何度も交わる剣と魔。人と魔族。この二つは相容れぬのか。北の大地にて、戦いが幕を開ける。勝利の声を上げるのは、どちらの国か。
■禁止事項:・他者の行動・行為を著しく制限、または指定する描写。・単騎で戦局に多大な影響を与える描写。・俗に言う無敵と思われる行為、行動や描写。・世界観が大幅に無視されている描写。・その他、不躾であったり、不快に思わせる行動や描写。上記の行為はお控え下さい。相手があっての戦いです。ご理解のほど、宜しくお願いします。
■大陸地図:http://www.geocities.jp/kichi_k/LG_map/top.html(大判/作成:クロゼット様)http://lgtisiki.blog89.fc2.com/blog-category-8.html(携帯用/作成:コルナ・コルチェット様)御二方に感謝を。
自宅を飛び立ち、ほぼ真っ直ぐ西へと進む精霊。白い翼をはためかせ、地図を確認すると、一気に風をはらんで速度を上げる。いつもの大鎌は無く、長い刀を帯剣していた。−大切な友人からの頂き物ですので、大事に使うのですよ?−その刀を愛用していた、同室の黒犬の言葉を思い出し、一人苦笑を浮かべる。「大丈夫。壊したりなんか、しないさ」ぽん、と黒犬の愛刀を叩くと、精霊は目指す方向を見据えた。まず、目指すはレングルブ城。
「うーん・・・」なにやら思案顔の魔族「いや・・・これで行こう」氷と雪の名を冠した刀を二振り手に取り 同居人の部屋に向かう「我は往く お前も早う起きねば 目が溶けるぞ」 酒はいつもの所 食べ物は自分で何とかするが良い」扉に 挨拶代わりの蹴りを一つ外には 蝦夷鹿君と竜が待つ「すまんな 蝦夷鹿君 此度は枇悠で往く」ばさりと翼を広げる竜の背に乗り レングルブ城へと向かった
レングルブ城に佇む魔法使いが一人。魔女の帽子に巫女服という風変わりな様。懐に短刀を一本帯剣していた。「シファさんにイヴリースさんですか。いつぞやに約束した『舞』が見られるかもしれないですね。」空を見上げながら呟く。自身にとって初めての戦場となるが、不安はなかった。ただ、上がっていく魔力を感じながら、始まりの時を待つ。「そろそろでしょうかね…?」そっと北のほうを見据えた。
精霊の瞳が、城を捉える。翼を一度はためかせ、ゆっくりと降りると、見知った姿が居た。「りりー? 大丈夫なのか?」場違いと思われた彼女は、不思議と、落ち着いた表情を浮かべている。その顔を見て、精霊はそれ以上は何も言わず、いつものようにぽんぽん、と頭を優しく叩いた。「さて…こっちにゃ敵さん現れるかねぇ?」刀の柄を弄りながら、誰にとも無く呟く。黒犬が噛み締めていた柄は、布を巻きなおし補強してある。これなら、普通に握って振れそうだ。
「これを使ってみますかね」少年は、その体に似つかわしくない大振りの刀を取り出して呟く。“柳葉刀”と呼ばれる幅の広い刀。鍛錬はしているもののまだ使いこなしているとは言い難い。何より、重量のある刀は、少年の利点である素早い動きを制限してしまうのではという一抹の不安はある、が…。その他、呪符の類や装備を纏めて、帝都を出立する。「大陸は春が訪れたとは言え、ナイトメアのほうは…」まだ、寒そうだ。さて何処を目指したものだろう。国境付近、レングルブ城の辺りが最前線だろうか。既に幾人かそちらへ向かったとも聞く。(よし…)決意を固め、歩みを進める。
バラフィンの上階からは帝国領が遠望出来る。彼の国と剣を交えるのは此れで三度目。当然でしょう。ソレが人と魔の宿運だから。かつて一度、我はドラバニアで剣を振るった。一時の偽心で在ったとて、人の唱える覇を望んだ。面白いですわね。或いは"今"すら、予め定められていたかのよう。互いに海を挟む彼我。けれど距離は極めて近い。空路や海路を使えば、すぐにでも領域を侵せる程に。そして、敵軍の侵攻を予期した場合。ガーゼル、ゼレクス、バラフィンの三拠点が先ず標的となる。今回、我はバラフィン防衛を言い渡された。此れが前回演じた大失態の懲罰人事であるか否か。少々、気にならなくもない。
深く息を吸い、倍の時間をかけて緩く吐く。闇に閉ざされた視界が脈打っているように感じられるのは緊張と、やるせなさの所為。旅に出た矢先に勃発した今回の戦、よりにもよって相手が祖国だなんて。それこそが悪夢。癒しの杖を握る手が、汗ばみ始めていた。渦中に身を投じるなど、以前の己では考えられなかった行動だ。否、完全に割りきれる筈も無く、今だ矛盾を抱えたままだけれど。傍観の段階は過ぎた。そうして、衛生兵として此処に配属された。重要拠点はそれだけ負傷者も多く出るのだろう。出番なんてない方がいい。そう思いながら、聴覚を研ぎ澄ませつつ兵士の後方に控える。一言も、聞き漏らすまいと。
竜の背に揺られる事 数刻足下に レングルブ城が見えたさりとて敵兵の姿は在らず どうしたものか 迷う「さて 引き返すか」『―――!!(怒』「そう怒るな 冗談だ 兵が配置されて居るのは ゼレクスとバラフィン どちらだ?」携帯していた地図を広げる不意に高度を下げた竜の背からは 知人の姿が見えた「枇悠 降りずとも良いが もっと高度を下げよ」レングルブ城すれすれまで高度を下げる「りりー殿は件の舞を見に来られたか? 怪我をされぬようにな シーファ 御身はどうする? ナイトメアに向かうなら 乗せていくぞ」まるで散策に赴くような口ぶりで誘う
かなり出遅れてしまったが、戦場へ向って歩みを進める寒い海を越えての進軍とあってか、雪中装備を怠る訳には行かない一通りの装備を確認し小さく呟いた「よし、これで準備は完了か…」今回は一人と言う事で、何処か物悲しい…「気を引き締めろ…全く…」小さく苦笑いを浮かべ、進むべき方向を見定める…ふっと息を吐いて、戦場に向って走り始めた…
「やはり、この辺りはまだまだ…」寒い。帝都から来ると、季節が春からまた逆戻りしたような錯覚を覚える。海を渡って、ナイトメアのあるベリアス大陸まで行けば寒さはますます激しくなることだろう。いったい、彼の地には何時春が訪れるのか。そんなことを思っていると、上空に竜が飛ぶのを見て一瞬驚くが飛び方、その方角からしてどうやらあれは敵ではないようで安心する。さて、ともかく早々に城に入って先行しているであろう、味方に合流しなければならない。幸いまだ大規模な戦闘は起こってない様なので今のうちに…。
