因果は回る糸車。幾度も回りながら、物語という糸をつむぎだす。闇の女王に率いられ、悪夢を広めゆくナイトメア。地上の民を食らい尽くさんとする、獣王に率いられるビーストアーク。此度、鹿を追うのはこの二者。果たして、いずれがそれを手にするのかは神のみぞ知ることか。
・他者の行動・行為を著しく制限、または指定する描写。・単騎で戦局に多大な影響を与える描写。・俗に言う無敵と思われる行為、行動や描写。・世界観が大幅に無視されている描写。・その他、不躾であったり、不快に思わせる行動や描写。上記の行為は禁止とさせて頂きます。ご注意の程を。
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バウラ灯台からゴルモスに抜ける平野。その日の行軍を終え、野営地が築かれる。驚異的な機動力を持つ、魔獣を中心としたビーストアーク兵に対して、険阻な地はこちらの死地になるからであろう。傭兵隊に与えられた区画に簡単な馬防柵をつくり、自分が預かる部隊に見張りの指示を出す。ハルバードとクロスボウのツーマンセルでの行動を指示すると、設営完了の報告に向かう。「魔犬相手に、剣歩兵が役に立つのか?オレサマ、わからない。」みぞおちの辺りまで有る長剣に語りかける。
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ゴルモスの山脈地帯、そこから派生する丘陵地帯。バウラ灯台までをもを一度に望むその場所に女がひとり、居た。平野に展開する敵軍。それを監視するのが女の任務だった。ふむ、どうやら敵も馬鹿ではないらしい。山脈地帯では騎兵の機動力と突貫力は殺される。歩兵の戦闘能力も制限される。そんな中でこちらの獣たちと戦うのは正に自殺行為だ。女は素直に感心して見せた。だがそれはまともな判断力を持つ者であれば誰もが考え得る方策。否、現状に於いてはそれのみが最善にして唯一取り得る手当だ。敵の行動はそうして事前に見当をつけていた。であればそれに対する対策も立てることは容易である。
「先遣部隊へ伝達。戦闘開始だって。それじゃ、張り切っていきましょおー。」女は背後(平野側から見れば丘陵の反対斜面)に向け、声を発する。まるで緊張感の無い声。しかし女の眼下には無数の魔獣が…闇夜に赤い目をギラつかせた獣たちが"その瞬間"を今や遅しと待ち構えていた。平野に展開していたナイトメア陣。その周囲を取り囲むようにスケルトン兵が現れたのは数分の後。無限に湧き出るかのように次々とその姿を地中から現し、乾いた音をたてながら敵陣へと攻め込む。(タシュンカ様、よろしくお願いします(・ω・)ー♪)
日が暮れて、野営地に灯がともり始める。仮眠から目を覚ますと、自分の率いる隊の持ち場に移動する。吐く息の白さに冬だということを実感する。重装の剣歩兵にとっては、寒さはありがたいものだ。鎧を着ていても、暑くならない。持ち場にいる斧槍兵と弓兵に手を上げる。
馬防柵の向こうで、何かが動いた気がする。鼻につく、獣の匂い。自分より幾分早く気がついていた斧槍兵がこちらをむく。「オレサマとお前は、ここで迎え撃つ。一人は鐘を鳴らす。」相手がこちらを狙っている以上、クロスボウで先手を取ることは困難。切込みではない、そう思って身の丈ほどの剣を置いてきたのはまずかったか。腰から女の背丈ほどの長剣を抜いて身構える。
カラカラという音ともに、魔獣が現れる。スケルトン兵を率いて。「古き龍にかけて、なんともついていない」これでスケルトンを相手にするのは骨だ。「斧槍で獣を近づけないようにしたらいい。骨はオレサマが相手する。弓の変わりに、剣と盾!」あちこちで、戦いの音が聞こえる。戦の始まりだ!
