時は満ちた。選ばれたるはただ二つ。汚れ無き蒼を湛える月の恩寵を受けし国。瞼を開ける事すら許さない久遠の夜に愛されし国。十一度目の栄光を掴むのは果たしてどちらか。生ける者達よ。その意志と剣を持ちて、世界を統べよ。
■大陸地図:http://www.geocities.jp/kichi_k/LG_map/top.html(大判/作成:クロゼット様)http://lgtisiki.blog89.fc2.com/blog-category-8.html(携帯用/作成:コルナ・コルチェット様)御二方に感謝を。
■禁止事項:・他者の行動・行為を著しく制限、または指定する描写。・単騎で戦局に多大な影響を与える描写。・俗に言う無敵と思われる行為、行動や描写。・世界観が大幅に無視されている描写。・その他、不躾であったり、不快に思わせる行動や描写。上記の行為は禁止とさせて頂きます。相手が居るという事、重々御承知下さいますよう。
戦火を散しているのは飽くまで月光の民とナイトメアです。義勇軍(ゲリラ)参加されます方は、義勇軍としての発言と行動を心掛けて下さい。義勇軍としての発言、行動がどのようなモノであるかは、個々の主観にお任せ致します。但し、他者の反応や全体の状況を踏まえ、総合的に判断下さいますよう、お願い申し上げます。義勇軍で参加されます場合には、各々の所属を明確にして下さい。月光の民に加勢するならば【義勇・月光側】ナイトメアに加勢するならば【義勇・悪夢側】どちらにも属さない第三勢力として挙兵するならば【義勇・第三】との表記をお願い致します。
心地良い夜風が髪を撫でていく。微かに花の香を含んだソレが、春の訪れを認識させた。確か………サクラと呼ぶのでしたかしら。毎年、此の季節にだけ咲き乱れる薄紅色の幻想。"彼ら"はやがて雨に散らされ、一月を待たず消えてしまう。そんな運命に囚われながらも、なお。死の間際に在るモノとして、現世を謳歌せんと誇る。だから、例えば散ってしまっても、その残滓は殊更に美しい。『報告します。守備隊の配備が終わりました』そんな考えを打ち切ったのは、一人の兵士の言葉だった。今から一年前。此所、デクデで指揮を執ったワーウルフの少年。しかしまぁ、何と言うか………
「見違えましたわね。どちら様かと思いましたわ」男の子はいつの間にか成長しているものなのだと、改めて知る。今、彼が纏うのは錬達された一兵士の雰囲気だ。一年前はあんなにも頼りない姿だったのに。「お疲れ様でした。哨戒と警戒を密に」そう伝えて、再び夜闇に視線を向けた。今期、月光は表立って兵を動員していないらしい。恐らくは"にんじゃ"と呼ばれる暗殺者集団を用いているのだろう。静かに。足音を立てず、秘密裏に。気配を消し、気取られる事無く首を掻く。だが、夜を得意とするのは貴方達だけじゃない。我らが遣い、銀の蝙蝠の目は誤魔化せなくてよ?
戦乱を鎮せるべく、最後の戦いへの準備で多くの者が忙しくしている中、その女も例外では無かった。「さて…こんなものかしらね」クナイと呼ばれる投擲物に軽量化を施し、それを大量に仕込んだマントをベッドに広げ満足げに頷く。マントの横には刀。腰にするにはクッキーが入った袋。机には頭だけの猫。これが、女の出陣道具である。「それにしても…いくつのクナイを仕込んだのかしら…ね?」誰かに問い掛ける様に疑問系で語りかけるが、当然の如く返答は無し。
仕込んだの後を目視で確認したが、面倒くさそうに溜め息を付くとマント横の刀を腰に差す。「心地よい重みは心が締まるわ…そう思わないかしら?」まとも誰かに語り如く口を開くが、その返答は返ってこない。そんな事は差も気にせず、ベッドに広げていたマントを羽織りシワを整え…「…ウサギ狩りの始まりよ、働きなさい、チェシャ猫」一言、呟くと扉へと手を掛ける。同時に頭だけの猫が気味が悪いほどに目を見開き、脱兎の如く、女の肩へと飛び乗り、女の耳元で囁く。「アリス、君の想うがままに」
細い下弦の月が、静かに戦いを見守っていた。月光の里に建つ、とある社。灯りも無い縁側で、人狼の少年は白い上着を掻き抱き細い月を見つめている。宵闇の中、満開と呼ぶにはまだ足りない、庭の枝垂桜が僅かに揺れた。風が含んでいるのは春の気配だけではない。穏やかな夜を割く――悪夢の匂い。先日の戦がようやく終わったかと思えば、今度は北からの来訪者だ。悪夢はどこまで迫っている?もう自らの領域を越えただろうか。隠れ里で息を潜めている?もしかして振り向けばすぐ後ろに居るのではないか――?ふと、背後に気配を感じて身を強張らせた。
衝動のまま勢い良く振り向けば、そこに居たのは――戦いの装束を身に纏った家主だった。当然のことなのだが安心して気が抜け、ほっと肩を落とす。「今から、行くの?」見上げ、不安げに尋ねる。肯定の返事をされれば一層眉根を寄せ、そっか、と一言呟いた。「気をつけてね。ムリしないでね。…危なくなったら逃げるんだよ!それから…」言い募るが――皆まで言うな、という穏やかな表情に口を噤む。「…いってらっしゃい。こよいに、月のかごがありますように」
音も無く戦地へと赴く彼を見送り、少年は自室へと引き返す。最前線へ行く心算はない。足手纏いになることくらいはわかっている。自らにできることをするため――夜に紛れ、静かに準備を始めた。
戦装束を整えて、玄関に向かう途中縁側に腰掛け、月を眺める居候の少年を見つけるこちらの気配に気づいたのだろう、振り返ると不安そうな瞳を揺らし、「今から、行くの?」と問いかけてくる「あー、ちょっくら行ってくるわー」少年の不安を少しでも拭うべく、努めて気軽に言葉を返すとその頭を一撫でして、縁側から庭へと下り立つ
庭へと下り立ち、何となしに月夜を見上げる少年は未だ己に向けて、気遣いの言葉を投げかけるがこの手の説教はガキの頃から苦手なので、右から左へテキトーに聞き流しつつ懐から一枚、霊符を取り出し、宙へ投げる「出でよ、白八咫」その言葉に応じ、霊符は一羽の白い大鴉となる鴉は己が身体を掴み上げ、音も無く舞い上がり月夜の空へと羽ばたいていった
(子供が潜むのは月光の城、長の執務室の近くの物陰)ともかく、おいらはまず王様に挨拶しなくっちゃ多分王様のほうだって、おいらがどんなふうにこの大陸に来たのか知りたいはずだよでも戦争中で忙しいから会いに来れないんだよねまぁどっちにしろ来たときのことはあんまり覚えてないんだけどそれにしても今日は人がよく通るなぁ昨日は部屋に鍵がかかってたけど、今日は王様いるみたい(そのとき、子供の前を通りがかった黒い人影が訝しげに物陰を覗き込み目が合った)あっ! 忍者だ!