階下には戦へと臨む兵士達の姿が在った。一見慌ただしくも、その動きは統制が取れ。慌ただしさを感じさせるのは、むしろ昂揚の現れからか。そう、陛下は待ち侘びていらっしゃる。過去に幾度、覇を逃したか。目前としながらも遂に果せなかった栄光。『司令がお呼びです。作戦会議室に足労願います』なるほど。余計な懐古は不要ですわね。戦火に臨む姿勢ではなかった。我とした事が。伝えてくれたワーウルフに感謝を述べ、踵を返す。バラフィンに駐在している我らは防衛に徹し、敵の疲弊を待つと、そう当初は聞いていた。作戦に変更が在ったのだろうか。そんな事を考えつつ、回廊を歩む。
刀を弄りつつ、待機していた所に、上から声が降ってきた。ナイトメアに行くなら乗せていく、との言葉に首を横に振る。「いや、俺も飛べるから、一緒に飛んで行くさ。 風を味方に出来るし、竜と競争ぐらい出来るよ」小さく笑い、ふわりと飛び立って蒼い竜の隣に並ぶ。「他に居るかなー? 俺も一人位なら抱えていけるけど」そのまま上空から、味方の姿を探した。
「ほぅ・・・枇悠と競うか 風なれば さもありなん いつか・・・そうだな 戦争が終わったら 竜と風と 世界を巡ってみるか?」風の精の表情を不思議そうに眺め 告げる『他に居るかなー?』「さて・・・りりー殿は どうされるのかな?」一声啼く竜が指し示す方向を見れば小さな人影「あれは 味方かや? んー・・・なんぞ 良く見えんのぅ 我も歳かな」胸元から眼鏡を取り出し 隣にいる風の精に問いかけた
ドラゴンの羽ばたく音が上空で響く誰かがこちらを見ている様な気配を感じ、上空を見上げる「シーファ殿…イヴリース殿とリリティア殿か」龍に乗れば早くナイトメア領内に到着出来る…今回は少し力を借りてみよう、一人ではどうしようもない時が多いのだからとりあえず、上空に向って手を振ってみた
「あ…」シファさんとイヴリースさんの声に気がついたのは、声をかけてもらってから少し経った後だった。戦場に不釣合いな私を気遣ってのことだろうか。反応できなかったことに、申し訳なさを覚える。初めての戦場で緊張していたのだろうか…。それとも…。私は、じっとナイトメア領の城を見つめていた。ちょっと遅れてシファさんとイヴリースさんに告げた。「ナイトメアに向かうなら、私も連れて行ってください…。足手まといにはならないつもりですよ?」以前に抱えて飛んでもらったことがあったので、シファさんに抱えてもらうことにした。…2回目でもやっぱり少し怖かった。
余裕の現れか、前衛のデモンナイト達が密やかに会話を始めた。他者に比べ、得られる情報量が乏しくなる私の大切な命綱。当たり前のことながら、城の最上階とその上空では、鷹の眼を持つ斥候が闇にまぎれつつ偵察を欠かさないのだそうだ。帝国のちからはどれほどのものか。長く住んでいたにも係らず、兵役を忌避していた私はろくに知らない。尤も、知っていたとして売り渡す気もない。甘さと情故に。数日前に別れた友人を想う。そう、故郷には友人が所属していると言っていた。果たして、彼女も来るのだろうか。そろそろ来る頃合いだろう。気を抜くなよ、と。冷たい金属兜の下から紡がれる重々しい声に、深く頷いた。
竜に乗る魔族の言葉に、精霊は笑みを深くする。「そうだね、戦争が終わったら。ちと世界をぐるっと回ってくるか!」そう答えると、今度は竜が啼いた。魔族が眼鏡を取り出している。『あれは 味方かや? んー・・・なんぞ 良く見えんのぅ 我も歳かな』「んん? ライフィールが手ぇ振ってる。竜に乗りたいんかな? あー後、ありゃ、楊俊か? こっちに歩いてきてる」
目を凝らしていると、下から声がした。『ナイトメアに向かうなら、私も連れて行ってください…。足手まといにはならないつもりですよ?』少女の言葉に、精霊は一つ頷くと、翼をたたんで地に降り、彼女を抱えて再び羽ばたいた。「落とすつもりは無いけど、しっかり捕まってろよ?」にやり、と笑う。
『んん? ライフィールが手ぇ振ってる。竜に乗りたいんかな? あー後、ありゃ、楊俊か? こっちに歩いてきてる』「ふむ・・・では 迎えに行くとするか 枇悠 頼む」ふわりと旋回し 手を振る人影の元へ「ライフィール殿だったか 行き先はナイトメアだが 乗られるかね?」枇悠の背に 何人乗れるのだろうと 今更ながらに考えながら 声をかける「我の後ろに乗ってくれ すまんな 枇悠 もしかしたら もう一人 乗せる事になるやも知れぬ」心得たとばかりに 一声上げ 空へ舞い上がりもう一人 風の精によれば楊俊殿だという人影のほうへ向かった
レングルブ城に近づくやいなや先に見かけた竜が、こちらへ飛んで来る。見れば、背にはイヴリース殿が。少し向こうで手を振るのはライフィール殿だろうか。如何に竜とはいえ、三人も背に乗るのは少々気が引けないではないが少年一人の体重くらい、然したることはあるまい。「おおーい、ぼくもお願いします!」手を振りながら、急いで竜の方へ駆け寄る。竜の近くには風の精霊と少女…シーファ殿とリリティア殿か。「これが戦でなければ、さぞ楽しくなりそうですが…」そう、ぼそっとつい言葉が漏れる。
今回はイヴリース殿の言葉に甘える事にしよう「勿論乗りますよ、そのつもりで手を振っていたのですからね」龍の背中に乗り、出発に備えるしかし、この人数でナイトメアに向うのだからかなり心強いが、少し騎乗する龍の方が心配だ…訓練はしてあるから大丈夫だろうが…「それでは、ナイトメアまでよろしくお願いします陸地に着いたら真っ先に下ろして貰って結構ですよ」微笑みを浮かべ、少し冗談も混ぜて見た
ライフィールが竜に乗り、更に楊俊も乗りたいと声をかけてくる。自分もりりーを腕に抱え。「5人か。凄ぇな、大所帯だ」少女を抱えなおしながら、くく、と低く笑う。正直、心強い。風が届けてくれる状況は、こちらがかなり劣勢だが。この面子ならば、一緒に悪夢を打ち破れるような、そんな気さえしてくる。『これが戦でなければ、さぞ楽しくなりそうですが…』少年の呟きに、思わず吹き出した。青い瞳の青年も、冗談を言う余裕が頼もしい。「あはは、悪夢のピクニックにご案内ってな。 さ、乗り忘れはいねぇか? 行こうぜ、重量オーバー分は、俺が追い風を作ってやるから」
『おおーい、ぼくもお願いします!』手を振りながら駆け寄ってきた少年を掬い上げる「ちと 無作法をする 先頭は見晴らしが良いが 風がまともに当たるゆえ」己がコートの内に少年を抱き込み 後ろの青年の冗談に表情をかすかに緩ませる「さて・・・行こうか さっさと済ませて 帝都で呑むぞ」
