・くそ!体がうごかねぇ・・・」空を見上げて、ポツリと呟く。物資を燃やしつくし、火はいつの間にか消えていた。「アンタ、楽しかったぜ。で、どーする?俺はもう、動けそーに無い。捕虜にするなり殺すなり、好きにしろ」手足をだらしなく投げ出したまま、敵に声をかけた。
どうして言葉を持つ者同士が殺しあうのだろう。言葉で間を紡げば誰かが何かを失う事など無かっただろうに。敵として会いたくなかった女に凶器を振るいながらそう思う。娘が生きていれば女と同じくらいの年頃だろう。戦争に娘を奪われた男が、娘と同じ年頃の女と命を奪い合うなんて皮肉な物だ。きっと戦いに生きる者なら、戦いの結果がどうだろうと名前を留める価値のある相手だと感じたのだろう。「一陣の風よ吹け!」強い声と巻き起こる突風に不安定な起動がずれる。幸い、両足が無事だった為に踏み止まるが、突風に煽られた腕が防御の構えを取るには間に合わない。「……っ!」風の刃が頬を深く裂く。
紅い飛沫が飛び、片目を塞ぐ。幸い、頬を深く切っただけだったようだ。風の刃を纏った拳が直撃していたらと思うと背筋が寒い。利き腕に感じる魔力。あぁ…とても良く覚えているよ。いつだったか、皆で閉ざされた地の事件に巻き込まれた時だったね。色々と大変だったけど、君の魔剣としての力に助けられた旅だった。あの時の仲間はもう俺と君と緋色の闇天使しか残っていない。そして君も…ココで魔力を使ってしまうと言う事は―――どんな結果になろうとも、最期まで見届けよう。世界を断つ刃 エグザトース・断世殆ど役に立たない左腕と利き腕でしっかりと彼女を支え、腕を振るう。二人で生きて帰る事を願って。
最後の力を振り絞り投げ飛ばしたあと膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れていた。「ふっ‥動けない割には元気があるじゃあないか‥」聞こえてきた問いかけに笑みを浮かべながら何とか仰向けになる。「生憎だが、俺も暫く動けん。城に戻る分には、連れがいるから問題ないがな‥」空を見上げれば、ずっとほったらかしだった大鴉が旋回していた。「何なら‥送ってやろうか?」全力を出し切りすっきりした思考では、戦闘後でもこんな事も言えるんだなと頭の片隅で考えながら、笑みを浮かべて冗談を投げかける。
一つだけお付き合い、と言われても最初は何の事かわからずきょとり、としていたのだが。流れ込む癒しの気に、氷の衝撃が和らぐのを感じて、無意識の内に、安堵の息を漏らす。「……っつーか、殺られる気で戦場出てくるってのも、どうかしてる気がするが」一礼して、男の方へと駆け寄る女の背に、ぽつり、呟いて。立ち上がるのはやや厳しそうだったので、直接舞い上がろうか──と、思った矢先。「……はぁ?」予想外もいい所の言葉を向けられて、思わず惚けた声を上げていた。高潔……というのは。多分、自分に一番似合わない表現で、思わずきょとり、としてしまう。
「……おっもしれぇの……」一つ瞬き、続いて零れたのは、笑み。ともあれ、このままここにいても仕方ない、と翼に力を入れて舞い上がる。「……っと。そういや」地上を離れた所で、ふと、ある事を思い出す。「すっかり忘れてたが……オレは、ゲイル・レイウィンド。 黒翼の槍手、なんて呼ばれ方もする。 またどっかであったら、ま、そんときゃそれなりによろしく」大雑把に名を告げ、上空へと。それでも、すぐに本陣に戻りはせずに。戦況を確かめつつ、しばし、蒼穹に留まり……風の気をぼんやりと取り込んだ。
サイスの…魔剣の刀身に魔方陣が浮かんでいく。彼女の力が、解放されていくのだろう。そして、グレイの左手が剣に添えられ。間違いなく、自分を奪うための、最後の攻撃。計り知れない魔力は、きっと今の…鎌を失った自分の風の防御など、やすやすと斬り裂くだろう。ならば、それを避ければ…いや、どういう効果の力なのかわからないのだ、避けきれるとは限らない。考えてる暇などない。引くか踏み込むか。どっちかに賭けるしかない。精霊は風をもう一度呼び、剣を振るグレイに、飛び込んだ。芯を外せば、急所だけは免れるはず。そもそも、この程度の傷で帰れる等、思ってはいない…!