より深い宵闇に包まれるナイトメア。夜陰に紛れて侵入した忍者達に別れを告げ、海岸の砂を踏みしめる。既に敵国の領地であるここでは、煌々と輝いていたはずの月の光もどこか弱々しい。神秘的な、とでも言うのだろうか敵地であるという意識のせいかもしれないが、月光の里から眺めたそれとは違った印象をしていた。ここまで共に海を越えて来たニンジャ達は「でかい図体に加え被っている骨兜が目立つから」と自分を置いてさっさとフェリール城の方へ消えてしまった。素早い身のこなしにしばらく呆気にとられていたが、なるほど、あの足には全く追いついていけない。走れ、と言われずに済んで助かったとも思った。
我が身は、赤い炎に包まれていた皮膚は焼け爛れ、肉がぼたぼたと崩れ落ちていく熱い…痛い、…苦しい…身体が硬直して、動かない意識が残っている事が、苦しみを更に強くしていった懇願する安らぎを…この酷い苦しみからの、解放を…そうしているうちに気が付けば、「此処」にいた様々な種が入り乱れ、剣を交えての殺し合い戦場への、突然の火の出現に、些か面食らった顔をしている者もいたようだ赤い炎の渦が、巻き起こる次いで、幾つかの悲鳴、叫ぶ声逃げる者もいた背後から迫り、火は襲い掛かる…ハハ、ハ…火の中の声が小さくなっていくにつれ赤い炎は、次第に黒みを帯びていった
ひとの姿に良く似た、黒い火の塊己は何者であったのか、忘れていた…まあ、良い…既に、痛苦は無くただ、欲していた黒い火が轟々と憎しみの音を立てて、燃え上がる遠くを見れば、違う場所でも死の影が耳を澄ませば、戦いの音がフフ……ああ…あれは、夢の国かつて、仕えていた事のある国近くて遠い者達が、統べる国魔人の骸から外套を剥ぎ取る燃え上がり、火と同化する次に、人間の骸から手頃な剣を奪い取った黒い火が、腕の上で小さな爆発を起こす火は剣を伝い、刃の上ではぜている何でも良い…満たせるなら、何でも良かった黒い火の塊は求めるべきを求めて、歩き出す
ともあれ敵の領土の中で単身突撃に向かえるほどの実力も度胸も無い。夜は敵国の兵の殆どに有利だが、悪魔であっても自分にとっては昼も夜もさほど変わりはない。せいぜい夜目が利くぐらいだ。ならばと、他に仲間の歩兵がいやしないか、辺りを窺いながら夜明けまで木々の陰に身を潜めることにした。陽が昇ったらゼレクスの塔辺りの交戦状況を見つつ、フェリール城へ向かおう。木の幹と武器である長柄の斧に身体を預け、戦場食として友人の家から拝借してきた角砂糖を齧った。戦場にそぐわぬ甘みを楽しみながら、しばし戦争の音に耳を傾ける。
悪夢の兵として初めて最終戦の場に臨んだのが二年前。あの時は本当に未熟だった。味わった事のない空気に酔い、戦争の本質も、そこに臨む兵士の気持ちも考えずに駆け抜けた。それがどれ程の愚行かも知らずに。「陣形を乱すな。冷静に各個撃破すれば良い。」今、私は再び悪夢の兵として部隊を率いて戦場に立っている。与えられた任務はフェリール城周辺の遊撃。しかし月光の兵は士気が高く、その攻めは苛烈を極めた。迎撃どころか足止めさえも困難だけど、それでも決して諦めはしない。かつての愚行を償う為。そして本当の意味で悪夢の兵に成る為に。全霊を尽くし、フェリールへと迫り来る月光の兵を薙ぎ払う。
この海からは、月光の里が良く見えそうな気がした未だ生え揃わぬ羽根、痛みは無いが傷跡の残る脇腹其れを持ってしても…今回の戦には出たい訳があった初めてこの大陸へと足を踏み入れた時に向かった場所、それがナイトメアあの頃も一度、決戦の舞台へと駒を進めながら惜しくも破れたそれから、どれだけの時が過ぎただろうか「もう一度この場に居られる…それに感謝すらしなければ…」す、と…口元に笑みを浮かべて…
流れ着いたのは、月の光の恩恵を受ける国。空の強さのみを頼って生きてきた私にとって、異国の風はとても新鮮なものだった。剣を振るうことでしか己を示せない稚拙な者。一宿一飯の恩、戦場にて返すとしよう。――月光の里より北、ナイトメア領ガーゼル忍びと呼ばれる者、運動能力に長けた者達を私に付けてくれたが、彼らは、私の前にもその姿を見せない。ガーゼルの土地は、まだ冬の名残りを含みつつ。深く深く闇が覆い、静寂が漂う。…この盾が、役に立つと良いが…。紋の入った古い黒い盾を携え進む。
幾つかの部隊と共に、男はこの場所を護る其れが今回の任務先の戦いで負傷したのも、要因ではあったが…「どんな任務でも今回は構わない…フェリールへは…行かせないよ……」振るうのは護りの名を冠する剣この地を護り、そして…その先の砦を護る為…
デグデを巡る戦いは夜になっても継続し陽の落ちた暗闇の中、金属のぶつかり合う火花と魔法による炎や閃光が闇夜を刹那に照らしては消えてゆく月光とナイトメアの戦半島状の月光と島国のナイトメアどちらも本拠地に攻め入るには海を渡らねばならずどちらも大挙として兵力を送り込むためには航海の難しいゾルバ砦近くの海峡を避けデグデ城の北、バウラ辺りから上陸、出港する傾向が見られるそして、今回もご多分に漏れずデグデ城の近郊で激戦が繰り広げられている先にデグデを占領したのはナイトメアそれを攻めるは月光互いに敵地への橋頭堡を確保すべく血で血を洗う攻防が続くそんなデグデの城に忍び寄る影…
激戦地のデグデ城に侵入するには敵味方入り乱れる乱戦と、更に敵陣の隙をくぐり抜けるか狭く潮目の難しい海峡を渡り上陸するかあるいは、その全てを空から越えるか・・・その手段の内、最も容易と判断したのが経空侵入敵もそれを十分に周知し、警戒しているが己が得意とする幻術、目眩ましを用いれば守備兵の目を誤魔化し、城内に降り立つ事も不可能ではない降り立った場所は中庭の隅の辺りか敵軍の指揮系統、あるいは補給関係等を混乱させるべく幻術でナイトメア軍兵士の姿に身を変えてデグデの城の中へ足を踏み入れる
石の敷かれた一本道が、続いているこれは、…ナイトメアの城への、街道だったかな夜闇に紛れて、火は歩く敵だとか、味方だとか…国だとかそんなものは、如何でも良かった戦いの音、怒りと恐怖、痛みに喘ぐ声が己の歩みを急がせる逃げる者には、火を使って襲い掛かり向かって来る者には、剣を突き刺した何度も、何度も…傷口から血が溢れている…薄笑いを浮かべ、頭を近付ける恐怖に引きつる表情が見えていた血を啜るそれから、歯を立てて、――辺りに絶叫が響き渡った立ち上がり、何かの欠片を吐き出して再び歩き出す戦う者は、皆、死ね…ただ、それだけを思いながら
「……」早咲きの桜が頭の上でザワザワしている黒い司祭服の青年の傍らには、白い花と白いヴェールを持ちながら、来ない人物を待っていた。此処もやがて戦禍に巻き込まれるのだろう…約束の日時は…とうに過ぎているのだ…懐にそれをしまい込み、古びた家の扉を閉める。また…悪夢と月光か男は冥い瞳で転送陣をその場に描き、巻き上げる風と共に、いずこへか姿を消した。
おしりがいたい、、、ほっぽり出されちゃったおいらただ王様に会いたかっただけだから忍者のおじさんたら、あんなにガミガミ言わなくたっていいのにね戦争中だから気が立ってるんだろなあんまり怒ったらはげちゃうのにかわいそ(初めて出会う戦。目の届く範囲には戦火は見えず、ただ相変わらず城内は密やかに慌しい。北の空に流れる雲を見て、知り合ったばかりの青年も参戦していることを思い出した)あっちのほうに戦ってる国があるんだっけヴェガさん無事に帰ってくるよね、、
景色は変わらず、明けずにいる時間を長く感じる。夜明けはまだ先。「……敵部隊展開中、指示を」影の者が闇に紛れて現れ耳打ち。距離は、こちらが合わせなければならない数の単位。目を瞑りながら作戦と戦法を整理する。「…。」どうやら森を抜けた場所に旗の違う者達がいる。メモと地図を見ながら認識。「…まだ目標まで遠いが、致し方ない…ここでやる。人を集め、木に切れ目を入れろ…。合図と同時に仕掛ける…私の紛れる時間を作れ…。後、手筈通りに部隊を散開させつつ、後退…手を尽くし悟られんようにな…援軍の要請も忘れるな…」「御意。」
「そうだな…見張りは…いらん…」「御心のままに。」果たして20名ほどの人員でどこまでやれるか。影が持っている壷から赤い色の液体を取り出し塗る。敵将に近づけるのは敵兵。そして、砦に、司令部に行くには。敵の数が多ければ多いほど統率は難しいだろう。思惑だけが先行する悪い癖。「さて…。」頭、服に付いた赤。見るからに負傷兵。敵部隊は目前振り返り精神を集中させる。この辺りで…。
「天魔…っ!」雷鳴の如く爆発音がガーゼル一帯に轟く、炎の柱が空まで伸びる。共倒れのように木々は力を無くし、展開中の敵部隊に向かって倒れて行く。泥と混ざった火の手が森を包む。月影の部隊は飛び跳ね、存在を明らかにしながらクナイを投げる。私を追って。伸ばした手からは焦げの匂い。もう魔法は使えない。天魔クラスの魔法は一日一度の才能しか持てなかった。これだけなら幸運とも呼べる異世界からの継承。黒剣と悪夢の盾が、全速力で駆ける。「うあぁあぁぁぁぁ!!!」襲われた弱腰の兵の様。必死の形相も忘れずに叫ぶ。敵将らしき者とすれ違った。鼻の利く者で無ければ良いが…。