耳に入るのは馬の足音と荷車の車輪が地を掻く音のみ。戦況も中盤だと聞くが、幸い未だこの辺りは静かなものだ。今度の戦、相手が帝国と聞いて私は後方の支援部隊に志願した。一時入れ込んでいたせいか、どうもあの国に対しては敵として徹しきれないからだ。志望通りに補給部隊を任される事となり、開戦より国内の各拠点に物資を運び続けてきた。物資運搬は補給路が確保されてから行われる為、敵兵に遭遇する確率は低い。今日まで特に何事も無く、そして今回もこのまま行けば無事に物資を届けられるだろう。目的の地はバラフィン城。前線基地の一つと聞いているが、接敵だけは避けたい。
なんだか賑やかなことになってきた。本当にこれが戦でなければどんなに楽しいことだろう。些か緊張感の足りなさを感じさせる面子だが、逆に私は頼もしさを感じていた。シファさんに抱えられながら前方を見据える。まだ少しだけ、空を飛ぶ感覚が怖い。ほんの数日前に別れた友人を想う。旅をしているその友人は、今はナイトメアにいたはず…。戦争を好まない友人は果たして戦場に来ているだろうか。「…いませんように」追い風に消されるほど小さな声で、私は呟いた。足が地に着かないのに慣れてきた頃、バラフィン城が見えてきた。
『ちと 無作法をする 先頭は見晴らしが良いが 風がまともに当たるゆえ』そう言ってぼくは、外套の内へ。内心非常に助かった。特に高い所がが苦手という訳でもないがさすがにこの状況で下を意識するなと言う方が無理な話。和やかな雰囲気とは言え、これから敵地へ向かうという緊張感も相まって自然、背には冷たい汗が流れるのを感じながら必死に外套にしがみつく。そんな中、精霊の少女の笑い声は、随分と気持ちを落ち着かせてくれる。さあ、そろそろ。彼の大陸が見えて来る頃ではなかろうか。
「そら バラフィン城が見えてきたぞ もそっと 肩の力を抜くが良い」抱き込んだ少年に声をかける「しまった・・・陸地についておったのに降ろしそびれたな まぁ 諦めてくれ」背後の青年の言った冗談に 遅まきながら冗談で返す「さて 枇悠 どこぞ 降りられるような手薄な場所は無いか探せ」風の精たちはともかく 竜は目立ちすぎる囮になるにしても 3人も乗っていては 負担だろう己よりもはるかに目の良い竜に 降りる場所を探させた
隣の竜に乗った魔族が、降下する場所を探している。そろそろ、こちらも降りる準備をした方が良さそうだ。「りりー、どっか降りたい所あるか?」何となく抱えた少女に話しかけてみる。もっとも、良く知らぬ敵国の領地で、何処に降りたいかと問われても困るだろうが。ゆっくりと高度を落としていく。今は未だ、イヴリース達と離れない方が良いだろう。竜程では無いが、自分も目が利く方だ。手薄な場所を、精霊も探しながら竜と並んで飛ぶ。
どうやら、目的地上空へ到達した様である…少々高い…と言うか普通に飛び降りたら大怪我ではすまないだろうただ、普通に飛び降りればの話だ「イヴリース殿、このまま龍に乗っていると目立ちますので私が陽動と囮を兼ねて、ここから飛び降ります…では、ご武運を…」返事を待たず飛び降りるまぁ、返事を待った所で止められるのは当然だろうが…
落ちる速度はとんでもない勢いで加速する剣を抜き、闘気を籠める地面が後建物3階位の高さになった所で剣を一気に地面に向って振り抜く爆風と轟音が周囲に響き渡り、自分の身体に逆風が舞い上がるマントをパラシュートの様に使い、落下速度を最小限に抑え着地する多少足が痺れるが、何とかなる程度だ心配を掛けないように、上空の龍に向って手を振った
返事が無い事をいぶかしんで振り向けば背後に居たはずの青年が居ない『では、ご武運を…』自ら囮になろうと飛び降りたらしい「ちっ 機動力も無いのに囮とは 楊俊殿 ちと目を瞑っておれよ 枇悠 追いかけろ」抱きこんだ少年諸共に竜の背にしがみつき 急降下に備える翼を窄め落ちていく青年を追いかけたはずの竜が 上昇に移る「枇悠 ライフィール殿を追え!」
再度 命令した足元から 爆風そして 上りきった所で下を覗き込めば 手を振る青年が・・・「なんとも 無茶をしおる なけなしの寿命が縮んだわ 囮なれば城門の衛兵の目前で降ろしてやったものを・・・」年寄りの寿命を縮めようとは なんと言う奴だ帝国に戻ってからとっくりと説教してやろうと心に決める「さて・・・空と陸と かなり派手に動いておるのだが 何の反応も無いとは・・・此処は もぬけの空だったかや? それとも 隙を窺ごうておるのかな?」誰に問うとも無く 呟く
「りりー、どっか降りたい所あるか?」頭上から声が聞こえる。何気なしに下方に見える城の様子を伺った。攻撃してくる様子はない…、不気味に城が佇んでいる。視界に1つの人影が入ってきた。ライフィールさん…、先ほど飛び降りたときは驚いたが手を振っているところを見ると無事なようだ。イヴリースさんの呟きが聞こえてきた。確かに…、静か過ぎるような気がする。罠だったのか、隙を伺っているのか…。どちらにしろ…。「シファさん、とりあえずどこかに降りませんか?シファさんだけならともかく、この状態で攻撃されるとかっこうの標的になる気がします。」
落ちていく人影。イヴリースが急いで竜に命令するも、間に合わず。派手な音の後、人影は着地した。こちらに手を振るのは、ライフィール。「無茶すんなぁ…」苦笑し、ため息をつく。しかし、派手に動いた割には、イヴリースの呟き通り、城は静か過ぎた。「んー…拠点を破棄して、敵が入ってきた頃合を見て爆破、 ってな作戦も考えられるな…」何にせよ、少女の言うように、空にいるよりは、降りて状況を把握したほうが良さそうだ。「そだな、降りるか」りりーに頷き、精霊は翼を窄めて降下する。柔らかく着地すると、少女を降ろした。
静寂を揺るがす爆音に、反射的に悲鳴を上げてしまった。動揺する私におそらく敵だろう、直ちに向かうぞと仲間が言い、軽く肩を叩かれ促される。「…え、ええ。何があっても防御できるよう警戒しながら…ですわね」防御範囲は狭いけれど。首を竦めながら騒音のあった方角へ、デモンナイト達の後ろにつき従い向かわんとする。自然と小走りにならざるを得ない。なにしろ置いて行かれては、何の為に居るのだか。地点は、差程離れていないように感じられた。通路を突き進み、突き当りの角を曲がって更に進む。これだけ大きな音を立てたのだから、殆どの兵が気付いたのではなかろうか?漸く来たと言うのが率直な感想だった。