平野にて散発的に発せられる金属音。やがてそれは地響きや怒号とともに大地に響き渡り始める。戦争が、始まった。女は依然として丘陵から戦場を望む。後背の獣共も亦同じく。敵兵力が減少したところで自分達が畳かける計画だった。が。どうもそうすんなりとはいかないらしい。最前線で剣を振るう鬼族の戦士。奴が自ら武力を示すことにより周囲の兵を鼓舞し、突然の敵襲にも関わらず戦線を維持している。予想外だな、とメガネ女は思った。どこの軍にも何人かは化物じみたヤツがいるものだ。だがまさか自身が出撃している戦場で遭遇するとは思ってもいなかった。
「うはっ、やばくね?なんかアイツ、やばくね?」近くの魔犬に語りかけるメガネ女。片や語りかけられた魔犬は理解しているのかいないのか、ぐるるる…と唸るのみであった。「ちょっと早いけど…キミたち、Go。」そう言って魔獣の一団に出撃命令を下す。丘陵から逆落としに駆け降りる獣の群れ。それは黒い風となり、混乱を窮める戦線へと突撃した。
剣の半ばほどに左手を添え、相手の攻撃に備える、何も考えずに切り込む骸骨兵の片刃が振り下ろされる。剣の鍔元で受け、そのまま十字鍔を骸骨兵に振り下ろす。「これで、もう一体減らした!」助かるのは、疲れ知らずだが、単調な攻めしかできない骸骨兵しか居ないこと。
それぞれの部隊も戦列が整い始めたのだろうか、周りに人が増えていることに気がつく。近間で、斧槍の柄が骸骨兵の頭を砕くのが見える。「ステキな攻撃!」部下の攻撃を賞賛しながら自分も、間合いに入った相手を頭上から柄頭で殴りつける。カラカラと崩れる骸骨兵を見ながら、後は、相手の指揮官が撤退を判断するのを待つだけか。そう思った瞬間、骸骨兵とは違うモノが飛び込んでくる。早く、黒く、骸骨兵よりずっと背が低い…「魔獣?」単調な骸骨兵の攻めになれた兵たちが、素早い魔獣に翻弄され始める。
気がつけば、骸骨兵との戦いで、こちらは馬防柵の外に引き出されていた。下がらねば。「弓の人、柵の後ろに下がる!斧槍はそれまで、魔獣を近づけないこと!弓の人が下がりきったら、柵の後ろに…」そこまで言うと、胴体に1頭の魔獣が体当たりを仕掛けてくる。プラカートと大きな身体にはじき返されるが、それでも油断していた。そのままこちらも一歩下がりながら、はじき返した魔獣に一刀をくれる。自分の使う剣術は高い攻撃。それだけに、魔獣と戦うのは難しい。守りを固めながら、反撃の機会をうかがうべきか?
開戦から既に半刻が過ぎた。戦況は至って順調快調絶好調。先遣のスケルトンはほぼ潰滅。しかし先制の打撃と揚導が目的だった彼らは十分に役目を果たした。第二陣の魔獣たちも戦場を駆け回りながら敵を攻撃している。予定通り、敵を柵から誘い出した。まあこんなもんでしょう、とメガネ女は呟いた。そして号令を発する。「みんなイケっ。ディナーの時間よん。」今や遅しと待ち構えていた魔獣たちは一気に走り出した。丘陵から次々と現れる黒い影。数は…判らない。しかしそれは先遣のものとは比にならぬほどの数。巨大な地響きを立てながら駆ける駆ける魔獣たち。そんな喧騒の中を、女は悠然と歩く。目指すは敵陣、最前線。
それまでの単調な流れに若干呑まれていた兵たちに襲いかかる魔獣の群れ。そして殺気。それらは暴風の如く吹き荒れ、戦場を叫喚の渦に叩き込んだ。「うーん…みんな元気だにゃー。うわ…マジで喰ってるし。」斃される兵士。それを喰らう魔獣。そんな光景を横目で見ながらメガネ女は足を止めない。暫くの後、漸く見えてきた目的地。いや、目的人。相変わらずの怪物っぷりを発揮する巨躯の戦士。群がる魔獣をものともしない。なんとステキなことか。「んー…んー…やっぱりヤだなぁ…帰ろうかなぁ…あ。」彼との距離は大体30m。立ち止まり、躊躇っていると彼と目が合った。女はニコリと笑顔で応えてみた。