デクデ城内司令部。今回、我は指揮官補佐の任に就いていた。ひっきり無し報ぜられる周辺での小競合いの戦況。及び、偵察に出した銀の蝙蝠が伝える敵軍の侵攻路。その他諸々の情報を即座に纏め上げ、報告し、我らが部隊を率いる指揮官の指示を、より適格なモノへと昇華させる。その為、意見を求められる立場でも在り。また、客観的に情報を整理しなければならない立場でも在り。必要とあらば、一軍を率いて戦場を駆ける立場でも在った。こういった仕事をしていると、自分には文官が向いているのではとも思う。忙しく行き来する伝令将校と蝙蝠の群れ。さて、次に訪れるのは良い報か。はたまた悪い報か。
暫しの静寂男はその間、物思いに耽っていた一人の時間というのは、誰かの事だとか…戦場で考えずとも良い様な事を思い起こさせる不謹慎極まりない、といえばそうであるが男の思想など…場所を問うている程精密には出来ていないらしい「本当は、君に……───」突如、爆発音そして闇夜を染める火柱一気にその思想から現実へと引き戻されざるを得なかった「!?」周りにも、そして男にも一気に緊張が走るのが解った感じられなかった気配は、恐らく噂に聞く「シノビ」とやらだろうか?此処からは少し遠い、が…其方に目をやれば炎に照らされる様に、その姿が時折、空を舞うかの如く飛んでいるのが見えた
空を舞う影は、徐々に此方へと近付いてくる──何かを追う様にして…あの辺りの状況は?そも、この周辺にはそう多い数は配置されていない様々な憶測が過ぎる其の時だった『うあぁあぁぁぁぁ!!!』誰かが此方へ、そう…何かから逃げるかの様に向かってくる悪夢の兵?初陣だったのだろうか?だが近付き、横をすり抜けるその刹那「……ッ」男の「占術師」としての血が、胸騒ぎを覚えた「空の方を頼むッ」其れだけ言い残して慌てて後を追い、懐から取り出した短剣をその人物の右横すれすれ、追い越しその行く手に刺さる様に投げる足止めしなくては…行かせてはならない何故かそう、強く感じた
デグデの城内に潜入し、回廊を歩むデグデ城は今まで戦の度にその主を替え月光が占領した事も幾度かある戦ごとに補強や増築、改装がされるとはいえ内部の構造や使用目的がそう変わる訳でなし歩き回るには、それほど苦労はしない今回の目的は、城内、ひいてはデグデ方面の敵軍の混乱そのための方策は一任されている武器弾薬、糧秣を使用不能にするのはスタンダートな方法であるがこれらの物資は月光軍が勝利し、上手く鹵獲できた場合兵士達へのちょっとしたボーナスとなる事があるセコイと言うなかれウチは最近、食い扶持が増えて家計が大変なのですそんな切実な事情から目的を司令部の混乱とし、回廊を歩む
城内の構造と人の流れから司令部の位置は概ね分かるが適当に化けた誰とも知れぬ兵の姿ではなかなか近づかせて貰えぬだろうならば、それなりの者になりすます必要がある城内の人通りの少ないところで待つ事暫しおあつらえむけの兵が通りかかるいささか若過ぎる少年兵だが、身なりや装備も良くまさしく、『それなりの』地位と見て取れる彼が傍らを通りすぎ、すれ違いざまに一撃、昏倒させる倒れた少年兵から身分証等を剥ぎ取って殺してしまえば楽ではあるが司令部へと赴くのに過剰に血の匂いをさせるのも不味い面倒ではあるが縛り上げて、猿轡を噛まし空き部屋にでも転がしておこう
少年兵から奪った身分証を確認この少年も人狼か…外つ国の人狼の者に比べ、幾分か小柄なこの身なれば成長途中の少年とそれほど体格差もなく化け易いのは幸い彼の姿を幻術で我が身に再現し敵司令部を目指し、歩を進める
…風と共にー…ふわっと裾を翻してトンと…町外れの廃教会に降り立つ。肩に故郷から持ってきてしまった花びらがひとひら、落ちていくのを手で掴む。「……」司祭という身…傷ついた者を癒やし倒れた者を弔う者は身元証明さえされれば、時に民間の義勇軍として、傭兵等の軍に加えられる事を知っている。「……」この街のどこかに居る主人の傍に…行かねば…廃教会の扉を開いて杖を時空より呼び出し、足早に歩き始める。
―夜の闇が、静かに波を浸食していた。とぷん、とぷん、と小さな小舟が、闇の波に飲まれまいと藻掻く様に波間を漂っている。「…船頭殿、目指す塔までは、あとどれ程だろう?」「ふー…ん…ま、厄介な所は抜けたからのぅ。上手く走らせて、1日程だろう。」「そうか。世話を掛けるな。」そう言って、深い闇色の外套を纏った女は、その身を沈め息を潜めた。月光領内、バザンの洞窟付近から船を出して数日。剣士と、同行する数人の「忍」と呼ばれる者で組まれた小さな部隊は、密やかに海を渡り、此度、覇を争うナイトメアの領内へと船を進めていた。
単身での行動を願い出たが許されず、それでも何とか数人に留めて隊を組んで貰った。目立つ大船でなく、小回りの利く小舟で帝国領との境を進み、本拠地フェリール城を擁する島の南…ゼレクスの塔付近へ上陸する心算である。時間は食うが、城へ近付くには最も安全である―と読んでの選択だった。…ふと、波間を何かが漂い来るのが見えた。目を懲らすと、其れは兵士の骸。―海域でも、戦は熾烈を極めているらしい。一刻も早く陸に上がらねば。「皆。闇夜は彼等にとって昼。警戒を怠るな。」剣士は声だけを後方に向け、自らも腰の刀に手を添えた。先程よりも船足が速まる。明日の日が昇る頃には、陸に着くだろう。
相変わらず、戦況は劣勢。濁流の如く押し寄せる月光の軍勢に私達は後退しながらの戦いを余儀なくされ、気付けばフェリール城へと続く街道の一つまで押し込まれていた。このままこの街道を制圧されれば、月光軍は城門前に雪崩込むだろう。それだけは何としても避けねばならない。だからこそ私も指揮するだけでなく、兵に混じって拳を振るった。が、討てども討てども次から次に、月光の兵はなかなか絶えない。(引き時だな…)これ以上無理をして兵を失う事もない。視界に入っていた最後の月光兵を討ち、それで区切りにするつもりだった。その異変に気付くまでは。
ふと気付くと、絶えず街道の向こうから向かって来ていた殺気が絶えていた。月光の兵が途切れたのだ。敵が進軍ルートを変更したのかとも思えたが、それなら前線の部隊から伝令が送られてくる筈。それさえ無いのは妙。暫く思案していると、兵達が街道の向こうを指差し何やら騒ぎ出した。見れば、宵闇の中で赤光が揺らいでいた。視認するには遠すぎる為、その光の詳細は分からない。ただ、直感的にあれがとてつもなく危険なものに感じられた。「副官は居るか?」目線は赤光に向けたまま、近くに居た副官に呼び掛ける。
「お前はこのまま私の代わりに部隊を率いてここから離れ、引き続き遊撃の任に当たれ。 あれは私が止める。」突然の私の命令に副官は要領を得れないようであったけど、取り敢えず了解はしてくれた。「もし勝てそうに無い敵に遭遇したらこちらへ誘導しろ。 多分…足止め出来るだろうからな」最後にそうつけ加え、部下達を見送る。そう、あれは純粋な殺意の光。特定のものに向けられたものではなく、戦場に立つ者全てを屠らんとするもの。ならばあわ良くば、多くの敵兵を巻き込める。尤も、それまで私が持てばの話だが。静かに呼吸を整え、街道の中心に立ち尽くしてフェリールへと近付いてくる赤光の源を待つ。
目を閉じて数刻…戦いが起きている場所もまだ遠いと無視を決め込んだ矢先の事だった。先程までとは違う種類の叫びや怒号、爆発の音に飛び起きた。赤や黒の大きな火の手、良く知った気配がフェリール城へと向かっている「派手に暴れてくれたお陰で思ったよりも早く見つかったか…」敵に見つかる事にも構わず闇の中を走り出す。ナイトメアと月光の民の戦争など今はどうでも良い"あれ"を見つける為にここまで忍達に着いて来たのだ。見失う訳にはいかない
散り散りに撤退する兵士達と何度もすれ違う。その中には自軍敵軍の関係無く焼け爛れた者の姿もあった火に近付く度に今度は切り裂かれた死体が増えていく「巌念!」黒い火の塊に向かって名を呼ぶ。進む先や周りにはまだ立っている兵が何人か対峙しているどちらの国の兵なのかは分からなかったが、そのどれもが"彼"へと敵意を向けていた「月光の民所属だ。負傷者を運び、他から城へ進軍しろ」周りへと叫び更に近くへと火に歩み寄る退かずに残っているのはナイトメアの兵だろうか
……?火は、己が呼び掛けられているのだと、分かってはいなかっただが、一瞬、動きが止まるその間に、対峙していた者達の数名が剣を収め己の前を通り過ぎて、足早に立ち去ろうとしていた…火は、立ち去ろうとしていた者達のうちの一名を、振り向きざまに、突き刺した背中を刺された兵士は、小さな呻き声を上げながら地面に倒れていく兵士を、火が包み込んでいった声のした方向に、視線を送る其処には、骨兜を被った大男が立っていた男を見て、火は、何かを思い出そうとする…己を、知る者だろうか… 分からない……その間に、背後の兵達が得物を構え、じりじりと近寄ってきた
