翼持つ者の国解放を望む者の国ある者は言った人間どもよ!ここがお前たちの墓場となろう!また別のある者は言ったこの地に起こる争いが終わるまでは決して退きはしない其々が見据える先には果たして何が有り、何が居ると言うのか噛み合わぬ言葉を背に受けて、兵は進む刃と言う、其々が持つ意思を交える為に
・応対に時間の掛かる場合は一言連絡を・他者の行動・行為を著しく制限、または指定する描写・単騎で戦局に多大な影響を与える行動・俗に言う無敵と思われる行為、行動・世界観を大幅に無視した表現・その他、不躾であったり、不快に思わせる行動や描写上記は注意事項です相手のある場ですお互いに気を付けあい、そして楽しみましョう
http://www.geocities.jp/kichi_k/LG_map/top.html(大判/作成:クロゼット様)http://lgtisiki.blog89.fc2.com/blog-category-8.html(携帯用/作成:コルナ・コルチェット様)お貸し下さる両名に感謝を
フードを持ち上げ、陽の光を仰ぎ見る。暑い筈。日差しは既に夏のソレへと変わっていた。憎し人間を旨として、復讐に出たバードマンの軍勢。天駆ける翼騎兵が、我ら解放軍の初戦の相手。彼我の領土は決して近くない。西に行けばエルフィネス、北に行けばビーストアーク。北西には湾曲した海岸線と、その先に海が広がっている。つまり、不利なのだ。雄々しき翼を持つ彼らなら、アンプルマから南東に、湾の上を飛んで来さえすれば良い。だが、地を這う我らは侵攻ルートを熟考せねばならなかった。まず、軍船での航行は不可。制空権を握られている以上、湾を北上するなど狂気の沙汰。選ぶのは自殺志願者だけ。
本隊迎撃ならファディア。奇襲と遊撃ならナディゴスとゴラル。しかしこちらも他国を経由、或いは接近しなければならず。その他国も戦時なため、危険であることに変わりない。残るは解放軍領に留まり、敵を迎撃するという手だが………そこまで攻め入られたらお終いですわ。そんな考えで、我の所属する部隊は魔獣の巣窟の南を進んでいた。奇襲と遊撃。アンプルマの麓を犯すことが目的。よって、部隊は少数。けれど精鋭と猛者の集まりだ。誰も彼も尋常ならざる威圧感を秘めている。さて。フードを被り直す。そう言えば、武闘家の彼もこの部隊に配属されていたのだったか。
BA領内。此処は既に獣の領域犯す者にはすべからく牙の洗礼が待っている其処を行くのはアンプルマの麓を襲撃する為の遊撃小隊僅かな手勢。けれども任務をこなせるだけの力は十分…頼もしい事で並んで歩きながら同じ部隊の面々を眺める少数だけに其々の顔は全て覚えている同士討ちを避けられる程度には順調に進む行軍の最中、す、と自身の香水の香りが鼻腔を擽る金木犀。本来は戦争へ行くのならつける事はないのだが犬畜生は鼻が利きますから。ほぅら、やっぱり風下に位置しているだろうに、うっすら臭う獣臭いや、実際に感じているのは獲物を見据える視線の気配気配に臭いなどあるはずもないが、それでも
『臭いますネェ。嫌いな臭いだ』呟き、走り出す。方角は風下気付いた双頭の獣が一匹、伏せていた岩陰から踊り出た他にも数頭。ヒト相手ならそれで十分と見て取ったかこれだから、犬畜生は…袖を振るい爪を出す。嘆きの名を冠する三本の刃与えるのは手傷のみ。後は塗りつけた毒が殺す接触までは後数歩参弐壱瞬間、獣が動きを変える横へ跳び、其処から此方へ三角にヒトとは比べるべくもない速度視界の端では他の岩陰から飛び出した双頭犬が、小隊の面々へ其の牙を振るおうと走るアチラは任せておけばいい。今すべき事は…右腕の方へ顎が迫るアレの牙なら手甲ごと右腕を持っていくかもしれない