次から次へと、手を変え品を変え色々と出てくるもの。重装甲と、硬い鱗に守られているとはいえ、どちらも獣の噛み付く攻撃にはダメージが蓄積していくもの。概ね、味方が柵に下がった所で、自分も柵のほうへ下がり始める。人間同士の戦いならばともかく、人質を取らない魔獣たちから、負傷兵を助ける暇は無い。それこそ、次の餌になるだけ。自分の周りにいる魔獣を視野に入れながら、じりじりと下がると、明らかに見慣れぬ存在がいる。人の女?笑う?魔法を使うのか?距離は、クロスボウの射程内。「弓、前方の女へ!」そういいながら、自分の視野を広く保ちつつ柵へと後退を続ける。
「え?あ、ちょっと!ちょっとちょっと!待っ…!」一応友好的な表情を見せたのに、相手から返ってきたのは矢の雨。女は慌てて回避行動に移る。「…っち!ザ・タッチじゃねーんだよ、くそっ!」何やらイミフなことを毒付きながら矢を避してゆく。別に視認して避けているのではなく、ただ単に偶然当たらないだけ。この状況は上手くない。遮蔽物の無い平野ではあまり長いこと保たない。女は"食事"に夢中の獣を蹴っ飛ばし、兵士の亡骸の襟首を掴む。そしてそれを前面に構える。盾だ。人間の身体は意外に丈夫だ。矢程度であれば貫くこともできない。「いさこ、いっきまーす!」女はそう叫ぶと、一気に駆け出す。
ドス!ドス!ドス!次々と"盾"に矢が刺さる。しかし思惑通り貫通はしてこない。女は走る。敵目がけて走る。その速さは人間ではないかのよう。100m何秒か等は判らないが、少なくとも大の男(重装)一人を抱えて出せる速度ではない。一度敵陣に入ってしまえば後は些か楽。少なくとも飛び道具での攻撃は減る。同士討ちが怖いから。大勢の魔獣を従えて女は突っ込む。彼我の距離は一気に詰まる。いまや僅か5m。「やー!はーー!」盾を投げ捨て、女は跳躍する。放たれるは飛び蹴り。目標は巨躯の戦士。彼の周囲に居た弓兵や槍兵にも魔獣が次々と襲いかかる。斯くて、"獣"と"魔"の戦いは本幕を開けた。
女に向かって、一直線に飛んでいく太矢。何か魔法を使うのかと思うと、そのままこちらに向けて走ってくる。「…ギー、キチガイ!」どこの世に甲冑を撃ち抜くクロスボウの斉射に向かってくる奴がいるのだろうか。目の前にいた。そのまま、死体を持ち上げると盾にしてこちらに走ってくる。傭兵隊としては、あのような規格外と戦いたくないのが本音だ。陣屋の奥にいる、強い魔族様にお相手願いたいものだと考えつつも指示を出す。一人が太鼓をたたき、自分の後ろに蛇がとぐろを巻くように、斧槍と弓兵の持つ剣鉈の円ができる。
とりあえず、どこの隊が無事で、どこがつぶれたのかわからない隊形が整ったあたりで、女がかなり近づいていることに気がつく。そのまま相手が飛び上がっている。相変わらず剣の半身を持ったまま相手に向かう。月光の民ではないが「進むから浮かぶことができる川もある!」以上、あちこちに対応できる生存優先の戦い方をするべきか。
「やー!はーー!」女の蹴りを左の肩鎧で受ける。そのまま食らえば、体重差があっても碌なことはないはず。そのまま右足を斜め前に踏み込んで、左半身から右半身へ移動する。左肩の感覚が鈍い。そこからできること…思いつく前に身体が動いていた。右手が柄から離れ、同じく刀身をつかむ。そのまま、体軸移動を行った余勢をつかって密着しているに近い距離の相手の頭に、十字鍔を打ち込む。
ガィン! と音がした。金属製の鎧に蹴りを入れたことで妙な音がした。「痛ぇ!」鎧は金属、それを纏うのは巨躯の鬼族。鉄の壁に思いきり蹴り込んだのとほぼ同じだ。…故にちょっと痛かった。「やっぱ無謀だった!んおあ!?」見上げると鍔を鈍器のように振り下ろす恰好の鬼。女は半身で避わす。衣類の背中部分にちょっと掠った。びり、と。イヤな音がした。インナーは無事みたいだが上着はバッサリと破けた。「ああ!?コレの替えなんて無いのに!」女はバックステップで間合いを取る。間髪入れず、女と鬼の間に魔獣たちが割って入る。蹴りの炸裂から回避行動まで実に10数秒。その時間のうちに獣たちの布陣が完成した。