……如何でも良い…己にとっては、この場にいる全ての者達が単に、「壊す」べき対象でしかない黒い火の塊は、兵士の肉体から剣を引き抜くとクク…フフ…フ、フ……刃に付いたを血を舐め、低い声で小さく笑ったそれから、血糊の付いた剣を地面に鋭く突き立て、大音声で叫んだハハハ……死ね…!叫ぶと同時に、炎の爆発が起こった目に映るもの全てを、消し去る為に
影は上手く事を運んでいる。火は街を侵食し始め、入り乱れ、戦の煙が渦と化しつつある。敵意の矢は、ムササビの様に舞う影を捉えることは困難だった。しかし、良く訓練されている。場慣れした者の盾はクナイや手裏剣を悉く無効化。護ることを前提とすれば及第点以上の統率。攻める術を無くし、長期戦ならば此方が圧倒的に不利。「っ!?」走り安いように盾と剣を合わせ背負う。走力が落ちた瞬間。突如、点が飛び、切先となり目の前の壁に突き刺さる。殺意は感じられない。思いが形にした軌道。まさか…。止まる気などなかった。否、考えていなかった。青天の霹靂、里にはそんな言葉があったと過ぎる。
走っていたのを、気付いたかのようにジンワリと汗が染み出し始めた。ゆっくりと顔を向け、見れば先程すれ違ったはずの者。ナイフを投げた格好。どんな表情をしていただろうか。恐れを思っているのは事実。気付かれまいと装ったのが真実。なぜ攻撃してきたのかと、疑問の思いのままに。「…っ…俺は敵じゃない!!!報告を!!」確認、一瞬の迷い。言葉が過ぎたか。ここを突破しなければ無駄になる。抜くか、欺くか。動揺の素振りを見せながら、徐に壁に刺さった敵のナイフに、黒い手袋が覆った手を掛ける。さて、どう切り抜ける…。――ガーゼル、街の中心。禍々しき暗雲が北に見える。
デグデの城内を司令部の方へと歩く途中、何人もの兵士達とすれ違うが正規のナイトメア兵の姿を借りているため怪しまれる様子は今のところ無いようだ幾度目かの衛兵の誰何をやり過ごしもう少しで司令部というところ前方からくるは身なりや雰囲気からして明らかにそこらの兵とは格の違う高級士官か通路の端に寄り、道を空け、敬礼この者をやり過ごせば、いよいよ敵の司令部そこを混乱させ、あわよくば暗殺できれば首尾は上々だがとりあえず、今はこの士官をやり過ごす事に集中しよう背中に冷たい汗が伝うのを感じる・・・
諷詠は、一人フェリール城へ向かう街道がよく見渡せるひときわ高い家の屋根の上でライフルを構え敵の将がでてくるのをジッと待っていた。ここまで来るのに使った式は下の家で待機させたので今頃は体を休ませていることだろう。と、そんなことを考えた瞬間ー街道に誰かがでてきたどうやら女性のようだ。
先刻から発せられている異質の殺気のせいか感覚が鈍っているらしい、気がつくのに数秒の遅れがでた。距離は己の位置から三百と六十といったところか。(この距離なら外さないだろう…)諷詠は、引き金に指をかけるとその女性に照準を合わせ、引き金を引いたーバシュッー発射音と鋭い閃光と共に時間をかけて充填しておいた魔力の弾丸が真っ赤な光を放ちながら女性に向けて発射された。
予想通り丁度日が昇る頃合い。岩陰に隠れる様に、小舟はゼレクスの塔の近くへと着いた。戦は佳境に入り、城の攻防に入って居るのだろうか…辺りに既に兵は無い。塔の少し先、林の木陰に馬が用意されている手筈。其処まで歩くと、成る程、林の中にひっそりと黒鹿毛の馬が佇んでいた。「…我々に馬は要りませぬ。…城にて落ち合いましょう。」忍達はそう言うと、姿を消した。自身を含め、元々単独行動を好む者達。そしてお互いの腕前を信頼した上での別行動だった。「さて…」剣士は馬に跨ると、林沿いに馬を進めた。このまま密やかに城まで行き、城内に攻め込めれば言うことは無い。
―馬を走らせるにつれ段々と兵の骸が増え、そろそろ城が近い事を悟る。濃い血の匂いが鼻をつく頃、周辺の骸が異様な様相を呈している事に気付いた。「…なんだ…?」眉を顰めて伺うと……燃えている。戦に火は付きもの。燃えた死体など珍しくもないが、何かがおかしい。そう思った矢先。前方から、爆風が迫ってきた。「……!?」襲い来る粉塵に目を細めると同時、其処に混じる火の匂いを嗅ぎ取った。「これは……」まさか、という思い。もしや、という思い。両の思いが、背中を急速度で冷やす。剣士は爆風の起こったであろう前方へと、馬を走らせた。
馬は勇敢であった。走る中、眼前の禍を目にしても怯まなかった。剣士は広がる火の海と、燃え、焦げた骸、…そして、その中心の黒い炎を見据えていた。「やはり…巌念殿…」馬を降り、戻るよう促してから己は前へ歩く。火の近くには、残る兵と、大きな骨を冠する者が居た。(あれは……)里の城内で見掛けた彼に間違いないだろう。どうやら火の者に向かっている。さて、どうする。己に課せられた任務は、密かに城へと入り込み落城させる事。目の前で殺戮を行う、見知った火の者を捨て置き、任を全うする―「……無いな。」呟き、叫んだ。「巌念殿!!」
相手の足が止まった小さく、気付かれない様に安堵の息を吐く改めて、相手の表情を見つめた汗ばんだ肌、紅いものは……此処からでは判断出来ないがそして表情は…『…っ…俺は敵じゃない!!!報告を!!』怯えたような表情だったナイフは只の足止めの為、殺意はまるで篭っていないだが、「味方」を見ても尚、怯えているのだ「…報告の必要はない、この子に行かせる…」後ろを飛んでいた伝令用の蝙蝠が、男の合図でフェリール城を目指し闇夜に消えた「占いを生業とするものは…嫌な予感って云うのが…特に良く当たるものなんだよ」男は剣を抜き、一気にその差を詰めると剣を横薙ぎに振り抜いた
火が月光の兵を突き刺したお陰で、退きかけていた他の兵も色めき立つ。先程から幾人もの仲間が殺されているのだ。心情として、こちらを自軍の仲間と受け入れられなくともおかしくはない穏便に収めるにはどうしたものやら。思案のできる時間は長くは無かった。赤い火の矢のような物が頭上の中空を切り裂いて飛んだ。夜が明けかけた空に、流星のように光の尾が描き出されその音を合図としたかの用に目の前で爆発が起こる「…火の精霊にでもなったつもりか」息を止め、氷やら水の魔法石をばら撒きながら踏み込む。鞄からぶちまけたそれで、熱と赤い火はどうにかなる問題は、源の悪餓鬼だ。
もう一度名前を呼びながら、黒い火の塊の頭の辺りを目掛けて素手で殴りかかる。私は腹が立っていて、恐らくのらりくらりと火に逃げられれば更に腹が立つだろうと思ったがともかく叩いて直るかどうか試してやろうと拳を振るった『「巌念」殿!!』おや。女と声が被った
街道の遥か先にて揺らぐ赤光。幸いそれは未だ遠くにあるが、何故か一時たりともそこから視線を外す事が出来なかった。軽装故に気配の流れには特に敏感な私には、そこから流れてくる負の感情をごちゃ混ぜにした様なこの粘着質と言える程の空気には吐き気さえ覚える。それでも、何故かそこに純粋な嫌悪感を抱けなかった。(そう…これは…)意識が思考の奥に踏み込もうとするが、異質な音がそれを中断させた。良く良く考えれば、戦場で思考に耽る事自体愚か。故に、容易く不意打ちを許してしまう。幸いその独特の発射音のお陰で、上半身を反る事で回避行動を取る事は出来た。完全には避け切れず腹部に掠ってしまったけど。
意識は不意打ちの主へ。しかし刹那、赤光の方が爆ぜた。距離があるため爆風の影響は無い。ただ爆発の瞬間、この殺意の主の高まった気配が私の意識の枠に僅かに触れた。それは知人のものだった。「…巌念……さん?」彼に何があったのか。一瞬、思考の全てがそれで埋まる。自然と、踏み出そうとした。あの街道の先まで駆けよう、と。が、戦士としての本能がそれに待ったを掛ける。射手が狙っているのに、それに背を向けるのは明らかな自殺行為。踏み止まって意識は射手の方へ。「降りて来い。そんなに離れていたら当たるものも当たらんぞ。」掛ける言葉も、投げ掛けた視線も明確に殺意を込めて。
月光の者は骨兜の男を、見定めをつけられずにいるナイトメア兵も動かない…迷っているようだったただ、己への怒りだけは、ひしひしと感じ取れた火はそれらを、「楽しんで」いたあれが何者かなど、如何でも良い…憎しみ合い殺し合えば、もっと面白いそう、思った混乱と狂気も、我が糧となる…骨兜が、迫り来る赤い火は余り利かぬようだならば、剣で切り刻んでやろうと考えた、その時男と女の、入り混じった一つの声声よりも、発せられたその「言葉」に、何故だか火は一瞬怯んだ結果、素直に殴られる事になる単なる憎しみの込められた一撃であれば良かったものをこいつのそれは、何やら違っていた
赤い閃光は標的の腹部をかすり地面を大きくえぐっていた。(何?外した!?……いや、避けたか…気づかれていたようだな…)諷詠が思考を巡らせた瞬間ー視線の先で爆発。炎が辺りを飲み込んでいた、距離のおかげで此方には影響は無かったらしい、残念ながら敵も同じようだった。