犬畜生にソレが出来るならば、ネ。んふふ前へ踏み出しかけていた足先を相手の方へ向けて踏み込む流れるままに腰を回し、膝を折って身体を屈める相手が下から来るのならば、更にその下を深く深く、地平擦れ擦れに潜り込んで見えたのは、剛毛に覆われた腹膝を伸ばす。腰を回す。爪を立てずに掌を上へ向けて、突き上げる硬い毛の感触を越えて、更に硬い筋肉の感触ソレを打ち抜くように生み出した勁を通せば…犬や狼に比べると大柄な体がくの字に曲がり、動きを止める二つの口腔から吐き出されたのは赤い吐しゃ物掌の上で痙攣を始めた肉を横へ放ると、後ろを振り向く仲間達は無事だろうかと
開戦から数日。アンプルマ山脈の東の麓、ボワ洞窟付近に敷かれた駐屯地にて見張りの任に就く。解放軍が相手とは、なんとも面倒な立地同士である。空を飛べる有翼人であれば直接敵国へ向かって侵攻できるが、翼を持たなければ戦争中の他国を通らねばならない。兵士の多くが有翼人であれば、わざわざ船を大量に作り海路を行く事もない。となれば、歩兵である我々は防衛・迎撃部隊として自国に留まる事になるのだった。はるばる陸路をやってくる物好きがいるのやら。ケルベロスに食い荒らされてくれると大分楽だが崖の上の高台にて弓兵らと共にビーストアークの方角に目を凝らした。
……ふわり。不意に良い香りが鼻腔をくすぐった。自身の使う薔薇香水とは違う、しっとりとした金木犀のアロマ。此所何ヶ月か、頻繁に親しむようになったと記憶している。その主はドゥ・ティエン。確か、フーリュン出身の武闘家。甘い嗅覚の疼きに誘われ、振り返る。折角の機会なのだし、幾つか言葉を交わすのも悪くないだろう。そう思った。思ったのだが、しかし。そこに彼の姿はありはしなかった。見えたのは、放たれた矢のように駆ける背中のみ。…?刹那。彼のその先、岩陰から躍り出る黒の塊。なるほど。既にこちらはマークされていたのですね。
ケルベロス。魔獣は獲物を囲うよう風下から。跳躍ひとつで喉笛を噛み切れる程に距離を詰め。一方的な虐殺を確信する段になって、初めて襲う。一介の人間兵に抵抗など不可。駆ける彼を矢とするなら、獣の群れはさしずめ弾丸。例え抵抗が叶ったとて、剣は艶めく黒毛に阻まれ。その一瞬に三ツ首が鎧を貫き、肉体を寸断する。━━そう、相手が"一介の人間兵"であったなら駄犬に相応しい浅知恵ですこと。視界は既に「く」の字に曲がったイヌの死骸を認めている。その鮮やかな手並みを拝見したかったけれど、仕方ありませんわ。「お退きなさい」行ったのは威圧のみ。冷たく、鋭く。その心臓を握り潰すよう。
けれど、彼我の戦力差を知らしめるには、ソレで充分。まさにこちらの部隊を襲おうとしていた獣の群が、動きを止めた。唸りを上げて威嚇する気力も残っているかどうか。殺す価値など最初から無い。こんなイヌの毛皮を剥いでも、主様は満足なさらないし。肉食獣を解体しても、臭くて食べられた物ではないから。「ほら、早くお帰りなさい。今なら見逃して差し上げますわよ」ふふっと薄ら笑いを浮かべて見せた。尻尾を巻いて逃げる姿が、貴方達には良くお似合いですわ。「但し、あそこの彼は分からないけれど」フーリュンの武闘家に目配せする。どうぞお好きなように。イヌ狩りでも退屈凌ぎになるでしょう、と。