剣は風の護りを斬り裂いて。精霊の身体に袈裟懸けに、決して浅からぬ紅い刻印を刻み込む。「ぐ…あああぅっ……だがっ!」痛みに顔を歪めながらも、精霊は相手をにらみつけた。斬り裂かれた風の力を、呼び戻して全てを無数の刃に。「ただでやられやしねぇぜ!! 風よ、刃の嵐となりて舞い踊れ!」精霊を中心に、風の刃が踊り狂う。…出来るのはこれまで。精霊は、崩れ落ちるように膝をついた。(…はは、やっぱり身体の脆さは致命的だなぁ……)嗤いたかったが、代わりに出たのは吐血。後は…、彼らがとどめを刺しに来るのを待つ事しか出来なかった。
「ふっ‥動けない割には元気があるじゃあないか‥」こちらの問いかけに、そう返事が返ってきた。「ははっ・・・たしかに、そうだな・・・」自分でも、思わず笑ってしまう。笑った振動で、体中に痛みが走ったため、その笑い顔は偉く歪んでいたが。「生憎だが、俺も暫く動けん。城に戻る分には、連れがいるから問題ないがな‥」その言葉に、相手と同じように空を見上げた。大鴉が、頭上でくるくると優雅に飛びながら待機していた。「ああ、そういえば、アイツもいたんだったな。すっかり忘れてたぞ・・・。しかし、ほったらかしで、きっと寂しがってるぜ?」懲りずに笑いながら、そう軽口を飛ばした。
「何なら‥送ってやろうか?」相手から、軽い口調でそう言われた。「はは。そいつは魅力的だが、運賃払えるだけの手持ちはねーぞ?」こちらも冗談で返す。先ほどまで殺し合いをしていたというのに、何か不思議な気分だった。「それに、まだ周りは戦ってる。奴らを置いて、先には帰れねーよ」とはいえ、自分はもう何も出来ないのだが。暫くして、そーだ、思い出したように、話を切り出す。「そういえば、お互い名乗ってなかったな。俺は流れで傭兵やってるフォルカスってんだ。アンタは?」戦場で、死力を尽くして戦った相手の名を、是非知りたかった。
ライさんの治療をしている背後にて彼は何かを呟きながら空へと舞い上がりますそして、直前に自分の名前を言って上空へと飛び立ちます私は、それを眺めながら思いました・・・「そう言えば、今回は私、ゲイルさんに名乗ってませんでしたねまあ、とりあえず自己紹介は次回逢えた時にしましょうか・・・」その直後、大きな歓声が聞こえ、項垂れる味方の姿が目に入ります「どうやら残念な結果に終わったようですね・・・」私は、大きく一つ深呼吸をして顔を上げます・・・そして「一応ここは敵地ですし、早めにここを離れましょうか・・・」私はそう話しかけながら、ライさんへと手を差し出しました・・・
「一応ここは敵地ですし、早めにここを離れましょうか・・・」フィーナさんの言葉と、差し出される手その手を取り、立ち上がる「そうですね…早くこの場を離れましょう撤退が一番体力を使いますからね…フィーナさんのお陰で、何とか撤退する体力は回復しましたから、何とか帰れるでしょう…」撤退を始める帝国軍、敗戦してしまったのは致し方ない事だ今は生きて帰る事が重要だ「さて…帰りましょう!…撤退時は無理しない様に気を付けますね…」フィーナさんの手を握り、ゆっくりと戻るべき場所に進み始めた…
刃はシーファ殿を覆う風の防御壁を切裂き、彼女へと到達した。だがそれは死へと至らしめる刃にはならず。恐らくはあの防御壁。その効力を打ち消す分だけ、彼女への攻撃は浅くなってしまった。そして敵の目に宿る力。迷う時間も必要もない。俺はやるべきことをやるだけだ。再び剣から人へ。左手に思いっきり魔力を溜め、そして打ち放つ。もちろんシーファ殿……ではなくグレイ殿へ。……上手く範囲外へ飛ばすことが出来ただろうか。あちらこちらから斬りつける風の刃に身を委ねながら、そう思った。