顔面に鈍い痛みが走る…おや、何故だろうとうに痛苦など忘れた筈であったのに「…。」よろけながら…わたしは、微かに思い出していた。地面に突き立てた剣を逆手で抜き骨兜の悪魔の足元目掛け、再び突く意識のかけらを無理矢理押し戻すかのように黒い火は荒々しくはぜた…林の方からも声がしていた…女の声………何、…視線を移せば、エルフの女が立っている女を視認すると、火は怯えたように目を大きく見開いた――…低く大きな咆哮が轟く骨兜の男の首を、火の手が覆うじわりじわりと締め付けながら手から身体の内へと、黒い火を染み込ませ「悪魔」に囁く…己が渇きを癒せ、と
『降りて来い。そんなに離れていたら当たるものも当たらんぞ。』女性が明確な殺気を此方に向けている。ライフルは、もうしばらく充填が必要だし気づかれているようではあまり効果が見込めない。(やれやれ…命までは、と手加減したのが裏目にでたようだな…)諷詠は、溜め息をつきライフルのベルトを肩に掛け背負うと、家の屋根を何軒か飛び移り女性に近い位置の家に移動した。
諷詠は、そこから飛び降りて女性から10メートルほど離れた場所に降り立った。「やあ…こんばんは。私の名は、諷詠…流浪人をしている…デートの誘いなら嬉しいんだが…違うだろうな…」少女とも見紛う男は、女性から放たれる殺気をかわしながら優雅に微笑を浮かべた。
『…報告の必要はない、この子に行かせる…』その男からの言葉は冷静で有り、答え。もはや…。私の行動に落ち度があったと認めるしかない。夜に消えた蝙蝠。ナイフを投げて殺すには判断も状況も遅かった。数が増える前に…。『占いを生業とするものは…嫌な予感って云うのが…特に良く当たるものなんだよ』占断だと…何れにせよ正しいが…。冷静な敵は剣を抜き、迷い無く斬りかかってきた。っ…速い。刺さっていたナイフを引き抜き、予測軌道に向けて当てるように構える。瞬間、両足の力を抜き軽く後ろに飛ぶ、受け流そうとするも間に合わなかった。
全身に伝わる鈍い金属音と痺れ。得物は手元を離れて意識の外へ、相手の剣は胸部を捉えていた。裂けた黒皮の鎧に赤の傷。声を出すまいと手を強く噛み激痛に耐える。体勢を崩し横転。「占い?…味方だったら…如何する…。」地面に右手を突き、立ち上がる寸前、言葉が漏れた。いつもと同じ口調、笑みを知らない顔、痛みが平静さを呼び戻す。汗は引き始め、偽の血を拭う。真の血は思ったよりも多量。「…致し方なし…。」左手の手袋を捨て、そのまま背からはみ出た剣の柄を握る。土煙を立たせながら間合いを詰めた。抜き取り、全体重をかけ、やや斜め上段より、黒の剣を振り下ろした。
視線の先から現れたやや小柄に見える男は諷詠と名乗った。私がこうしてあから様に殺意を向けていても飄々としている辺り、それなりに腕に覚えのある者なのだろう。ただ、それならこうも容易く間を詰めてきた事が気になった。初撃からこの男の本領は遠距離戦だと考えていたからだ。「そうだな…戦場でいきなり襲い掛かって来た奴をデートに誘う奴が居るなら、 寧ろ私が御目にかかりたいものだ。」男の僅かな動きも見逃さぬよう凝視しながら、彼の声に返す。私の本分は超至近戦。しかし、相手の手も知らずに迂濶に踏み込むのは危険。故に先ずは様子を見る事にした。
正規の兵の姿だけあって特に疑問を抱く事もなく通り過ぎていく士官を見送り何とか辿り着いたデグデ城の司令部扉を警護する衛兵に身分証を提示し、開門を願う司令部の中では戦況や作戦について様々なやりとりする士官達多くは男であるが、中には幾人かの女性の姿も見られる室内へ足を半歩踏み入れて「報告いたします、城内に敵の刺客が潜入したとの情報が!」その刺客の張本人は、まず退路を絶たれぬように未だ開かれた門の傍らに立つ衛兵の喉元に投擲剣を放ち室内には煙幕を投げ入れる後は他所から衛兵達が駆けつけるか司令部が煙幕の混乱から立ち直るまでの幾許かの間にどれだけ戦果を挙げられるか…
振るった拳は予想外に小気味良い音を立てて相手の頬をへこませた。お陰でたたらを踏み、相手の剣を受けることになる。さし出すような格好になった足の甲が地面へと縫い止められた。「…っ」巌念の肩を掴まえる。逆に首を黒い火で覆われた。逃げる気が無いなら好都合「巌念」拳の衝撃で多少正気に戻ったろうか?「どれだけ、心配したと思っている…居なくなるどころか、消えてしまったのかと――」首が圧迫され、徐々に苦しくなり咳き込む。斧を手離して少しでも息を確保しようと手に抗った。黒が意識を塗りつぶしていくそう簡単に飲まれて、堪るか「いわ…よみ、戻って来……帰…ろう――」
「はは、確かにそうだな…」(ふむ、いきなり襲ってくるほど馬鹿ではないようだむしろ此方の出方をうかがうか…なるほど、先刻の私の弾を避けたことといい…できるようだな…) 諷詠は、苦笑を浮かべた。そして、一息で距離を詰め間合いにはいるやいなや、体を屈み込ませて起き上がる勢いで刀を鞘から引き抜くと、その勢いで左下から右上に切り上げるように相手に刀を抜きつけた。
祭りから帰ってきたら、家主の姿は無かった。彼は最近、あまり戦争に出ていなかったような気がしていたが、最終戦故だろうか。精霊は少し考えた後、着替えて身体の汚れを落とすと、部屋から出て行こうとする。『他国の戦争に介入する気ですか?』細い、女性の声がした。同室の黒犬の声だ。「んな、大層なもんじゃねーよ」苦笑して、精霊は黒犬に振り返る。「ただ、あの人を迎えに行くだけだ。 行倒れられちゃ、俺達ゃ路頭に迷うし」『そうですか。行ってらっしゃい』黒犬はぱたり、と尾を振ると丸くなった。精霊はそれに手を振ると、家から出て飛び立つ。
剣が相手の胸部を切り裂いていく牽制を兼ねていたとは言え、不意を付いた攻撃思った以上の手応えだっただが、相手は悲鳴の一つも上げはしない成る程…矢張り手馴れた者の様だ…と、頭の端で考える『占い?…味方だったら…如何する…』ふと、そんな問い「さあ、如何するかな?…でも、当たっただろう?俺の占い…いや、勘か味方は、そんな問いかけ…しないものね?」そういって、戦場には不釣合いな笑みを浮かべる別に、味方かと迷いながら斬った訳では無いし、寧ろ確信して…だったが──しかしこの状況において尚、冷静な雰囲気を漂わせている相手面白い、と思った
『…致し方なし…』そんな声が聞こえるが早いか、土煙が上がり一気に間合いが詰められる上から振り下ろされる剣咄嗟に構えて受け止める鈍く響いた金属音速い、そして重い一撃跳ね返そうと試みる…が「……ッ」左脇を襲う鈍痛無意識に其れを庇い、思わず力が逸れた瞬間相手の剣は右肩をざくり、薙いだ落としそうになる剣を持ち直し、一歩後ろへと飛び退る焼け付く様に右肩がじんじんする「ふふ…良い腕だ……」実力のある者との戦いは、男の心を高揚させる戦において表情を変えない相手、男とは真逆の…そんな相手と剣を交えている今が愉しい、とすら
占術師の血が騒ぐ…それを人は【勘】とも【異能力】とも…呼ぶ。…だから…迷わずにたどり着いた。来る途中で足元を汚した返り血は司祭服の黒で目立たない。少し離れた場所から主人の戦いを見守る事になるのだが……「…」闇司祭の表情は、冷ややかな視線を投げかけ、何ともいえない薄笑いで、二人の勝敗を見守っていた。冥い紫の瞳は、何も映していないような虚ろで…夜に紛れるように息を殺しながら。
徐々に首を締め上げていく林の側に佇む女を一瞥し、悪魔に囁いた腹を、空かせているのだろう…?あれを喰え…女の肉は、柔らかいたましいも、…骨兜のもがき苦しむ様を、火は薄笑いを浮かべながら眺めていただが、語り掛けるようなその姿に…刹那、胸に激しい痛みを覚える低い声で唸りながら締め付ける手を更に強めていった約束、をお前と共に、何処までも落ちていく…――そこへ、勇敢な一人の兵士が好機とばかりに己の背中目掛けて剣を突いたすると残っていた数名も一斉に各々の武器を突き刺してきた…小さく笑うああ…楽しい、なあ…炎が兵士達を呑み込み、大きくうねった
指揮官の女性から受け取った命令を黒の蝙蝠に伝え、放す。もう幾度目かのソレを終え、テラスから司令部内へ戻ろうとした時だった。『報告いたします。城内に敵の刺客が潜入したとの情報が!』例えば此所が雑兵の詰め所だったなら。その報に依って来たす混乱は目も当てられない程で在っただろう。だが生憎、此所は最前線に置かれたナイトメアの司令部。当然な事に、置かれている諸士は歴戦の将ばかり。その程度の報告で動じる者は存在しなかった。むしろ―――そんな不明瞭な報告を大々的に行うなんて、兵卒として不適格。戦争が終わったらどんな罰を下して差し上げようかしら。