振り向いた先にあったのは威圧の一言他の仲間もあえて手出しはしていない全てのイヌが一人の女に動きを止められたのだから(…ほんと、頼もしい事で)内心の溜息あの女や他の連中が敵でなくて一安心、そういう思いを吐き出すように心の内でそっと吐いた此方の一匹を見せしめとして利用した威圧の効果は上々逆立つような毛並みを残したまま、数匹の獣が退く姿勢を見せていた女に注意を残したまま駆ける姿には、先程までの威勢は見て取れないイヌとは言え、戦力差に気付いたのだろうけれど、コレを逃せば(あぁ、面倒臭い。獣の臭いが残らないといいんですけれど)
一つずつ頭を潰していた足の動きを止めると、此方へ向かって駆けてくるイヌ達を見据える其の後ろでは女が目配せ(………はぁ)殺しておいてくれれば面倒もないのに、と一匹殺して満足しただけに、面倒な心が鎌首を擡げた相手としては暇潰しの提供をしてくれたのだろうが、味方とは言え、これ以上手の内を見せたくは無い、という意識が働くしかし、そうも言っていられない取り敢えずは処理を行わねば、報告されても厄介だ服の袖に両の手を入れ、中に仕込んである品を指と指の間に挟みこむその数八本細く長く、そしてしなやかな強靭さを持つ鉄の針
イヌには此方が腕を組んだ様にしか見えないだろう傍を駆け抜けようとする幾つかの風を感じながら、彼らの抜けざまに其の腹目掛けて両手を振るった3本が外れ残りは一匹一本ずつチクリと刺された程度の針の傷など、アレらにとっては取るに足らないだろうそれでいいそのままゆっくりと女の元へと歩いてゆく顔には満足そうな笑みを貼り付け、後ろは全く振り返らずに彼女には見えているだろう。自分の後ろで倒れてゆくイヌ達が口から血の混ざった泡を吐く犬畜生の姿が『お待たせしました。さ、行きましョうか』もう少しでBA領を抜けて天翼の領内だそのまま目指すはアンプルマの麓に根を張るボア洞窟
獣の遠吠えが聞こえる。ビーストアークはアクアマイトと交戦しているが海岸沿いではその戦いが起こっているのか、それとも紛れこんだ他の兵が追い立てられているのかは判別はつかない。ここから見える範囲には敵兵の姿は無いものの、湿った風に混じる血匂や、獣の鳴き声のお陰で駐屯地には緊張感が漂っていた。ボワ洞窟を囲むように、翼騎兵の歩兵の部隊がこれ見よがしに配置されている。彼らを見下ろせる高台には援護の弓兵と見張り。掻い潜って洞窟まで走りぬけようとすると、堀状の落とし穴が入り口直前で待ち構えているという寸法ださて、うまくいくやら見張りの一人が国境付近に人影を見つけて声を上げる
わざわざイヌを逃がした理由。ソレはただ、彼の。ドゥ・ティエンの手並みを観察したかったから。人間の身ながらケルベロス一頭を瞬殺してのけた力量。戦術、技能、クンフー。その他諸々に興味があった。ラコルムの名を冠す武術とは、果たして如何ほどなのか。相手が魔獣五匹なら、きっと面白いモノが見れるだろう、と。けれど、その考えは間違いだった。満足げに笑む彼の肩越しに、血反吐を撒き散らすイヌが見える。逃げおおせる筈の獣の群れ。連中とて同じ思いだったろう。まさか、見逃して貰ったすぐ後に、死骸になるとは思いもしまい。それも、"ただ腕を組んだ男と擦れ違っただけ"で。……一体、何を?