先には帰れない。その言葉に、それもそうかと内心頷きつつ。遠くからは勝どきが聞こえる。どうやら天翼が勝利したらしい。「さて、周りもぼちぼちケリがついてきたみたいだな。」痛みを堪えながらゆっくりと体を起こせば、上空を旋回していた大鴉が傍らに降りてくる。『主‥今回俺の出番これだけかよっ?!』「前回先走って負傷したのは誰だ?」『うっ‥‥』話しながら大鴉は自身の術でその体を更に大きくし、己の主人を背に乗せた。
大鴉の背に凭れ、さて城に戻ろうかと言うときに投げ掛けられた言葉。それに僅かに笑みを浮かべながら答える。「俺は影術士の藤宮だ。今は縁あって天翼に身を寄せているが‥その内、同じ国に仕官することもあるかもな」言い終わるか否かのタイミングで大鴉が羽ばたき、ゆっくりと空へ。「あぁ、そうだ。‥ちゃんと仲間に迎えにきてもらえよ?じゃあな」最後にニヤリと笑みを浮かべ、勝利に沸き立つ自城へと飛び立った。
逃げる訳でも無く避けるわけでも無く、敵が取った行動は飛び込む事。賭けに出たのか、それともまだ戦う意思を持つのか…風の護りを絶ち、敵の肉をも絶つ刃。嫌な感触を感じながらも勢いは止まらない。痛みに上がる声に表情、思わず目を背けたくなる…がその瞳に宿っているのは光。この戦士はまだ諦めていない…!?臆する事を知らないのか、それとも心が強いのか。一矢報われる、そう覚悟した瞬間。走った衝撃は予測出来なかった方角からの一撃だった。死ぬような痛みではない。強く突き飛ばされただけだった。痛みを伴う攻撃ではなく、痛みから護る為の攻撃。「君は…」君は馬鹿だよ…
身を裂くはずだった風の刃はかする事無く。魔剣のままで居れば傷付く事が無かった彼女の身を裂いた。「サイスさんっ!!」弾かれるように走り出すのとほぼ同時に起こる歓声。どちらかが勝ち、どちらかが負けた。だがそんな事はどうでも良かった。片手で不器用に詰めた弾丸を一発。淡い碧の光。血止めと痛みを和らげる癒しの魔法。だが、ただそれだけだ。これ以上の出血と痛みを緩和させるだけで物語のように完治をさせる事は出来ない。人間と体の構造が異なる魔剣だと分かっていてもこうするしか思いつかなかった。そのまま次は敵に銃口を突きつけ…口を開く。
「帝国と翼騎兵の戦争が終わった以上、争う理由は無い 退いてくれ…退いてくれるなら君の痛みを和らげる事くらいは出来る まだ立ち向かうと言うなら…俺は『敵ではない』精霊を撃つ事になる…」此方の提示するものは『退く事を条件に癒す事』と『牙を向いた時への警告』銃口はいつでも発砲出来るように相手に。指は引き金に軽く添えて。甘いと馬鹿にされても構わない。それよりも大事な事がある。もう闘えないだろう相手の命を奪うよりも、仲間を助ける事を取る。仲間を大事に思う精霊なら…同じ想いを抱える者ならきっと理解してくれる。敵であった者を信じて淡い碧色の魔力を込めた銃口を突きつける。
舞い狂う風の刃の中で、魔剣が人となって、男性を庇う。(…馬鹿……、庇わなくても、もう俺の風は…)肌を斬ることはできようが、肉を裂いて骨まで到達出来ない。鎌を失い、負傷した精霊は、もう、その程度しか反撃できないのはわかっていた。精霊が膝を付いて、魔剣だった女性に銃を撃つ男性を見つめていた時。ふと、風向きが変わって、狼煙が見えた。帝国の、敗戦の狼煙。「…負けちまった、か」小さな呟きは、相手の国の歓声に打ち消される。グレイは、銃をこちらに向けて、退去勧告をしてきた。「や、俺の国負けたっぽいから」台詞を遮る様に彼に手を振る。