このまま何事も無くその願いは、目的地であるバラフィンまであと僅かというところで潰える事となる。その原因は耳に入った僅かな異音。発生源まで距離があるのか、その詳細は分からない。ただ、寧ろそれほど距離があっても尚、届く程の音が発せられたという事はどうやらあまり望ましくない事が起きているようだ。咄嗟に部隊を停め、物資ごと街道沿いの森に隠れるよう命じる。所詮、我々は後方支援の部隊。数は居るがその殆どは非戦闘員で構成されている。迂闊に動いて敵の的になる訳にはいかない。また、迎撃の為に出て来た味方に勘違いされて同士討ちというのも御免だ。先ずは隠れて様子を窺うとしよう。
お辞儀をしながら、風の精霊にお礼を言う。少々…、時間がかかり過ぎたか。もしかすると帝国の本国はもう…。それも、こちらの方面に配属を命じられた私にとってはどうすることもできないのだが。ふっと気配を感じた。足音…、一人ではない…、恐らく何人もの兵士の足音。物陰に隠れて様子を伺う。どうやらライフィールさんの囮作戦は成功したようだ。デモンナイト達が彼の着地した方向へ向かっている。今のうちなら比較的楽に攻めることが城の中へ進入することができるだろうか。そう思っていた矢先…、デモンナイトの中にいた人物を見て私は思わず声をあげてしまう。「アンリさん?」
さて 御身はどうされるね? 彼女らの支援に入るなら 地上に降ろすが?」派手にノックせねばならなんだか・・・ライフィール殿の行動が バラフィン城の動きを促したらしい風の精と共に少女が降下し 地上に降り立つ警戒しながら徐々に高度を下げる「年寄りの冷や水という言葉が 月光にあるらしい ゆえに 我は 運搬係に徹しよう 御身は どうされるね?」返事があろうがなかろうが 対空砲火を浴びれば戦わずには居れまい今はまだ 地上に注意が向いておるがゆえの戯言
礼を言い、少女が駆けていく。「って、りりー、単独じゃ…!」声をかけるも、彼女の姿は敵兵に隠れてしまった。「やっべ…、どけこらぁぁぁっ!!」焦って背の鎌に手を……やろうとして気づく。「あ」今の得物は、鎌ではない。精霊は咳払いして、腰の刀を抜いた。「うー…ルナの刀とは言え、ちょっと心許無い…」ぶつぶつと愚痴りつつ、刀を振るい、何とか少女の姿を探そうとする。
高らかなる靴音を響かせ、足早に回廊を歩む。『バラフィンの東、ごく近い場所で爆発を確認しました』ソレはつい先程、司令部にて諸々の連絡を受けていた最中に飛び込んで来た報。仮に砲撃だとすれば、二撃三撃目が在る筈。帝国側の砲台に為り得そうな、例えば規模の大きい飛行部隊や船団といったモノも、付近には存在していない。なら………?事実のみを聞き、頭で整理し、可能性を考え、潰す。だがしかし、ソレも所詮は仮想と空論に過ぎず。事実を知る為には己が瞳で確かめるしかない。故に我らは、事実の確認と事態の収拾を命ぜられた。
目標地点には、じき辿り着けるだろう。私を含め全部で六つの足音は、横二列、縦三列に並ぶといった隊列で進む。所詮移動に重きをおいた通路であるから、高さも横幅もさほどない。爆音の主が何者であれ、こんな場所で遭遇は避けたかった。『アンリさん?』この場にそぐわぬ声に我が耳を疑う間、デモンナイト達は訓練通りに動く。踵が石畳を擦る音をたてて、間合いを取る。前四人は腰に佩いた獲物、力まかせに叩き切る為の長剣を抜き放つ。最後列は詠唱の構えを取った。「りりー…貴女、如何して」厭な予感ほど無慈悲に肯定してくれる。作戦変更があったのかも知れないが、確認できるのは事が終った後になろう。
斥候は何をしていたと苛立ちは一瞬。その間にも兵士は僅かずつ距離を詰める。「帝都に駐留してると期待してましたのに。…仕方ないのかしら」若干離れた場所から飛ぶ、誰かの叫び。この様子では他に侵入者がいる可能性は極めて高く、見過ごす事は許されそうにない。先頭の小隊長が、もういいだろうと割り込んだ。「見たところシャーマンのようだが油断禁物だ。…前列は眼前の侵入者を無力化、可能なら拘束する。 中列は第二の侵入者へ。 後列は中列の援護、ただし衛生兵は前列を援護しろ」詠唱の間を与えぬよう白兵戦に持ち込むのが狙い。まず前列二人が斬りかかる。その隙に中列は彼女の横を通り抜けようとした。
どうやら、自分の行動が敵軍を動かしたようだ…少し力を入れすぎたか…まぁ、戦場では小さな動きが泉に投げ込まれた小石の波紋の様に広がるのが恐ろしい所か…既に軍は展開され、こちらにも兵が向ってるシーファ殿がリリティア殿を追いかける様に空を舞っていたどうやらリリティア殿が敵陣の中に向っているらしい「まずいな…陽動に釣られて手薄になった所に向って欲しかったのに…こっちに釣られてどうするんですか…」頭を掻きながら周囲を見渡す近くに森がある…気配は感じるが、攻撃の意志は無いようだ…非戦闘員かもしれない
「森は問題ない…じゃあ、私が向うべきなのは…」自分が目指すべきなのは城…一度、帝国で肩を並べた人に合うのも一興かもしれない「城に向う前に、なるべく相手の目を誤魔化さないといけないな」地面に10本程の信号弾を埋め込み、導火線に火をつける森の方向とは逆方向に飛ぶ様に仕向けて信号弾を飛ばす森に帝国の部隊が居るように錯覚させる為だ「引っ掛かってくれると助かるが…どうなるか?」信号弾が放たれると同時に、城に向って走り出した
ライフィール殿が単独で降下して行った。自分はと言うと、慣れない空の上で萎縮しているばかり。(これでは、何の為にこんな所まで来たのやら)リリー殿もシーファ殿も、もう姿が見えなくなってしまった。二人とも、敵の真っ只中へ…。さて、何時までもこうしてはいられないだろう。空に慣れているらしいイヴリース殿ならともかく。このまま空の上で攻撃を受けるようなことになると甚だ、宜しくない。下手をすると彼女の足を引っ張りかねない。『…ゆえに 我は 運搬係に徹しよう 御身は どうされるね?』「手間をかけて恐れ入りますが、何処か適当なところで降下させて貰えないでしょうか?」
『何処か適当なところで降下させて貰えないでしょうか?』気丈な声が返ってきた「ふむ・・・適当なぁ・・・」 最前線に降ろすのは 気がかりではあるが子供でも武器を持てば兵士である暫し 思案手薄そうな場所を探し 降ろす「あまり無理をせぬようにな 我は 城外からの援軍を警戒する事にしよう」再び竜の背に乗り 上空へと舞い上がった