手並みを拝見する為にイヌを逃がした。そして、現に彼は我の期待に応えてくれた筈だ。五つの死骸がその証拠。けれど、肝心の挙動が見えなかった。あの死に方からするに、循環器を破壊したのだろう。ではどういう手段で? 打撃? 発頸? 武器の投擲?嗚呼、やめやめ。断定するには情報が少な過ぎる。不毛ですわ。交錯した思考を振り払うよう、一つパチンと指を鳴らす。収縮、凝固、形成。そして瞬きすら待たずに現れる二本の氷柱。狙いは未だ痙攣し続ける一頭のイヌ。その脳幹と心臓。なんとなく目障りだから、一応ね。『お待たせしました。さ、行きましョうか』「ええ。国境は此所からじきの筈ですわ」
獣臭い土地を抜けて暫し、中継点ともいえるナディゴスで簡単な補給を済ませ、歩を進める撹乱用に煙玉を幾つかに眠りを誘う粉状の毒小さな毒の瓶に揮発性の麻痺毒を入れたものを幾つかそれらを確認しながらも、一瞬たりとて気は抜けない獣の嗅覚の及ぶ土地と鳥の視界の及ぶ土地の境界を越え、もはや此処は鷲達の行動範囲なのだからま、夜に動けば大分マシでしョうけれど歩きながら思うと、先を行く者たちから合図が有る近場の岩へと身を寄せて合図の意味を聞くと、どうやら一番前の者が持っている遠眼鏡を示したそれにならって自分も手持ちの品を取り出して覗き込むはぁ…
溜息が出たこれはまた、用意周到な事で遠眼鏡越しに覗いても、少しぼやけるほどの遠距離だというのに、良く見える。解ると言うべきか確り用意された陣に、薄くアリの様な物が動いているのは歩兵だろうその後ろに見える黒の丸は恐らくボワ洞窟の入り口結構な数の敵の姿に、帰りたい気分が持ち上がりそうだ面倒事は正直嫌いなんですけれど再度溜息。そして、近くに居る女性型の悪魔に遠眼鏡を投げる「さて、結構な陣立てのようで。どうします?」正攻法は夜陰に乗じてけれど、ソレが通用するかどうかは…あぁ、面倒臭い取り敢えずは、今見つからなければ良いんですが、ネ
声を受けて、見張りの多くが同じ国境付近へ遠眼鏡を向ける。「人影……獣か…?」国境からこちら、翼騎兵側へ数頭のケルベロスが走り、途中で北へ方向を変えていた。翼騎兵への侵攻というよりは、ビーストアーク領へ戻っていく様だ。ボワ洞窟から北はしばらく断崖絶壁が続くため、もし北を迂回する敵兵ならナグドア方面の兵が迎撃できる。「あれは放っておくしかないな。追跡に出す兵が勿体ない。それに、何かから逃げているような……」翼人の見張りがいないため、上空を飛んでの偵察ができない。まだ敵国でもない他国へわざわざ打って出るわけにもいかず、焦りを抑えながらこの場で待つしかない。
戦時の他国にのんびりと留まることもできないだろうから、解放軍が居るならば遅かれ早かれ燻り出されてくるはずだが…ため息をついて一度大きく伸びをした。動きの無いうちにあれこれ考えても疲れてしまうだけだ。「日が暮れる頃に起こしてくれ」見張りを交代して仮眠をとる。夜目の効く自分が夜に見張りをした方が良い骨兜の上から被ったフードを更に目深に下げて岩壁に寄りかかった。
岩肌に寄り掛かり、投げ渡された遠眼鏡を覗く。(……あらあら、これはまた随分と大袈裟な)『さて、結構な陣立てのようで。どうします?』遠目からも強固だと知れる、洞窟を囲うよう構築された陣形。視線をそのまま上にずらせば、高台にも敵兵の姿が認められた。ぼんやりとしか見えないが、あの装備は恐らく弓兵のものだろう。監視と索敵。弓での迎撃は接近を許さず、その後に歩兵が殲滅する。完璧だ。幾らこちらが最精鋭の集まりだとて、攻略不能。━━そう、弓兵の目が利く昼間に限っては。「夜まで待つべきでしょうね」そう告げて、武闘家の彼に遠眼鏡を投げ返す。