そのような考えすら浮かぶ余裕さえ在る。だから、その後に発生した予期せぬ事態にも、冷静を持って当たる事が出来た。炸裂音と同じくして、煙が室内に立ち込める。先ず、すべきは麗しき指揮官の安全を確保する事。煙幕で視界が遮断されたのなら、その条件は敵とて同じ。声さえ出さなければ、敵も最重要人物を特定出来はしない筈。嗚呼、しかし。先のルドラム戦と言い、今回と言い。どうも最近"煙"に縁が在るような気がしてならない。我らが指揮官は親衛隊を伴い、隣室へと退避済み。此れから勃発するであろういざこざは我が対処致しましょう。「育ちが知れますわね。ノックくらいしては如何?」
朦々と煙幕が立ち込め、一寸先も見通せぬ司令室の中慌しく動く者達の『音を聴く』幾人か隣室に移動する『音』おそらくは警護兵とそれ護られる司令官かならば、とっとと退避して頂こう隣室に退避したとて、突然のこの騒ぎと司令室に見劣りする予備施設やそれを活用する為のタイムラグいかな優秀な司令でも、すぐさま十全の指揮とはいかぬだろう最低限の目標達成は、それで充分あまり偉い人を仕留めてしまってナイトメア軍の収集を付けてくれる者がいなくなって困るのはコチラ側とてまた同じ重要拠点ではあるけれど、所詮は主導権争いの局地戦どちらも混沌とした泥沼の争いなど求めていないはず
最低限の目標は達成したが厳しい家計を思えば、少しでも戦果を稼ぎたい司令室に残った、おそらくは中級どころの士官達……何か、怖さ特級っぽい人もいるみたいだが幾人かでも首級を挙げたいところだが煙の中から女性の声で「育ちが知れますわね。ノックくらいしては如何?」という問いかけには「まぁ、狼なケダモノですから」と内心でだけ返しておきつつ纏う雰囲気や気配や、何より特級の怖そうな感じから彼女が残った者の中で最上位にして最強かと判断する……よし、逃げよう家計が厳しくても、命あっての物種なのですまぁ、すんなり逃がしてくれればの話だが
とはいえ、このまま背を向けてそこを狙われても面白くないしあわよくば、という期待も込めて司令室に残った怖そうな姐さん以外の者に向け投擲剣を投げ放つ視界の利かぬ煙幕の中とはいえ、我が異能の耳を以ってすれば何ら差し支えなく、狙いは正確肝の据わってそうな怖い姐さんには効果の無い牽制でも他の者には如何だろう仕留めれば最善、傷を負えば次善防がれようと体勢でも崩してくれれば、それでよし少なくとも、追っては幾らか減らせるか投擲剣を放ったまま、バックステップで司令室より飛び退る
叫んだ声が重なったと同時、骨を冠した男の拳が、火の者を揺るがした。…どうやら、触れる事が出来るらしい。などと間の抜けた事を考えていた、一瞬の後。男の足に、剣がめり込むのが見えた。…次いで首に黒い火が巻き付き、締め上げていく。「まずい!」目を見開いて其れだけ言うと、剣士は弾かれたように二人の方へ走り出す。先ほど一瞬、此方を見た時の火の者の表情…(…ま、歓迎されては居ないだろうな…)自嘲気味の笑みを浮かべながら、それでも前へと駆ける。引く訳にはいかない。目の前で起こる出来事のひとつひとつ。―此は間違っている、と思った。
未だ周辺に残る兵らが進路を阻む。この者等は…目の前の禍痕が目に入らぬのか。「お主ら― 退避しろ!! 敵も! 味方もだ!!」叫びながら前へ進む。恐ろしく良く聞こえる耳に、二人の声が届く。骨兜の男は……成る程。言いたい事も目的も、ほぼ一緒らしい。そして、黒い火は…。…食事の嗜好を変えて貰う必要がありそうだ。剣士は腰に差した刀を抜き放ち、刃に己の左親指を押し当てた。―と、切れた部分を中心に、肘までが凍り付く。斬った物を凍らせる刀。…まさか己に使うとは。そのまま全身に刀の冷気を纏い、二人の真横に辿り着く。そして凍った手で、男の首を絞める黒い火の手を、掴んだ。
「止めよ!その者はお主の大切な者だろう?」火の者を振り仰いだ瞬間。目に、焼き付く。何本もの黒く、長い影が隣で揺れる火を、その中心を…次々に貫いた。「…!!」全身が粟立つ。見開いた目の端に、火の者の表情の変化が映った。―真意は読み取れなかったが、「何か」が起こる事は分かった。反射的に、庇うように骨兜の男の前に回る。この状態では、咄嗟に身を守る事も出来まい―。起こった大きな火のうねりに、思わず目を瞑る。手を覆った氷は溶け、服の彼方此方も、髪の先も焦げた。…剣士の腕は、それでも火の腕を放さなかった。
『さあ、如何するかな?…でも・・・・・・・・・・・ぃものね?』振るう前に何か言っていたか…。剣を握るがゆえに、痛みも音もなく研ぎ澄まされる時間。相手の言葉さえも半分以上聞こえていない。目の前の者を、ただ斬り刻むのが目的。先を読む事を最優先とし、隙あれば反射の剣を繰り出す。それが兵の定石。黒は受け止めた相手の剣を歪曲させるかのように、そして、支えるはずであった男の肩をも欲しがった。触れれば一瞬。捻りを加えると慣性に任せて剣は動く。無機物には得られない独特の感触。軟らかくあって、ねっとりとしている。そうだ…この感覚だったな…。
思うよりも簡単に到達した剣。抵抗力の違和感。グリップまで飛んだ返り血と刃に付いたのを払う。智を持つ…強かな男…手負いか…。「ふふ…・・・……」笑っていたか?…笑っているのか?あぁ…可笑しいだろう…戦場はヒトを喰う…。心を惑わし、叫び声も喧騒の中では皆無…。だが、知っているのか…凄絶に静寂に悲惨だと…。逃避とも違う…きっと、その顔は証。脳内を駆け巡る。単語、羅列、息遣いの交差。やや長い瞬き。
相手が飛び退いた跡と己の道には同じ色。過度の緊張、動悸が治まるはずもなく。さらに、胸の傷が圧迫している。時は僅か。あぁ…惜しい…惜しいがために、絶たねばならん…。傷を負っていながらも、私を見逃さなかったこの男。緋の燈ったその目に、今も曇りはない。厄介な剣に向け、静かに言い放つ。「…断つ…。」怒りでも、哀れみでもない。同じように剣に懸けている者への最大限の敬意。踏み込み、手元に狙いを定め、地を這うように、剣先が塵を巻き上げる。しかし、振り上げる直前に地面に触れ力を失った。
軽やかな身のこなしから、抜刀、そして斬撃。その流れるような一連の動作を目にしても動じず。迫る刃の長さから間合いを読み、自然にその分だけ身を引く。紙一重。ぎりぎりに回避。こうなれば、ようやく私の間合い。しかし手を出す事はなく、寧ろ逆に飛び退く。フェリール城の方から、音が聞こえたから。終戦を知らせる音が。それは何かが崩れる音であり、また兵士達の歓喜の声であり…。「戦は終わりのようだ…。 もう、止めにせぬか?」此度こそ、そう心に誓って臨んだ最終戦。それ故にその現実は受け入れ難く、衝撃も大きい。その心情をそのまま吐露するかの様に、溜め息混じりに問いた。
一撃で仕留めるつもりで放った一撃がかわされると終戦の狼煙が上がった、結果は…勝利だ。女性は、私に戦いの終わりを告げた。「ああ…そうだな…これが戦で無ければもう少し、合いまみえて見たいものだがな…」少し名残惜しい気持ちもあったが、戦が終わってしまえば戦う理由もなくなるものだと諦めさせて、血振りをすると刀を鞘に納め、もとの微笑を浮かべるとこうつづけた。「そういえば、まだ名を聞いていなかったな…良ければ教えてはくれないだろうか…麗しくも強い君の名を‥」
煙幕が幾分薄れているとは言え、未だ視界は不明瞭。けれど、視認は出来なくとも"意"は伝わる。例えば、殺意や敵意といった類いのモノならば尚の事。先程、我は煙の向こうに嫌味を投げ放った。返答は無し。ただ、隠し切れない殺意を感じる。そう、此れは――…攻撃の予兆。「伏せなさい!」咄嗟に味方の諸士へと指示を飛ばす。ソレは敵の投擲したであろう"何か"が風を切る音と、ほぼ同時。だが、ソレで良い。今ので貴方の位置は解った。ノックも忘れる不心得者は、我が手ずから教育してあげる。右に控える使い魔達を喚ぼうと構え、気付いた。先程までの殺意の匂いが………無い。
クッ、逃げられた。なんて足の疾い。流石は月光の暗殺者と言うべきか。全く、荒らすだけ荒らしてとんずらだなんて。馬鹿にされた気分。冗談でなくてよ。ようやく煙が散り始める。有り難い事では在るが、その為に司令部の酷い有様を目撃する事になった。先ず、攻撃を受けた兵士達に看護師の手配を。幸いにして全員が軽症。大した傷ではない。ただ、問題は………「嗚呼、もう。折角纏め終わったのに」見るも無残たるは、整然と積み上げておいた筈の書類。仮にこのまま提出したら大目玉を賜る事間違い無し。再度一から纏め直さなくては。
『あのう………先程の敵兵は如何なさいますか?』後ろから遠慮がちな兵士の声が聞こえる。恐らくは我の不機嫌具合を察しているのだろう。「警備の強化、蝙蝠で追尾を。他は捨て置きなさい。 たかが刺客一人に多勢を裂くまでもありませんわ」「ただ、彼がどうやって此所まで侵入出来たのか。 その課程は気になります。報告を詳細に」その後、変装と身分証の件を聞き、捜索を兼ねた巡回を命じる訳だけれど。『あの時の貴女の表情は見ているだけで凍えそうな代物であった』と、後になって聞かされた。ソレはまた別の御話。