どうやらこちらに敵が近付いて来る気配は無いようだ。取り敢えず接敵という最悪の状況を避けられた事に安堵したのもつかの間、もっと嫌なものが、私の視界に飛び込んで来る。あたかも森から発せらたような信号弾。「…まずいぞこれは」あれは恐らく、森に帝国の部隊が居る様に見せる敵の工作。しかし実際、先程の爆音のせいか森の中には獣一匹の気配さえない。潜んでいる我々を除いては…「総員、撤退準備をしろ! 荷物は全て捨てて構わん!」下す命令もやや慌て気味に。このまま此処に留まれば、同士討ちに成り兼ねないからだ。もしかしたら、こちらの存在にも気付かれていたのだろうか。何たる失態だろう。
苦々しさを噛み締めつつ、副官を呼び寄せる。「お前はこのまま部下達を率いてフェリールまで下がり、現状を上に報告してくれ」出来れば私もこのまま退きたいが、誰かがあの信号が偽りのものである事を伝えにいかねばなるまい。ああいう手を打つという事は、敵は少数。なら、接敵の危険性があるのは城の周辺のみ。そうなると非戦闘員である部下を伝令に差し向ける訳にもいかないのだ。勿論、部下達が無事に退避出来るかも心配ではあるが、敵にも撤退する部隊に手を出す余裕は無い筈だし大丈夫だろう。「何でこうなるか…」溜め息混じりに呟いた後、バラフィン目指して全力で駆け出した。
思わず声をあげてしまった自分の間抜さを嘆いた。ここは戦場…、例え誰であれ敵国の者であれば遭遇する可能性はあったのに…。初陣とはいえ自分の甘さを痛感した。前列の兵達が切りかかってくる。逃げるようにしてそれをかわす。その隙に私の横を数人の兵士が通り過ぎて行く。(このままじゃ、ただの足手まといじゃないか…)相手の兵士は私に魔法を詠唱させない気らしい。執拗に白兵戦を望んでくる。十数秒でも隙を作ることができれば…。咄嗟に私は懐からあるものを取り出す。光を放つアイテム、いわゆる閃光弾である。連絡用に買っておいたそれを、私は素早く解き放つ。目が眩むほどの閃光が辺りを包んだ。
何かを見つけたのか。敵の流れが変わる。「よし、この隙に」刀を納めて、精霊は翼を広げて飛び立つ。飛び道具を持っている兵がいたりすると、良い的になるが、今なら大丈夫そうだ。飛び立つと同時に、前方から鋭い光が爆発した。「閃光弾? あれか!」光の中に、特徴ある少女の姿を見つける。一小隊が少女に襲い掛かかっていた。精霊は風を纏ってそちらに飛ぶ。何故かこっちに向かって来ている兵と、地上と空とですれ違うが気にしない。「りりー、伏せてろ!! 一陣の風よ…吹き荒れよ!」彼女を囲む敵兵に向かい、足止め目的の突風を放つ。
その隙に敵兵と少女の間に飛び込み、続いて抜刀と同時に風を乗せて斬りつけた。少女を背に庇う様に立ち、隊長格らしき人物を睨み付ける。「なってねぇなぁ…悪夢の一般兵は」刀を正眼に構え、にやりと笑った。「なってねぇよ。見た目がか弱い女の子に寄ってたかって襲い掛かるなんて、さ。 一騎打ちぐらいしてみろよ、おっさん。 ま、それができねぇから戦場で名乗れもしないんだろうけど」言いたい放題言ってから、背中の少女に呟く。「俺が白兵を引き受ける。りりーは遠慮なくやっちまえ」精霊は少女の知り合いがこの場に居る事を、未だ知らない。
『あまり無理をせぬようにな』「はい、お互い御武運を…!」相手の心配をしていられる立場でもないがともかく、そう言ってイヴリース殿と分かれる。さて、地上に降りたものの、すぐに移動せねばまずい。竜が降りた地点に、程なく敵兵が向かってくるに違いない。先程森の方で信号弾が上がったのが気になる所。我々に信号を送っても意味の無い話なので恐らくは先に突入して行ったライフィール殿が陽動を仕掛けたに違いない。と、言う事は。彼は城に向かったのだろうか。だとすれば、自分がとるべき行動は…。幸い此方へ向かってくる殺気は今の所感じられないのでこのまま極力戦闘を避けつつ、城へ。
ふたつの剣先がむなしく空を切る音が聞こえた。少女は予想以上に俊敏らしく、私は内心胸を撫で下ろす。この喜びは誰にも言えない。そればかりでなく、間髪入れずに炸裂した閃光が真正面に居たデモンナイトの眼をやいたようで呻き声があがる。盲目の私には通用せず、また少女の傍を抜けた中衛は背を向けていた御蔭で免れることこそ出来たものの、目標との機動力の差により距離が開いた。踵を返す間すら惜しい、生まれた数秒の隙を突かれる。追い討ちで来た突風に全員がたたらを踏んだ。風の精霊が放ったするどい斬撃を、小隊長は培った経験と持ち前の勘をもって受け流しながら、彼女の台詞を鼻で笑い飛ばした。
「外見通りの娘ならば、今、この場に居る筈が無かろう。 よもや迷子などと戯言を続ける気か? 見え透いた挑発に乗るメリットも無い…そろそろ視力が戻って来たようだ」長剣を構え直し、睨み合う。彼同様に立ち直りつつある前衛の片割れと、私の隣にいる兵士が、一歩退いていた体勢を立て直そうとしていた。中衛が戻るにはまだ少し時間を要するだろう。小隊長をなじる女性の言葉が刺さり、ちくりと胸が痛む。まるで罰のようだ。けれど私は構わず、隣の術師と共に呪文を紡ぎ始める。地の利を活かした捕縛の呪文は、この地に眠る多くの死者を呼び覚ます筈。「此地に眠る魔の眷属よ。同胞の声に応え、外敵に戒めを――!」
風の精霊の助言を受けて、私は呪文の詠唱に入る。そろそろ、兵達の視力も戻ってくる頃かもしれない。でも、彼女がいてくれるおかげで白兵になることはない。初陣の未熟さを感じてはいたが、反省するのは後ほどになりそうだ。ふっとアンリさんの姿を確認する。無事を確認して安心する辺り、やはり私は甘い…。彼女が何か呪文を詠唱しているのに気がつく。(あれは…、捕縛呪文…?)地の利もある。ここで放たれたら状況は悪化するだろう。(私の魔力でアンリさんの魔力に勝てるだろうか…)「我に宿いし氷の心…、帝国の刃となりて魔を封じよ!」魔の呪文に対するように氷結呪文を後方の術者へ放つ。
自分が放った戯言に、律儀に付き合ってくれる隊長格。が、悲しいかな、少々論点が違う。「だから、なってねぇっつーの。挑発じゃないし。つか挑発する必要もねーし。 格好良いかどーかの話で、実用的な話じゃないから、うん。 あ、でも、迷子はちょっと正解?」無駄口を叩きながらも、攻撃の手を休めることはなく。立て直しかけた前衛の兵の鳩尾に膝蹴りを入れ、斬りかかって来る兵の顔面に肘鉄をかまし、更に隊長格の剣を握る手を斬りつけ、一歩踏み込む。女性の力なれど、風を伴った攻撃。ただで済む筈は無い。「言ったろ、挑発する必要は無い、って」