宵闇に乗じて強襲が、現時点での上策と言えた。相手の監視がバードマンならしめたもの。鳥目の彼らにとって夜間は文字通りの盲点。バードマンでなくとも、極端に索敵能力が落ちるだろう。そして何より、最大の利点は弓兵の無効化にある。何故か。敵は高台に弓兵を置いた。つまり、自陣を見下ろす形になっている訳だけれど。宵闇の中、その位置から接近した敵を撃てばどうなるか。答えは簡単。誤射と同士討ちが発生する。つまり、接近するまで目標が定まらず、接近してからでは既に遅い。「明かりも保たず、音も立てず。敵陣に接近する自信はお在り?」部隊の面々を見回し、そう尋ねてみた。
投げ返された遠眼鏡を懐に仕舞う夜まで待つ、御尤も次いで悪魔の女から放たれた問いかけにも笑顔で頷く他の面子と同じように流石に少数で強襲なんて任務を下されても平気な顔で戦場へ赴く連中だ自信の程は十分らしいま、頼もしい、と思うべきなんですかネェ自信が仇になる事なんて戦場では日常だそれを思いながら、補給した装備を如何使うかを思い描く夜間、か
小さな火薬玉でも簡易の寝床である天幕などを燃やすのは十分だろう煙玉。数は限られているが、良い風さえ吹けば陣の5分の1は覆い隠せる後は粉末状の痺れ毒。吸引すれば脳が痺れて身体に力を入れづらくなる程度の弱毒多く吸えば立てなくなる者も居るだろうが、そんな都合の良い風が吹くはずも無いその他は針と鎮痛用の麻酔ま、後は夜を待つばかり、とネ静けさは味方だ。軽気功の功夫にもなるだろうあぁ、待ち遠しい待ち遠しい待ち遠しい…
目を覚ます静かなものだ。伝令から聞くに、戦況は翼騎兵が優勢。こんな辺鄙な地までは敵軍の手も回らないのではとすら思えてくる兵数を多く見せる為にいくらか案山子を混ぜた手間も無駄だったかもしれない。すっかり気が緩んでしまったのか、見張りを案山子に任せて、休憩用の天幕がいくつも張られていた何をしたのやら、毛布を撒かれて転がされているものまでいる「おい、酒は戦争に勝ってからにしろ。見張りにつけ」見回りがてらに蹴飛ばして歩くあらかた蹴飛ばし終えると、手近な茂みから順に、長柄の斧で以て軽く刈って中を確認していった念のため片手には閃光弾をひとつ。衝撃で弾けて光を数秒放つ物だ
日暮れの宵闇は、既に暗闇へと変じていた。太陽が沈んでから、もう幾刻。時間帯からするに当然と言える。この間、我らは静かに、けれど確実に距離を詰めた。死角になる岩肌を選び、落石と滑落に注意しつつ。そして、赤く揺らめく松明の灯を認めたのは、ほんの少し前。敵陣からやや離れた場所。此所よりおよそ百歩の距離。恐らくは歩哨だろう。明確な数は分からないが、決して多くない。我らと同数。いや、ソレ以下と見るべきか。同僚の顔を見渡せば、眼光のみが尖さを増している。ふふ、頼もしいですわ。にしても…「邪魔ですわね、アレ。どうしましょうか?何なら、あそこまで投げて差し上げてよ?」
夕焼けが染める空を見納めれば、空の翳る夜が来る雲も出ている、これなら傍まで行ったとしても容易には気付かれないだろうもう少し厄介な数を想像していたけれど、数が少ないからと言って多いより劣るとは限らない、のが戦場なんですよネ。あぁ、イヤだどうしたものか、と思案しながら傍の悪魔の声を聞くこの暗さと篝火の明るさなら、今の距離の半分までは近づけるだろうとなれば…ふぅん、出来なくはない、か「じゃ、お願いします。ただし、もう50歩近づいてから」其の言葉に悪魔の女が頷きを返す他の連中はといえば、会話の最中にも陣への距離を詰めていた出遅れるのも面白くない「では、ヨロシク」
敵の視界に入らぬよう、息を殺して気配を殺して、闇の中の影すら隠すように距離を詰め…視線を陣の方から外すと、振り返って悪魔の女目掛けて走る其の右腕の肘から先は彼女の愛し子だと言う話だソレを目掛けて大地を蹴るふわりと浮かんだ身体突き出される悪魔の右腕肘先から生える6本の触手は身を絡め、ばねの様に身体を収縮させる言わずとも行動で理解されると言うのは、喜ぶべきか畏れるべきか縮みきった触手が其の身を解放する瞬間、合わせる様に其の身を蹴りつけた反発する力を全て跳躍力に変えて…跳ぶ目標は、篝火の傍の二体夜の空を背に、一足飛びという言葉通り、宙を舞い落ち上から歩哨を強襲する