ナイトメア兵を包囲する獣たち。敵は円陣を組み全方位に対応できるような隊型を成したが、それはこちらからすれば包囲戦に持ち込める絶好の機会。加えてこちらの兵士は死を恐れぬ魔獣共。退けば餓えて死ぬ。征けば生き残る道がある。そして何より力によって統率されたそれは女の命令には逆らえない。なれば選択肢など端から一ツっきりしかあるまい。「征け!喰え喰え喰え喰っちまえ!!」女の檄と同時にナイトメア兵に大挙して押し寄せる魔獣の波。第一波の何割かは敵のクロスボウにより討ち堕とされる。しかし波は止まらない。第二波第三波と次々続く。矢の再装填ができる時間など無い。零距離に到達し、敵を一気に喰らう。
戦場に血の匂いが充満する。女はというと喧騒の中を駆け回っていた。その姿は既に波に呑まれ消えていた。不意に現れた女。矢の再装填を急ぐ弓兵。そいつの顔面を思いきり殴り飛ばす。容赦なく顔面が潰れる。血が飛び散る。即死だ。ここにきて兵士たちは女が人外であることを悟り始める。再び姿を消す女。魔獣もさることながら女の与えるプレッシャーも敵を窮迫させる。「いやいやぁ、初陣がコレだなんてさぁ、ツイてないよねー。キミもそう思うだろ?」女が再び現れる。それは逃げも隠れもせぬ、鬼の真正面。距離にして約10m。最初と変わらない、緊張感の無い声で語りかけた。
「片付いたようですね」右腕で暴れる獣人の首を掴んだまま辺りを見渡す倒れた獣人が十数人「策無き獣にはこれが限界ですか」落胆した言葉を吐き出す「優秀な指揮官でもいればまだ戦えたでしょうに」おそらく遊撃隊として我が軍の後方を襲う部隊だったのだろう「さて、次に行きますか」その瞬間、暴れていた獣人が『枯れて』いく皮膚から生気が無くなり、叫び声もなくミイラのように干からびたよく見れば戦場であるのに血が一滴も流れてはいない彼の二つ名は【狂血鬼】血は糧であり、力零すのはもったいない「おや、向こうで血の匂いが…見逃す訳もない」コートがメキメキと音を立て、巨大な蝙蝠の羽を形成し、移動を開始した
血の匂いを便りにたどり着いたのは本陣の近くビーストアーク軍の獣人部隊が味方の軍を襲っている既に辺りは血に染まり、食い散らかされ、事切れた仲間が散乱していた「カハハ」思わず笑みが零れる昔の自分では決して許容できない景色が、今では極上の餌にしか見えないのだから翼の角度を変え、勢いをつけて味方を襲っていた獣人に急降下左手に力を込め、獣人の左肩から右腰を切断した
動きを止めた獣人は、ゆっくりと体がズレ始めるぶしゅっと嫌な音がして大量の血が吹き出すしかし、それは重力を無視して自分を切断した者の影へと飲み込まれていた地面に落ちる前に、【狂血鬼】の影に喰われていく「あぁ、こんなに零してしまって…本当にもったいない」敵味方の血がぶちまけられた地面に膝をつき、手をつける「いただきます」魔法の言葉だったのだろうか?その瞬間、辺りを覆っていた濃密な血の匂いがなくなり、また地面を満たしていた数十人分の血が一瞬にして消失したそして、「ごちそうさまでした」立ち上がり、満足そうな吐息を吐く先程まで捕食者だった獣人は戦慄した今、その立場が入れ替わったのだ
味方を蹂躙しようとしていた獣人の流れを一部停止させるどうやらまだまだ私の餌はあるらしいどうやって食事を楽しもうかと考えていると大きな声で吠えている者がいるその付近には味方が一人(となると吠えた方は敵か…) どうやら味方の軍は包囲されている様子ならばその一角を私が崩せばいい直後、気を持ち直した獣人の奇襲飛び掛かって来た獣兵の顔面をカウンター気味に掌で押さえ込む「喰っていいぞ」すると肘から掌にかけて波立つように形を変え、巨大な顎となり首から上を噛み千切る身体の奥底には満たせぬ飢餓感目の前には血気盛んな餌達「【狂血鬼】セリオ…参る」再び食事が始まった