烈風と共に、隊長格の喉笛に突きを入れた。…その直後。詠唱が聞こえると共に、ざわりと嫌な感覚が精霊の体に走る。(死者の召喚!?)精霊の表情から笑みが消え、風の力を解放した。「…鎌鼬っ!!」少女が放った氷の術と共に、後方支援の術者達に不可視の刃が襲い掛かる。当然、片手間に放った風である為、たいした威力は無い。が、集中を乱せれば良い。「それだけはやっちゃいけねぇよ。 死者を…、彷徨える魂を操ることだけは!」精霊は、真っ直ぐに「彼女」を睨み付けた。襲い掛かる兵の攻撃を受け流しながらも、「彼女」から目を離すことは無い。
状況を掴むために 城の周りをぐるりと巡る「・・・信号弾?」森から飛んだように見えたが・・・「ちと 見に行くか」命令と取ったか 城の上空で竜が森に首を向けるすると足下に森の方向から 城へと向かう人影を確認「枇悠 高度を下げよ」人影が判別できる高さまで高度を下げさせ溜息一つ「降りよ」城へと向かう人影の手前で竜の背から降りる「この先の城へ向かうのなれば 止めねばならん 引き返すつもりはないか?」戦場でしか会えぬ人に声をかけた
風の精霊の猛攻をデモンナイト達は凌ぎ切れなかった。鳩尾に膝蹴りの決まった前衛の兵はくずおれ、鼻柱を砕かれた同列の兵も血を撒き散らして倒れこんだ。手を斬られて剣を落とした小隊長は、首の側面を抉られつつも間一髪身を捻って刺突から逃れる。が、激しい出血に堪らず貧血を起こしたらしい。ぐうっと濁った苦鳴とともに噛み締めた口から血泡を零す。膝から力が抜け、此方は前のめりに倒れた。瀕死の小隊長を足許に、呼吸に乱れのなさそうな彼女は充分に余力を残しているようだった。少女と風の精霊。中衛二人が彼女たちを隔てた向こう側に戻れた頃には、すっかり形成は一転して私たちが劣勢だ。そして数秒も置かずして、
少女が放った魔力は片割れを。風の精霊が放った鎌鼬は私を。体中のあちこちを切り裂き、無防備に紡がれていた後衛の詠唱を妨げる。傷口から噴出す鮮血はたちどころに凍てつき、体温を奪い去る。苦痛は後から追って来た。カン、カラララララ。衝撃に手離した癒しの杖は風に飛ばされて、乾いた音を響かせ背後に転がっていく。重くなった体で、私たちはよろめくように僅かに後退した。『それだけはやっちゃいけねぇよ。 死者を…、彷徨える魂を操ることだけは!』死者を冒涜する禁忌に触れた私を糾弾する苛烈な声音。いいえ。痛みと寒さに戦慄く唇は、それでも半ば無意識に反応した。声が届かずとも構わない。
彼女に向けて私は言う。喪われた生命と共に在れることを私は切望しているの。だって、彼等は眠っていないのだから。しかし、触媒がないと術の成功確率は格段に落ちてしまう。ひとり分の魔力でも死者に聲を伝えられない。しかも歯の根が合わないときては。如何しよう?さきほどの小隊長の言葉を裏付ける実力を持つ、二人を相手に。短剣でも持つべきだったか。りりーを害するなど無理なのに、ふと思った。そこへ、中衛と後衛のデモンナイトが動いた。私と共に後退り掛けていた兵が傷だらけの体を捨て、長剣を構えて渾身の突進を行う。中衛は彼女等の背後から、挟み討ちかつ捨身の三段斬撃を放つ。その隙に杖を拾えれば――。
私と風の精霊の試みは後衛の詠唱を一時的に止めることに成功した。杖を弾き飛ばされるアンリさんが視界に入り心が痛む。(ごめんなさい…、アンリさん)眼を逸らすことを必死に堪えながら、私は呪文の詠唱に入っていた。彼女達の動きを封じる捕縛呪文。私一人の魔力では大規模なものは無理であろう。しかし、一人…、アンリさんだけ動きを封じることができればいい。主力の術者を失えば、先ほどの術を成功させることはできない。その時…、後衛の術者を守るようにデモンナイト達が捨て身の剣を放ってきた。前方から…、そして、私達を挟むように後方からも剣が襲ってくる。
とっさに懐の短剣を取り出し剣に重ねようとするが詠唱に集中していた分、反応が遅れる。私の身体が鮮血を伴って吹き飛ばされた。短剣が手からこぼれ落ちる。「し…、しつこいですね…」次の瞬間、私の周りの兵達の身体は氷によって束縛されている。痛みで集中力が乱れたか、頭に血が上ったか…。私の魔法はデモンナイト達に唱えられていた。(アンリさん…。)彼女の姿を確認する。ちょうど杖をその手に納めようとするところだった。
『彼女』を睨み付けた時に感じた違和感。乾いた音を立てて転がる杖。そして、その杖を探す姿。「目、見えねぇのか」戦場で放った言葉よりも、そちらの方が先に口を突く。兵が真正面から。そして背後から迫る。少女が弾き飛ばされた。「りりー!」が、次の瞬間には、彼女の周りの兵が氷付けにされていた。安堵の息をつき、残りの兵を蹴りつける。―喪われた生命と共に在れることを私は切望しているの。だって、彼等は眠っていないのだから。―「…眠らせてやろうぜ。彼等は眠りたくても眠れないんだ。 だけどそれがわかっていて、起こすと言うのなら…」
『彼女』に答えながら、無造作にその元へ歩いていく。抜き身の刀をぶら下げたまま。そして立ち止まり、「その望み、俺が受け入れる。いくらでも喚べよ」静かな声で告げた。魂葬の風には、『彼女』の想いはわからない。理解できない。だから、受け入れようとする。だけど。「だけど、俺は彼等を眠らせる。いくらでも喚べ、その代わり俺は壊す」矛盾した答えだ。だが、精霊は本気で、『彼女』に応えようとしていた。あくまでも、敵という立場で。「りりー、援護を頼む。…悪ぃな、付き合せて」刀を正眼に構え、少女に呟く。精霊はまだ、自国の敗北を知らない。
例え敵に当たろうが、無視して駆け抜けるつもりでいた。頭上に懐かしい気配を感じるまでは。刹那だけ、懐かしさと安堵を覚えたが意識的に掻き消した。その気配の主が今ここに居る事は望ましくない。そしてそれが近付いて来ているとなれば…自然と足は止まり、徐々に気を練り始めていた。気配が上から降りて来て、久し振りに彼女を視認した。引き返すつもりはないか?彼女はそう問い掛けてきた。声を聞くのも久し振りだ。出来れば戦いたくはないという気持ちは今も変わらない。だけど…。「私は悪夢だ。邪魔をするなら推し通る。」今は悪夢に忠誠を誓う身。それだけは違える訳にはいかない。
『私は悪夢だ。邪魔をするなら推し通る。』あぁ・・・彼女らしい返答だ此度は 悪夢に仕えたか・・・「息災で何よりだ 相変らず 我の前に立つのだな まぁ 良かろう」幾度もイヴと呼べと彼女に懇願した我は もう・・・・・居ない 情も友愛も 全て過去脳裏を掠めるわずかな懐かしさに取って代わる意思「此処で御身に見えたは 僥倖 我の死神となってみるか?」抜き放つ刀は 雪華ではなく氷雪 破邪の代わりに佩くは雪華守りを視野に入れぬ装備「手加減は無用 かかって参れ」更に腕を上げたであろう相手を挑発した