司令部から離脱追っ手の気配は無いこりゃ、見逃してくれたかな?おそらくは刺客一人を自ら追い回すよりも状況の収拾と立て直しを選んだのだろう先程、垣間見せた殺気から彼女が優れた戦士である事は疑い無いが指揮者としての資質も優秀らしいそんな彼女だからこそ、混乱を治め追跡やら何やらの手を打ってくるまで、そう時間は多くないあるいは、もう既に何か指示を飛ばしているかこんな状況では来た時のように、空からというのは無理だろう魔力感知系の追跡術を使われたら式神の召喚どころか、この幻術すらも察知されかねないと素顔に戻り、今度は真っ当な変装で下級兵の中に紛れよう
下級兵士の中に紛れ、刺客の捜索に従事する今まで華々しい活躍などとは縁遠ければ素顔を晒しても面割れする可能性など低いだろうついでに耳やら身体の一部を獣化させておけばナイトメアのワーウルフ兵で充分に通用する捜索を続ける中、兵士達の会話が耳に入る「刺客の件、補佐官殿が相当お怒りらしいぜ」「司令室に入った奴が、当分は夢に見そうと言ってましたよ」「夢の中でまで、あの冷たい瞳で…なんて、羨ましい…」何か、ちょーっとアレな人もいるみたいだが人の趣味嗜好はそれぞれである外の戦の大勢が決し、騒ぎに乗じて姿をくらます時までもう暫く、無益な捜索活動を続けよう
戦場に向かった精霊は、大回りに寄り道して、とある民家に向かった。降りた先は、数人が住んでいる大農場。そっと部屋の戸を開け、中にいる少女に声をかけた。「俺の探しモノと、あんたの探しモノは、きっと、近くにあると思う」一息おいてから、「俺は…自分の知り合い同士が殺し合いをしていようが、平気な性質だが、 それを見ても後悔しないってんなら…」白い翼を広げ、部屋に向かい静かに手を差し出す。「探しモノが大事で、心配だったら行ってやりな。 俺も一緒に行くからさ」精霊にしては控えめな語りかけ。微笑んでいるのは、彼女を不安にさせない為だ。
…首を掴まれたままでは喰いに行けないんだが…乾いた小さな咳が漏れ、朦朧とする意識の中で暢気な考えが浮かんだ。もがいた所為で足先の傷口が広がって余計に痛い。約束、自棄になったついでに果たすのかい誰かの叫ぶ声が聞こえ、火の手を氷の手が掴む。私達の間に誰かが立ちはだかり――それらの向こう側に巌念の背を刺す兵士の姿を見つけ、目を見開いた。息をするのも忘れ、腕を思い切り伸ばして兵士の顔面を掴み、握り潰さんばかりに力を込める。そのまま力任せに振り回し他の奴らにぶつけて投げ捨てた。そこまで暴れてとうとう酸欠になったのか、膝の力が抜けて動けなくなってしまった
部屋の戸口にいきなり現れた風の精霊を静かに見据える。「『他国の戦争に介入する気ですか?』って、お付きの黒犬さんに止められませんでしたか?」たぶん、戦士達にとって私こそ関係無き者…。今、その地に赴くことは野次馬以外の何者でもないのだろう。彼女の言う私の「探しモノ」は、今行けば見つかるかもしれない。けれど、それ自体が私の自己満足に過ぎないと思っている。行く理由がない…。そう頭の中で結論付けたころには既に、私は彼女の手を握っていた。結局、私も彼女と一緒で後悔するのが怖いのかもしれない。精霊は私がつかまったのを確認すると、窓辺から飛び立った。
少女から返された言葉に、精霊は苦笑を浮かべた。いつもほんわかとしている彼女だが、結構鋭い洞察力を持っている。「流石だな、りりー。…でも、それに対して俺が何て言うかも、わかってんじゃねーの?」くく、と低く笑う。しかしすぐに真面目な顔になり、「大丈夫、介入する気はねぇよ。あいつらなりの決着がついてから、お迎えするだけだから」そういうのを美味しい所取りというけれど、と付け加える。そして、差し出した手は、握り返され。精霊は少女を横抱きに抱えると、飛び立つ。向かう先はナイトメア。家主の気配を辿って、精霊は風を切った。
右肩は何か別の生き物が取り憑いているかの様に、相変わらず痛みと違和感が襲っているそういえば数年前に…こんな経験したっけ…等と頭の端でぼんやりと考えた目の前の相手は全くと言って良い程に表情を変えなかった兵として、いや…戦場に身を置く者としては理想的なのかもしれないかつて…男が傭兵と呼ばれるものだった頃は、同じ様に…一切の感情を顔に出す事が無かったああ…今日はやけに昔を思い出す日だな…と、男は内心呟く不味いな、と思ったのはその直後己の呼吸が荒く成った事に気が付いたからだった『……つ……』彼が何かを呟き動いたのと、背後に聳えるフェリール城から音がしたのはほぼ同時だったか
剣は地を這う様に、土煙をあげて此方へと向かってくる相手の軌跡には、男と同じ暗い赤が続く手負いなのは同じ、…恐らく、此れが決定打と成る筈男は咄嗟に剣を左手に構えたその顔には一切の笑みは無く、ただ…目の前の相手のみ、見据えて手元を確実に狙い来る剣右手は犠牲にしてやる積もりだっただが、振り上げる直前…相手の剣は地面に触れ、その速さと力を落としたらしい「……ッ」想像していたよりも軽い一撃その一撃を受けた直後に、相手の肩を目掛けて剣を振り上げた…だが、相手の肩に届いたかどうか、というところで男の身体ががく、と崩れた
倒れはしなかっただが、地に膝をつけた状態で、しかし視線だけは相手から外さなかった否、外せなかったのだが背後のフェリール城から聞こえたのは戦の終わりを告げる音だったと、漸く理解したああ……また届かなかったのか頭の片隅で国の戦にも、そして目の前の戦いにも破れたこの後の事は勝者に委ねるより他無いそう思ったら、一気に緊張の糸が解けたのか収めていた笑みがまた浮かんでしまった右腕、まだ動くな…などと暢気な事を考えたまま「負けだな…国も、俺も…俺は充分、愉しかったけれどね…」我ながら、随分と子供染みた感想だな…と思ったらまた笑みが止まらなかった
左耳のピアスは的確に、遠くの声を伝える。どこに居ても、だ。「…」どうやら、国も主人の決着は…着いた様子。今時、【乱破】など古めかしい言葉は、時代錯誤かも知れない…が、ね。主人を護るのも立てるのも…時には、必要だからな。青年の瞳に理性の蒼い色が走る。さて…捕虜にされる前に、主人の身を安全確保しなければ……踵を静かに返し、何処へか向かって歩き始めた
女は、…自ら喰われに来たか何を止めろと云うのだろう何故、阻止するのか…何故庇うのか…知っているこれは、こういう性質の女だひとを深く愛し、また、己をよく愛する者何時もこの女を妬ましく思っていたその真っ直ぐな姿に、酷く憧れ、…て……「……花…」ぽつりと呟く…あ…ぁぁああ…突然、全身を再び痛みが駆け抜ける掴まれた腕が、……大切だよ、とても…だから、何だ……何がいけないのかお前に用は無い、邪魔をするな骨兜に話し掛ける何時まで人間の振りなどしている早く、……眠ったようだ手を離すと、どさりと落ちたおや、死んだかな
――…どくん、と、また胸が鳴っただが、そんな事は気にならない気にならぬほど、火を十分に手に入れた女を恐れたりする事も、もう無い火は、骨兜の男の足から剣を抜くまだ、生きているのか迷わぬよう、送り届けてやろうフフ…女、お前も一緒に死ね薄笑いを浮かべながら、振りかぶる刃には、黒い火が男の血を貪りながらまがまがしく揺らめいていた剣を振り下ろそうとした、その時今度は、突然苦悶の声を上げる忘れていた「痛み」が、押し寄せてきた激しい痛みに抗うように、火は暴れ狂い、燃え始める此処へ来て、沢山殺した殺された苦しみ、心の痛み…与えた苦しみが、我が身へと跳ね返る
思ったとおりに扱えるはずだった。片時も離したことのないもの。癖も力も知っていた。驕り。己が力で無残な結果に導いた。地を弾むように描いた剣の影。自身の力を乗せることは適わず。辛うじて相手の右腕には当たった。その程度。浅い。緋の目の剣は、実に鮮やか。右手を捨てるように相棒を代え的確に反撃に移る。好機であったかもしれない刹那。今一歩、その壁が厚かった。次の手を繰り出すには脳が追い付かず。私のモノではなかった、時。だが、凶星はどちらにも輝いていたのだろうか。肩に衝撃が走ると同時に地に萎んでいく男。此方も打撲程度。限界が近かったのは同じだったか。
離さずにいる鋭い目。その瞳の奥は、どこか達観した眼差し。『負けだな…国も、俺も…俺は充分、愉しかったけれどね…』私越しに向けられた視線はフェリール城だったのだろう。男の目は、2つを見ていたようだった。「貴様は…。」笑みを知る剣…。私には必要の無いもの…。だが…この剣は…。長い沈黙にも思えた。切り替えられた煩い線路の上を行く様に、喧騒の声は走り出していた。気付くはずだった言葉も、何処かへ。透かさず相手の剣を弾く。まだ力が残っていたのが幸い。首元に剣を向ける。どこか満足気の男にかける言葉は見つからない。仕舞いに…。
敵味方それぞれが思い思いの声を出し始め、突如、その中から1つの影が現れた。「…・・長…終宴にて、よしなに・・・。」気遣いの言葉、労いの言葉は耳に残る。血が耳に入り聞こえなかったが、恐らく月の影。無言のままに、状況の説明を聞く。戦に勝利したこと、別働隊の突破、活躍。行動の分析。結果的には、勝ったが、足止めされ突破する作戦の失敗を悔いる。話の淵。「その者は…いかが致しますか?」「異能者だ…封じて牢に…後、上の者の指示を仰ぐ…。」「…御意。」剣を回転させ、腕を振り構えを解く。影と目も合わせず北に振り返る。その男は目を瞑っているようだった。