十字鍔をはずしたと思った瞬間、すぐに手前に引き寄せる。相手の首を固めて引き寄せる、殺し打ちの一手。ビリ戦場で聞きなれない音がする。肌を露出した女がトンボをきって離れていくのが見える。さっと、周りを見渡す。円陣を組んだ歩兵達の内、弓兵の一部が武器の持ち換えをしていなかったらしい。一射目が終わったあと、周りの兵が阻害する間もなく食い殺される。所詮は、傭兵稼業など、食い詰めた民衆が大半。手にした武器を捨てる事を、受け入れることができないのだろう。「ソレは自分も同様なのだろうな。」ぼそ、とつぶやく。
一方で、幾度かの戦を生き延びた兵が其の穴を埋めていくのが見える。特に身体の大きな自分が円陣に入って、助けになることは少ない。できることは…左手で、刀身の半ばを持ち、右足で地を蹴る。そのまま両手で突き出す剣を、身体ごと伸ばし、右手の片手突きで一匹の獣を傷つける。「外からジャマすることぐらい」円陣の兵も、獣と女の動きに警戒しながら戦い方を変える。斧槍兵は、女と獣が円陣に踏み込みづらい体制を作る。盾と片手剣に持ち替えた兵士は、近づいた相手を打ち払うだけに専念する。「悪くない!良い動作!」円陣に向かって声をかける。
「いやいやぁ、初陣がコレだなんてさぁ、ツイてないよねー。キミもそう思うだろ?」そう笑いかける女。間合いは…彼女と同じ程度なら一足で詰めるものはいない。魔獣たちですら、一足ではつめられない。ソレは、自分も一緒。「そうでもない。夏にこの鎧で戦わないだけアリガタイ!夏なら今頃鎧で死んでる」そういいながら、間合いを詰める。そして、ぎりぎりの間合いから一足で飛び込み、右手一本で剣を振りぬく。当たろうが、当たるまいが身体が一転する勢い。鎧と長剣の利を生かした一手を打つ。あとは、相手が踏み込んでくるのを待つのみ。
「はっ!真正面からかい!元気だねぇ!」大剣一閃。鬼の凄まじき腕力で振り抜かれた剣に女も真正面から受けて立つ。腰に差す二振りの剣、その一つを抜き払い大剣の斬撃に対抗する。黒光りする刃を一閃。金属の弾ける甲高い音が響く。しかしそこは種族の差。"そのままの"女では受けきれるものではなかった。まるでバットに打たれた球のように飛ばされる。「あ痛ァ!」ゴロゴロと転がり、どたっと倒れこむ。「ちくしょう、馬鹿ヂカラめぇ…」そう言って起き上がろうとした女の目に、上空で旋回する鳥の群れが映った。伝令用の烏だ。それが伝えるのは我が方の敗戦。戦は、おわった。女は小さくため息をつくと剣を収めた。
そして脱力したかのような仕草を見せた後もう一度、今度は大きなため息をついた。「アンタたちの勝ちみたいよ、戦争。おめでとーさん。」女はあぐらをかき、相手方(というより鬼)を見る。魔獣たちと彼の部下たちは未だ戦闘中だ。二人だけがなんだか周囲から切り取られたような雰囲気になっている。「さてどうしよう?私としては戦う理由がなくなったわけだがワンちゃんたちはそういうワケにはいかなさそうだねー。」あはは、と笑みを混じえながら女は鬼に語りかける。
剣を振りぬく。相手もそのまま食らうたまではなく、剣で受け止め大きく下がる。振りぬいた剣は肩に担ぐように、本来高い打点を好む自分達とは違った剣の使い方。しかし、相手は踏み込んでこない。中から降りてくる鳥を見て腰を落とす。「アンタたちの勝ちみたいよ、戦争。おめでとーさん。」その言葉とほぼ同時に、天に光球が撃ちあがる。色は勝ち戦、撤収準備の合図。「さてどうしよう?私としては戦う理由がなくなったわけだがワンちゃんたちはそういうワケにはいかなさそうだねー。」女は気楽に言う。
捕虜にするなどの手間隙をかける、人手も時間も無い。「決着はまた今度!オレサマは、自分の仲間を生かすのに忙しい!」そういうと、背を向けて残った魔獣を蹴散らしにかかる。後ろで何かをすれば、誰かしら声をかけるだろう。円陣を切り崩すのに夢中な魔獣を傷つけていく。普段の剣歩兵の仕事に比べれば容易なこと。