宙空で捻った身体は頭が下十字架のように身体を伸ばして落下しながら、一人目の首に爪を突き立て、相手の身体ごと倒れながら勢いを殺すこの瞬間がたまらない。相手のコレまでの生を否定し終わらせるこの時が…あぁ、じっくり殺したい突き刺した首を支点に足からザッという音と共に大地へ降り立つと、傍に居るもう一人へと針を…投げようとして動きを止める改めて周囲を見ればカカシ、とはネェ。張りぼてに騙されるとは酌ですネ傍に並んでいたカカシから視線を外す。直ぐ近くに気配はもう一つ別のカカシの傍を移動しようとしていた、もう一人の歩哨んふ、サヨウナラ次の瞬間、新たな赤い染みが出来上がっていた
――鳥…梟が夜に音もなく狩りをするかのように風だけが頭上を通り過ぎる音がしたのは狩られた後の、死骸が倒れる時の物突如降って湧いたかのような隠し切れていない殺気がそこにある「…一人で飛び込んでくるとはいい度胸だ」影に向かって案山子を蹴飛ばしてぶつけ、斧を大きくひと薙ぎした。どちらも攻撃というよりは時間稼ぎ「戻れ」辺りの自軍の兵へと呼びかける少々陣の端へ寄りすぎた自軍の駐屯地、テントや篝火の多い方へと退く当たるかはともかく、戻れば弓兵の援護を警戒して敵も深追いできないだろうその間に態勢を整えたいものだ本当に敵が一匹だけであるならたかが知れている
爪から滴るぬめった血を、腕を振るい地面に飛ばす決して油断していた訳ではないだからこそ、蹴り飛ばされてきたカカシにも素早く身を引いて対応できたのだ…大した膂力で地面に差して、固定されたカカシを蹴るだけで此方へ飛ばすだけの力そして、そのカカシを両断するように振るわれた斧の一撃牽制と示威を目的としてだろうが無駄ですよネェ。隙を生むだけでしョうにま、お陰で此方も遣り易い相手の行動が此方へ味方してくれるのなら一々文句をつける必要も無いのだそう。何も、カカシを避ける為だけに下がったのではない本来の目的は別に有る。カカシを避けるのはあくまで【ついで】だ
んふ、良い炎で闇を染める篝火を横目に、骨兜を眼前にと、視線据えつつ腰のポーチに手を突っ込んだ指の間に挟まれたのは8個の煙玉先程骨兜が放った言葉のお陰か幾つかの退いてゆく影が見えていた恐らくは陣の中心へ集うのだろう態々自分達で喉元を差し出してくれるとは有難い敵の指揮官が現状を把握すれば、密集などと言う事は解除されるだろうが勝負を駆けるならば其の前。速度が命「んふふ、退かせるとは良い判断でお陰で仕事がし易くて助かりますお・ば・か・さぁん」からかい半分に声を掛けた其の最中にも、身体は篝火の後ろへ同時に、煙玉の導火線へと炎を近づけ着火させた後は遠投の要領だ
退いてゆく連中の先を目指して、煙を放ち始めた煙玉を勢いよく投げ込んでゆく数秒もすれば噴出す煙であの辺りの視界は不明瞭になるだろうこれで弓は役立たず後は篝火を近場の天幕へと蹴り倒すパチパチと薪の爆ぜる音が、ボワという音へと変化していった「さて、と。じゃ、ワタシはコレでこれから群を狩らないといけないので一匹に構う暇は無いんです」せせら笑いを浮かべながら走り出す退いてゆく者達を追いかける様にいいや、追い越す勢いで走る最中にも篝火を転がしてゆくのを忘れずにポーチの中の火薬玉も取り出しながら、導火線に着火しては天幕を狙って投げ込んでゆく火の手が上がる。あちらこちらで
暗闇の中、耳を澄ます。視線は松明の灯に据えたまま。照される敵の影が、こちらからは良く見えた。彼の跳躍から数えて、きっかり二十。僅かそれだけの間に二つの音が聞こえる。いずれも何かが地面に倒れたような、そんな重い響き。跳躍による上空からの奇襲は、まさに敵の意中の外。そも、地に接していすらないのだ。音も無く、姿も無く。近付かれた事も、何をされたかも解らずに。或いは自分が死んだ事さえ、正しく把握しているかどうか。冗談で提案した「投げる」を、彼はものの見事に実現して見せた。離れ業と言っていい。一連の動作はそう評すに足りる。離陸、滞空、急所への刺突と同時に衝撃を殺し。