止血のみに留めた傷口。影が止めるのも聞かずに、剣を頼りに、時には壁に寄りかかりながら、歩き出す。見張りはいらんと…言ったのだがな…。…。一度だけ振り返った顔。それでも無表情だっただろう。夜の桜の一片を肩で拾い。黒い盾を背負った男は闇夜に消えて行った。
ソレは悪夢が潰える、ほんの少し前の御話。「以上に間違いは御座いませんこと?」今の今まで報告書に目を通していた補佐官は、そう問い掛けた。瞳は相変わらず文面を往来し、視線を上げようとさえしない。その言葉にビクリと身を震わせたのは若い兵士。先程から頭を下げ、獣種特有のツンと尖った耳が哀れな程に垂れている。叱責を受けているのだと、一見して知れた。ピリピリと張り詰めた空気が肌を刺し、穿つ。「侵入者の襲撃に為す術なく、あまつさえ身分証を奪われ。 そして結果、我らの作戦行動に支障を来たした」その一言々々は、熱も帯びていなければ、感情も含んではいない。
ただ、事実を列挙しただけの冷えた詰問。だからこそ逆に、受け手にとって辛いのだろう。叱って貰えるだけマシとは良く言ったモノだと常々思う。「今回の件に関して、貴方の処分は我に任されておりますわ。 司令は現在、御多忙であらせられるから」補佐官は其所まで話を進め、一息吐く。そうして眼前の、拝礼しているワーウルフを伺った。生憎な事に顔は見えない。泣いているのか、或いは歯を食いしばっているのか。「一個小隊を与えます。近隣で敗走している友軍を、 無事帰還させなさい。名誉の挽回、期待しておりますわ」ハッと頭を上げた少年兵が見たのは、補佐官の優しげな微笑だったという。
大きな翼を広げ、下を見据える。「…居た。ファンデム!」見覚えのある骨兜を見つけ、精霊は思わず声を上げた。傍には…何だろう? 黒い炎のような人影と、背の高いエルフの女性が居る。「りりーの探しモノはなさそう…だな?」抱えた少女に呼びかけた。まだ、降りるつもりは無い。骨兜の男は倒れているから、本当なら駆けつけたいのだが。精霊は羽ばたきながら、歯がゆそうに眼下の光景を眺めていた。黒い炎が、剣を振り上げるのを見て、少女を抱える手に力がこもる。
私の頭の上のほうから風の精霊の声があがった。彼女の見据える方向に私も顔を向ける。骨兜を被った方…、そして黒い炎のような人影と、背の高いエルフの女性。どうやら彼女は目的の「さがしもの」を見つけたようだ。そして、精霊の問いかけとは裏腹に私も目的の「さがしもの」を見つけてしまったようだ。「巌念さん…、見にきちゃいました。いきなり…、ごめんなさい」独り言のようにそっと呟く。精霊の手に力がこもるのを感じながら、私は眼下の光景をじっと見つめていた。
火のうねりが収まり、振り返って最初に目に入った物は…数人の兵が折り重なる、異様な光景。…驚いた。この男もまた、火の者がとても大切なのだ…と。「……花…」と、上から声が降ってきた。「…また、そんな目で見るのか…」悲しく笑い、声の主に語り掛けた。「何がいけないのか…分からないか?」問いかけ、腕に力を込める。いや、込めたつもりであっただけかもしれない。自ら凍らせた左腕、感覚は殆ど無かった。耳の端に地面と『何か』のぶつかる音が聞こえたのは、その時だった。はっとして前を向く。―地面に、骨兜の男が倒れていた。「しっかりしろ!」肩を揺さぶる。
様子を窺うが、兜の所為で顔色も表情も読み取れない。―急ぎ、回復と休息の措置を取った方が良い…と判断した時、「…ファンデム!」高い所から声が聞こえた。しかし、そちらを見る前に見えたのは…剣を振りかぶる黒い火。「…馬鹿者! …大切なものは…傷付けるのではなく、護るのだ!」火を睨め付け、右手で刀を構える。……が。剣ではなく、苦悶の声が降ってきた。「…なぜ止めるか? なぜいけないか…? ……お主の心が、泣くからだ。」狂った様に燃える火を見、視界が揺らいだ。空を仰ぐ…と、雲が出来ていた。願った。風よ、雲を運び雲よ、雨を。潰えさせるのではなく―安らぎを。
肩を揺さぶられ、名を呼ばれ、そして殺気を向けられた。ゆっくりと起き上がり、取り落としていた己の武器を掴む。その斧を、邪魔だとでも言わんばかりに、近くに屈んでいたエルフへ向かって薙いだ。煩い声が聞き取れないやっと周りは静かになったと言うのに目の前で苦しむ火の悪魔の腕を掴み、肩口の肉に喰らいつく。ずらした兜の隙間から炎が入り込んで鼻先や頬を掠めた。掴んだ腕からも燃え移るように、火が手を焦がしていく悪魔の肉を喰い千切り、血を啜り荒れ狂う黒い火を奪い尽くして纏った「…これで、満足か」掠れた声で悪魔へと問う
喉を潤した血の味が酷く悲しかったどんなにそれが甘くとも、腹が膨れるわけではない。「もうここは私達の居るべき場所ではない」戦の決着が着いた所為か焼け焦げた街道に残っているのは自分達と死骸だけだ。生き残った者は上手く逃げたのだろうか、それとも奪った血や火から彼らの怨嗟や慟哭が聞こえた。それらに混じって、助けを求める子供の微かな声もしていて「帰れ」雨宿りでも、傷が治るまででも良い今すぐで無くとも良い巌念の手に簡素で小さな、どこかの扉の鍵を押し込んだ。
赤い火が、我が身を焼き尽くす燃えろ…焼き尽くせ、ハハハ…今度は黒い火が高く舞い上がった他の感覚は全て失われ痛みと苦しみだけが、次々に押し寄せるわたしは、叫んでいた…赤と黒の歪んだ世界の中に、骨の白色が浮かび上がった骨が、己を壊していく…奪っていく阿呆め骨兜の悪魔の苦しみを手に入れて、火は嬉々として震えただがどうして、この悪魔を満たせてやれない――黒い火は薄れ、焼け爛れた顔が覗く痛みと苦しみだけが消えずに残っている堪え切れず、膝をつく何かを渡された「…。」喉が焼け落ちてしまった為か唇の焼け落ちた口元から発せられた空気は、奇妙な音を立てるだけだ
友人の足に、ぼろぼろの手を伸ばした(痛みだけなら、止められる…)届かない、もどかしい(剣士殿の、腕は…)仰ぎ見るのも億劫だ剣士殿の言葉は、わたしにも聴こえていたそれは、彼女がわたしに何時も話してくれていた事だっただがやはり、未だに、良く分からない…ただ、今は友人の足と剣士殿の腕が大事無いか、それだけが気掛かりだったそれから、約束が、まだ幾つか残っている…幾ら手を伸ばしても、届かない酷く悔しかっただが、少しでも身体を動かすと堪らなく痛むので、仕方無く諦める力が抜けていくその場に崩れ落ちる雨に、溶けていく(何故、まだ…)心の内で苦笑する
いつの間にか、雨が降っていた。家主は、人の形をした炎に向かい、荒れ狂う炎を自身に移す。炎から現れた顔を見て、精霊は、少女の呟きをやっと理解した。「そっか、巌念…だったんだ」さがしもの、見つかったな、と小さく呟く。崩れ落ちる、炎だった悪魔。もう殺意はなさそうだ。…多分。精霊は、静かに地に降り立つ。抱えていた少女を地に降ろすと、そっと背中を押した。「何か伝えたい事があれば…」そう言って、三人を眺める。ファンデムは歩けるだろうか? そもそも炎に巻かれて平気なのか?心配になった精霊は、少女に並ぶように、三人の元に歩いていく。
膝をついた悪魔から一歩後退り、手から逃れるように離れた。きびすを返し、エルフを一瞥してその場を後にするエルフの女――女か…ヘイアン文化の武士の格好は男だけかと思っていた。戦場跡には不釣り合いな少女と精霊の二人ともすれ違う。「…病院にでも送ってやってくれ」すれ違い様ににそちらを見ずに言葉だけを残し、彼女らが振り返る頃には跡形も無く消え失せ
…雨が、地を、身を、辺りを濡らしていく。火は、見えなくなっていた。骨兜の男が立ち上がり、その火を奪い去るまでを、剣士はただ静かに見ていた。薙がれた斧のその向こうは、入る事の出来ぬ、彼らの聖域の様な気がした。火が薄れて現れたのは、紛れもなく己の探したもので男に伸ばされたぼろぼろの手が、酷く悲しく、ひどく嬉しかった。(何も、出来なかった…)がり、と地面を握りしめる。いや、何をしに来たかさえ明確では無かった。殺戮を止めたかった訳でも無く、分かって欲しかった訳でも無い。ただ、大切なものを無くしたくなかっただけだ。
「…有り難う。」男が通り過ぎる間際、ぽつりと呟いた。彼には要らぬ言葉と分かっていたが、それでも己の大切なものを守ったのは彼だ。そっと、左手で知人に触れる。感覚の無いつながりはいつも通りで、妙に可笑しかった。遠くから足音が聞こえた。(聡い奴だな…)己を此所まで運んだ馬が、近くで止まる。側に佇んでいた二人に近づき、声を掛けた。「…彼を、頼む。」彼はきっと、私と在る事を望まぬから、と。深く頭を下げてから馬に飛び乗り、元来た道を走り出す。「…さて、どうするか…。戦を投げ出し、里の皆に顔向け出来んぞ…」遠ざかるナイトメアの城を仰いで苦笑した。