跪いていた状態から、胡坐をかいて座る体勢を取る。口に溜まる血が気持ち悪く、それを地面に吐き落とした。「捕虜にするも始末するもご自由に。俺、もう動けない。翼もこんなだしね」覚悟を決めていた、ということは、こういう意味でもある。逃げようにも逃げられない、というのもあるが。「あと、サイス大丈夫かな。最後のアレ、全然威力出てなかったと思うんだけど。 俺の事はどーでも良いってんなら、見てあげなよ」胡坐をかいて、ご丁寧に両手を挙げたまま、精霊は心配そうに傷だらけの女性を覗き込んだ。自分の身の心配は…あまりしていない。理由は言わずもがな、である。
「あぁ、そうだ。‥ちゃんと仲間に迎えにきてもらえよ?じゃあな」それだけ言い残して、藤宮と名乗った影術士は空へ帰っていった。「藤宮・・・か。覚えておこう・・・」姿が確認できなくなるまで見送ると、剣を支えにゆっくりと立ち上がった。「ぼろぼろもいいとこだな・・・」自分の姿を見て、思わず苦笑する。完治には暫くかかりそうだ、と、他人のように心のどこかで感想を漏らし。「さ、俺も帰るか・・・」小さく呟いて、剣を杖に、ゆっくりと自国へと歩みを向けた。
「終わった、か……」風の伝える声に、小さく呟く。先ほどまでやり合っていた二人も、撤退していくらしい。……ほっとした所に走る、痛み。身体から何から……さすがに色々と、響いた。『……自業自得だ』ハチマキを槍から解くなり、魂魄の居候の声が聞こえて来る。「るせぇ、いつもの事だ」それに素っ気なく返して。「さぁて……帰ると、するか」一つの終わりは一つの始まり。まだまだ、のんびりとする事はできない、と思いつつ。漆黒の翼が大気を打ち、蒼の先へと、消えた。
「……」崩れ落ちる寸前に聞こえる歓声。耳障りだが心地が良い響き。そう、我々は勝ったのだ。この地を護った、そして友も。……。もう、良いか。もう我が役目は果たせたよね。主を死なせた負い目を人としての俺に擦り付ける時間はもう終わり。これで思い残すことは何も無い。――さようなら。そして、ありがとう。再び君達命ある者達と接したこと、とても楽しかった。本当に、ありがとう。
なーんて、終ってたまるか!「ふ、強がってないですぐ医者に診せた方が良いぞ。我が刃は魔を断つ刃だ。精霊にも……おぇ、げほ」ゆっくりと上体を起こしながら語る。と同時に喉から嫌な味がこみ上げてきた。ち、最後のはともかく、胸を貫いた一閃は効いた。過去一度やらかしているだけに回復効率は良いが。それでも、自己治癒できない部分の修復は動けるまで相当時間がかかる。「あ゛ー……グレイ殿?その者が良ければ病院に連れて行ってやってくれ。俺を連れて帰るのはその後で良い」俺は放っておいてもそのうち治るから。だが流石に当分動けぬようだから絶対に迎えに来い、と。言いたいことだけ言って寝ッ転がる。
空を見上げる。いつかもこのようなことがあった、とふと思い出し笑う。「げふっごほっ……うー、笑いすぎた」でもきっとこれで終わり。この地で笑うことも。戦うことも。全て。出会いの前には別れはつきもの。残された時間を有意義に使うため、俺は別れを選んだ。だから。いや、だけどもう少しだけ。この地で遣り残したことを。約束を、守る為に。(でも、やはり作るよりは食べる方が良いな)