着地を終えた時には、既に次の敵へ攻撃を加える体勢。次は明るい内に拝見したいと思う程、洗練されている。嗚呼、しかし。ウチの子を足蹴にするだなんて。母たるこの我でさえ、ぶった事など無いのに。酷い話ですわ。ま、有り難いモノを見せて頂いたのと、今の戦果で差し引きゼロにして差し上げますけれど。(…さて、と)踵を返す。あの調子なら、此所は任せても大丈夫。背後で何やら派手な音がしているけれど、構うものか。武闘家には武闘家の、魔術師には魔術の役割があるのだ。部隊の面々が既に所持している筈の魔力を宿す昆虫。スカラベに位置を記憶させたのは、そう。あの岩壁の向こう。
さて、折角馬鹿呼ばわりしてくれたのだから、馬鹿なりにひと泡吹かせてやりたいものだが。辺りに視線を走らせながら少しずつ移動する。こちらの兵は大分退いてしまった。かと言って敵軍の姿も無い本当に単騎なのだろうか。相手が投げた煙幕の向こう側へと、走りぬけていく兵達を見送る。爆弾でなくて良かった。兵達が向かうのは陣の中心から更にもう少し先。塹壕だ。上手く抜けて持ち場につけるだろうか煙のお陰で確認することはできなかった一方目の前の人間は篝火を倒して、楽しそうに走り出す…勿体ない。閃光弾を使って、弓兵へ火屋の合図をする手はずだったが、その手間もなくなってしまった
天幕の中身は、爆薬。辺りの天幕もそう。地べたに転がっているいくつかの布の塊も大体は火薬の類だ。大群が押し寄せてきたならば、おびき寄せて纏めて爆破するというのが高尚な上官様の作戦だったのだが「それはどうも、」最早構われている場合ではない。敵兵の言葉も話し半分に、自分の持ち場…避難場所である岩陰に慌てて飛び込んだ。数秒の間を置いて方々で爆発が起こる。ご丁寧に火を巻き散らしてくれたお陰で、次々と火の手が上がり誘爆して放火魔へと炎が襲いかかる。確かにこの仕掛けは馬鹿過ぎる「…………熱い」
おかしいですネェ走りながら感じる違和感少しは此方に向かって攻撃を仕掛けて来ても良いはずの敵がこない寧ろ一目散と言って良い程に中心を目指し駆けていく…これは、突っ込んだら待ち構えている敵に串刺し。なんてオチですかネ?追いついた兵士の首を掻き切りながら思案する横目で見た獲物の表情は必死それは、何かから逃げる表情。少なくとも自分ではないでは、何から?答えは直ぐに後方に篝火を倒した最初の天幕から轟音と共に熱風が広がるついで連鎖的に其の傍の天幕が弾け飛んだ『ひゅ〜』口笛が出た。天幕に火薬が詰まっているとはしかも陣の外側。夜襲に火矢という常套手段を無視するかの様に
…と、言う事は思考の合間にも連鎖的な爆発が近づいてくる馬鹿らしい話だ。結局此処は外れ、と言う事だろうはぁ、指揮官の首でも取れば報奨金くらい出るかと思ったんですが、ネェ金にならない場所に用は無いこんな事なら、劣勢のまま城で鳥でも狩っていた方がマシだったとは言え、このままだと死んでしまう自殺の趣味は有りませんし、さて、どうするか3人目。肩を踏みつけて前へ飛ぶ。此処からは煙の領域だけれど爆発も直ぐ傍。この辺りは退いている兵士ごと炎の海になるのだろうならばどうするか置き土産をしてから帰るのが一番ですかネェ爆発と言う丁度良い風もある素敵な状況には違いない
弱毒性の麻酔毒。無味無臭、けれど散らばれば黄色い燐分の様に見えるだろう火花に混じって丁度良い腰の後ろのポーチから毒の袋を取り出す数は二つ。火薬玉の残りを其々に突っ込んで空へ空へと放り投げた後は、爆発の後に降り注ぐ粉で軽い痺れを味わえば良い量が量なだけに範囲も効果も微小だが、この際だ…気に食いませんけど、ネ髪の先が少し焦げた熱を帯びた爪と手甲のせいで腕には火傷が生まれているだろう辛うじて服は袖がこげる程度だが、何れ燃えてしまう可能性が高い潮時だ。皆殺しにしてやりたい気持ちは抑えて、素直に退くとしようスカラベを翳す。落ち合う予定の場所には果たして誰か残っているのか