ひとつの剣は彼女の脇腹を浅く切る程度に留まっていた。少女の身と交錯したまさにその瞬間、発動した氷が兵士の肉体を覆い尽くし、一ミリたりとも、そこから動かないよう至らしめた為だった。前方から名残の冷気が私に吹きつけて来る。悲鳴こそ聞こえども、あぁ、彼女は軽傷で済んだようだと知れた。今度ばかりは、彼女の無事にまで気を払う余裕は無かった。ふたつの剣は風の精霊に届く前にあしらわれた。鳩尾を蹴りつけられた彼等は通路の壁に叩きつけられたのち、凭れかかる姿勢で動きを止めた。脳震盪を起こしたか、あるいは肋骨の数本程度は折れたかも知れない。命を惜しまぬ攻撃は命拾いと引換えに達成する機会を失った。
残るは私だけ。確かそう、この辺りに音が響いていったように思う。引っ掻くように床をまさぐる手が、幸運にも硬く細い柄の感触を探し当てる。風の精霊が何か言っているような気がしたが、必死に杖を追っていた私の耳には遠い。…あった…!威嚇にもならぬだろう、拾い上げたそれを構える。精一杯の虚勢と映るだろうか。すぐ真正面で、風の精霊が立ち止まった。『その望み、俺が受け入れる。いくらでも喚べよ』さきほどに比べ、語調も殺気も和らいでいるように感じられるのは、私の言葉が届いたの?これほど近い間合いなら、踏み込みとともに斬り殺す事とて容易できよう。彼女の動きに比べて私の動作はあまりにも鈍重に過ぎる。
しかし、彼女が斬ろうとしているのは私ではなく死者の方らしい。この人もまた、死に近い存在なのだろうか。さきほど見せた激怒の意味を考えるに、勘違いであろうともある程度予想ができるような気がしなくもなかった。なんだか笑いたいような気持ちが、ふつふつと湧き上がる。唇が三日月を形作ろうとして、失敗した。鼻の奥が微かに痛んで、声が震える。「酷いわね。壊してしまったら冥界へ往けないでは、ありませんの…。 送り届け、安らぎを与えてくれるのであれば喜んで私は喚ぶでしょう。 ですが…貴女を相手に、それはできませんわ」意地が挫ければ杖を下げてしまう。だから、堪えなくてはならない。
周囲で倒れている仲間は重傷とは言え、まだ息がある者が殆どだろう。彼等を癒さなければ。屈辱は消えずとも、その苦しみを。城内の至る所から鬨の声があがり始めた。ざわめきが壁越しにも広がりつつあると分かる。何かが私たちの預かり知らぬ場所で終わった証。「…そろそろ、御帰りになられては如何かしら? この場は私の完敗ですわ。捕える事こそ叶いませんが、兵は他にも居ますもの。 それとも、私を殺して逃げますか?」この身は相変わらず悴んだままで、回るのは舌くらいのものだ。前髪に隠れた額にじわりと厭な汗が浮く。早まる動悸を悟られないように、努めて平静を装う。
私が知る彼女は、少なくとも嘘を付いて相手を惑す事はしない。なれば自身の死を口にしたという事は、決死の覚悟で私を止めるという意思の顕れだろう。「…成程、それほどまでに後ろの仲間が大事という訳か」厄介なのだ。こういう何かの為にという意思を持った者は。加えて、彼女は以前対峙した時とは得物が違う。腕も上がっている事だろう。全身、爪先から毛髪一本一本の先に至るまで練気を馴染ませ、意識はただ、彼女に一撃叩き込む事にのみ集中する。間合いも殺傷力も彼女が上。だからこそより自身を鋭く研ぎ澄ます必要があった。彼女の刃が捉えられぬ程の速さを得る為に。
「その心意気は見事、しかし打ち砕くっ!!」その声と共に飛び込む…筈であった。背後から迫る蹄の音さえ無ければ。それに続く声さえ無ければ。『隊長!帝都が陥落しました!戦争が終わったんです!』浮かれた声の主は退かせた筈の副官だった。恐らくどこぞで勝利の報を聞いて引き返して来たのだろう。身も心も作り上げていただけに、思わず嘆息が漏れた。水を差された気分だが、終わったのなら仕方がない。「…らしいな。早々に退かれるが良い。 貴殿も此処で無意味に散るつもりはあるまい?」構えは解かず、様子を窺いながら問いた。
私は膝を付いた体勢でじっと2人のやり取りを見ていた。もちろん必要あらば魔法をいつでも唱えられるようにしている。その必要がないことを祈りながらであるが。死者に対する想い…、正直私にはどちらが正しいのか判らなかった。そもそも、その想いに正否などあるのかも判らない。生死に対する想いは命を持つ者、持った者の特権だと思う。私は造られし者…、その想いは判らない…。杖を気丈に構えるアンリさん…。でも、その様子から殺気は感じられない。少なくとも先ほどの捕縛呪文を唱える様子はない。もし先ほどあの詠唱が成功していたら、私たちはどうなっていたのだろう。
『―それとも、私を殺して逃げますか?』彼女の言葉に私は2人の元へ歩み寄る。「シファさん…、アン…、えと…、彼女の言う通りです。仰りたい事はあるかもしれないですが、ここは一旦退くべきかもしれないです…。」城内の様子が変わりつつある。察するに何かが終わりを告げたということ。恐らく、私達がここにいる理由は無くなったのだ。「あの…、兵隊さんたちは無事です。氷付けになっていても命に支障はないようになっていると思います。私、変なところで未熟ですから…。」アンリさんにそう言い、自分の甘さを感じた。彼女は敵…、そしてここは戦場なのだ。後で風の精霊に謝罪をし、お叱りを受けるとしよう。
目の前の、光を失った女性が放った言葉に対し、精霊は苦笑する。女性の声が慄いているように聞こえるのは、氷の寒さか、それとも。「悪ぃな、魂を送るための武器は、壊しちまって。 今の俺には、二度と起きない眠りに付かせるしか、方法がねーんだ」構えは解かず、ふと首をかしげた。「でも不思議だな、人間って。 自分の都合で喚んでおいて、安らぎを願うのか」で、喚ぶのか喚ばないのか、と訊ねようと思った時。
彼女が周りを伺うような仕草をとった後、口を開く。『…そろそろ、御帰りになられては如何かしら?〜』「…む」言われて、気づいた。城の中の雰囲気が変わっている。そう、これは…。「終わったんだな」隣で声をかけてくる少女に頷き、刀を納めた。自分の翼から、白い羽を一枚抜く。女性に向けてそれを飛ばし、ぱちりと指を鳴らした。彼女を取巻くのは、鎌鼬ではなく、癒しの風。
「そんなんじゃロクに動けないだろ? 他の悪夢の兵が来る前に、俺達ゃ退散させて貰うぜ。 俺はシーファ。風の精れ…いや、魂葬の風だ。 …今度は、ちゃんとあんたの願い、受けてたってやるからな」一気に喋ると、その場を飛び立つ為に、少女を抱えようとする。「イヴリースを探そう。合流して一緒に帰るぞ」城を出たら、真っ先に探すのは蒼い竜だ。