「………ふぅ」安著感から零れる吐息。どうやら、終わったらしい。恐ろしく長く感じたこの戦いが。不謹慎かもしれないが、命を奪う事も奪われる事も無く済んで良かったと思っている。傷は癒せば治る。命は失ったらそこで終わりだ。失った本人は勿論、死んだ周囲の人間まで傷付ける。「君達もしぶといよね…意外と生存率は高いかも知れないねぇ」相棒も精霊も思ったより元気があるようで無駄に肝を冷やし過ぎた気もしてきた。何だか一人だけ置いてけぼりを食らったようで少し悔しい。何にせよ「傷を癒すのが先だね、お互い」笑顔で仲間の元へ帰る為に。
精霊に突きつけた銃口から放たれるは淡い碧の光。傷を塞ぎ痛みを和らげる治癒の弾丸。自分にも一発撃っておくが所詮は応急処置。出血は防げても失った血は戻せない。痛みを和らげても痛みは無くならない。早めに治療のプロに癒して貰うのが一番の治療法。「若い連中なら敵兵の首の数で戦歴を語るんだろうけど、 おじさんは年だからそこまで頑張る元気が無くてね」捕虜として国に突き出しても、ここで最後まで奪い尽くしても何も得られないから。「帝国の宿営地まで送って行くよ 翼騎兵の病院じゃ気が休まらないだろうから おじさんの肩で良ければ使っておくれ」
『ふ、強がってないですぐ医者に診せた方が良いぞ。我が刃は魔を断つ刃だ。精霊にも……おぇ、げほ』「強がってはいないんだけど…む、あんたもな」案外平気そうな声が聞こえて、内心ほっとしながら軽口を返す。もっとも、彼女みたいに寝っ転がらなかったのは、ある意味強がりだが。『君達もしぶといよね…意外と生存率は高いかも知れないねぇ』「くく、女性の方が生物学的には強ぇんだよ、つ、いてて」それが果たして魔剣と精霊に適用されるかどうかは置いておいて。笑うと腹が痛い。が、グレイに治癒の効果がある弾丸を撃ってもらい、少しは楽になった。続けての言葉には、苦笑して頷く。
…やっぱり甘い男だ。帝国の宿営地まで肩を貸してくれる、との申し出には有難く頷いた。「色々とありがとな。 ま、女らしくない奴で悪ぃけど。目瞑ってくれ」よろよろと立ち上がり、遠慮なく手を伸ばす。「しっかし…何で俺達がこんなボロボロで、おっさんは一人だけ軽傷なのかなぁ? すっげぇ納得いかねぇんだがっ」無論自分は敵側で。サイスは友を護る為に傷ついたのはわかっているのだが、虐めずにはいられなかったりする。寧ろ、目的地に着くまでの良い暇つぶしになりそうだ。そう思いつつ、精霊は意地悪に笑みを浮かべ、男性に語りかけるのだった。
抱いた肩は案の定冷たい。自らが相手を氷漬けにしてでも退かせようとした結果とは言え、改めて酷い事をしたと思う。「しっかし…何で俺達がこんなボロボロで、おっさんは一人だけ軽傷なのかなぁ? すっげぇ納得いかねぇんだがっ」運が良かったのだろう。下手をすれば首と身体が繋がっていなかったかもしれないのだから。「おじさんは日頃の行いが良いから幸運の女神様も微笑んでくれるのさ」何とか上手く交わしたものの、宿営地に到着するまで当分弄られそうな気がする。誰が相手でもそういう立ち位置なのか、と苦笑を浮かべそうになったけれど。悪戯心を含んだ笑みを見て、何処か満たされた気がした。
生きてる。俺も彼女もお嬢ちゃんも。ここに居る三人のうち、誰か一人でも戦争に奪われていたなら。敵同士だった者同士で笑う事も無かっただろう。俺達が『敵』の命を奪っていたなら、あの時のように暫く立ち上がれなかっただろう。彼女が『敵』に奪われていたなら、俺は何もかもを失っていたかもしれない。俺が『敵』に命を奪われていたなら、不謹慎ながらに何処か安心した今の立ち位置には居なかっただろう。それに、可愛らしいお嬢さんの小悪魔的な笑顔が見れたのも良い収穫だ。「それじゃ、後で迎えに来るからそんな所で寝っ転がって風邪なんか引くんじゃないよ?」相棒に軽く手を振って洞窟の出口へ歩き出す。