蹄の音と共に 己が全てが終わる 『貴殿も此処で無意味に散るつもりはあるまい?』構えを解かぬままに問われる「あぁ 己が身の始末ぐらい心得て居る 御身の手を煩わせる事もない ・・・雷麗よ 御身の甘さを含めた全てが好ましかったよ 再び共に在る事はかなわなんだが 最期に御身に見えたは ほんに僥倖であった では 息災でな さらばである」武人なれば 語った意を汲むだろう背後から襲われる心配なぞないゆえに 無造作に背を向ける「さて 枇悠 還ろう ・・・おっと 乗せてきた方々を帝都へ送り届けねばならんか 遺された時間は少ないがどうされるのかな?」
幸い敵兵に発見される事も無く、さあこのまま城へ、と思った矢先。どうも城の様子がおかしい。あれは…勝鬨だろうか…?そうか、帝国は。「敗北してしまいましたか…」と、ここで感傷に耽る暇など無い。一刻も早くここを去らないと。いつまでもここに居る理由はないし何より、残党狩りなどに出くわしてしまっては堪らない。今まさに突入せんとした城にくるりと背を向け先程来た方向へ焦らず、慎重に、と己に言い聞かせつつ走り去る。彼方に竜の姿が。間違いない、あれは枇悠。皆無事だろうか?ともかく急いであそこへ…。
「どうするかのぅ・・・ 運搬役としては 此処で待つのが筋だが・・・」枇悠にもたれ 城の方角を眺めれば 風精と少女そして 地を駆けてくる少年が目に映る「おぅ 無事であったか 良かった良かった 帝国に帰るぞ ところで 一人足りぬが 見かけなかったか?」 来た人数で帰りたいだが 残党狩りに出くわしたくも無い城に視線を投げかけたまま 珍しくも途方にくれた (雷麗殿 お相手感謝する ありがとう)
風の精霊が苦笑する気配がした。腑に落ちぬといったふうの彼女に、陰った表情にて返答する。互いの在り方を、たった一度の邂逅で理解などできはしないだろう。「本当に…残念でなりません。このような場ではなく別の形で、もっと早く御会いできれば良かった。 彼等は大陸の何処にでも居る…喚ぶと言うよりは語りかけるの。 私の根は一つなのですわ。 ただ死者を悼みたいだけ…」そこへ歩み寄って来た少女が、言葉に詰まりながらも場を取りなしてくれる。戦闘による高揚感が、今は把握を邪魔していても。以前交わした、敵である前に友人だという約束が違えられていない事実だけは分かる。当面の危機は去ったのだ。
「りりー…少しの間に強くなったわね。 でもその未熟さ故に、私たちは命拾いしましたのよ」礼は口にしない。場違いであるし、第一口にせずとも伝わるような気がする。所々自信の無さが滲む言葉が引っ掛かるが。反論しようとして続けて口を開いたものの、ふと思い返して取り止める。こちらの件に関しても、伝えるのは別の機会が相応しい。かちん。硬い音がして、丁度風の精霊が刀身を納めたところだった。次いであたたかな風が私を包んで、傷をまとめて拭い去っていく。頬をくすぐる髪を片手でやんわりと払う。一息に告げられた最後の言葉に、微かに顎を引いた。私の願いを受けて立つ?
それはつまり、今度こそ眠れぬ死者を滅ぼすという宣言でもある。てっきり死神だと思っていたが、強ち間違っていなかったよう。「次がありましたら…願わくば戦場以外が望ましいですわ。 貴女の御名前、覚えましたわシーファさん。 りりーもまた御会いしましょうね。必ず」彼女等の横をゆっくりと通過して、もっとも近くで昏倒している仲間の前に屈む。触れた首筋からは確かな脈動を感じる。デモンナイトは案外頑丈にできているらしかった。彼等に流れる魔族の血と、りりーに感謝しよう。背後は振り返らない。本来の役目を全うできるよう願いながら、治癒呪文を唱え始めた。
風の精霊に抱えられながら、上空から城の脱出を図る。恐らくシファさんが上手く飛んでくれているのだろう。幸いにもナイトメアの兵士に発見されることもなかった。私は、シファさんに聞いてみたかった。なぜシファさんとアンリさんは、命について真剣に語っていたのか。この戦場にいる全ての戦士たちが、それに対してそれぞれの思いを持っているのだろうか。魔法人形の私は、壊れることはあっても死ぬということはないから。「ごめんなさい…」私は、誰に言うでもなくそう呟いた。前方にイヴリースさんと枇悠さんが見えてきた。良かった…、無事だったのだ。手を振りながら…、今更空を飛んでいるのが怖くなった。
自分が放った言葉に対しての、女性の反応に、ふと気づいた。「魂を送る」為の武器は、難なく手に入るもの。彼女に言った「次」には、その武器を用意するという意を含んでいたのだが。肝心な事を言うのを忘れてしまった。「…ま、いっか」負傷した兵に向かう女性に、「じゃあな」と声をかけ、柔らかな風を送って少女と共に飛び立つ。「ところでりりー。あの娘とダチなんだろ? 水臭いな、言った所で別に怒らねぇよ。手は抜かないだろうけど」何か呟いた少女に向かい、苦笑しながら話しかけた。
「あー、もしかして。 甘いとか、怒られると思った、とか? くくく、心配しすぎだっての」両手が開いていたら、わしわしと少女の頭を撫でていただろうが、生憎空の上ではそれは叶わない。そうこうしている内に、蒼い竜が近づいてきた。「お待たせ、イヴリース。 帰ろうぜ…っと、ライフィールの姿が見えねぇな?」珍しく途方に暮れた様子の、蒼き魔族の顔を見て、精霊も今まで戦っていた方向を見つめる。
『帰ろうぜ…っと、ライフィールの姿が見えねぇな?』風精と少女が合流する「うむ・・・無事であるといいのだが・・・ もう時間が無い 彼なら 無事に帰ってくるだろうゆえ 楊殿だけ連れて帰る」竜の背に乗り 駆けて来る少年を掬い上げ そのまま帝国へ空路を辿る――――― 数刻後 帝国にて「すまんな ゆるりと空中散歩を楽しんでもらいたかったが 時間がなくなってしまった 御身らの武運を祈る」少年を竜の背から降ろすと 魔族は 何処へとも無く姿を消した
帝都に付いた後、ふらりと、蒼い友人は姿を消してしまった。「イヴリース…?」最初は見失っただけかと思ったが。彼女が何処か…自分が行き着くことが出来ない、何処かに行ったことに気づく。「……。ああ。 さよならは言わない、よ。 いつかまた。…約束だかんな」勝手に約束を決め、精霊は喧騒の中に紛れて行く。風を感じ、上を見上げた。蒼い竜など、もう見えないのに。「有難うな」駆け抜けた風に、呟いた。