「どうだ…?」高台によじ登って弓兵に首尾を尋ねる。火で辺りは明るくなっている為、陣地の中は夜でもある程度見渡せるようになっている。ただ、立ち上る煙の所為で見えない部分も多いようだ。何匹かあぶり出された敵を射ったとのことだが、今はもう誰も見当たらないらしい。影も形も…爆発で吹き飛んだならともかく、生きている物は撤退したのか。あの人間も、か?それとも炎に巻かれて丸焦げになったか。…?ふと軽いめまいを覚える。遠くで起こった爆風の、熱風を吸い込んだ途端にだ。口が痺れる。
何か撒かれたようだと、舌をもつれさせながら弓兵も空を睨んだ。微かに火花のような物が、空中に舞い上がっているのが見えた。不自然に空中で起こった爆発があったらしい。あの人間の仕業だろうか。恐らく爆風に乗ってそこいらじゅうに薄く広がっているだろう薄まっているとは言え、痺れてしまえば弓兵は正確な狙いが定まらなくなる。溜息。けれどもここを捨てるわけにもいかない。外套を破って水筒の水を垂らし、各々口を覆うように巻く。奴らもどこへ行ったのやら。退いてくれたのならいいが、再度攻めてくるならば迎撃しなければならない。
つい先程完成したばかりの魔方陣の前で、煙草に火を点す。構築せしは二重積層。陣の片方が地面、もう片方が空中に描かれているため、そう呼ばれている。外観だけなら可視の秘蹟と言って良い程に幻想的なのだが。ただ、完成するまでに時間が掛かり過ぎ、更には消費する魔力も膨大という稀代の難物であった。この我でさえ、主のバックアップ無しに実現し得たかどうか。契約によるリンクは対象への魔力供給を可能とする。存在と身体の維持から公使する魔術の原動力まで。ソレらほぼ全てを、彼女に依存していると言って良い。嗚呼、しかし。流石に今回は度が過ぎた。構築にあたり、供給された魔力は過去最高で最過剰。
『こんな桁違いの魔力、何に使ったの?』青筋を立て、そう迫る彼女の姿が目に浮かぶよう。なんて憂鬱。困りましたわ。「もう少し早くに仕事が終わっていたのなら、特大花火の打ち上げを拝めましたのに。残念ね」赤く染まった空を見ながら、使い魔の頭(?)を撫でる。猛り狂う炎の渦と連鎖的に炸裂する爆音、そして阿鼻叫喚。その全てが感覚の外。ソレほどの集中力を以て、陣を敷いていた。まさに文字通りの"対岸の火事"と言うより、そう扱わざるを得ないというのが、正直なところ。あの爆発なら、こちらの部隊にも死者が出ただろう。さて、一番に帰還してくるのは何処の誰か。
スカラベが輝くこれで記憶した場所へと戻るだけだ其の後は、この場を記録したベラカスへと姿を変えていることだろうとは言え、もう一度此処へ来る事になるかどうかふ、と景色が変わった夏の夜気とはいえ、先程まで味わっていた物と比べれば冷たい風が頬をなぜる「ふぅ〜」吸い込んだ息を吐き出す。生きて戻る事ができた安心感が呼吸を正常へと戻してゆく赤く染まる敵陣から視線をずらすなんとも言えないものが有るその傍で煙草をふかす女が一人「やれやれ、ゼレナリュシュさんお一人で?」他の者は?と口を開くが、恐らく自分が一番だろうほんと、とんだ罠にかかったものだ
すぐ側で空間が揺らめく。束の間を置いて姿を見せたのは、例の武闘家。その長髪や衣服に焦げた跡が認められるも、目立った外傷は無い。ましてあの爆発から生還してソレだ。やはり、相当の手練と見える。危機対応に秀でているのだろう。「お帰りなさいませ、ティエン様」おひとつ如何? と、紙巻き煙草を包装ごと差し出す。普通なら、もう火なんて見たくもないでしょうけれど。不思議な事に、この人に限っては、そうでないように思えてしまう。「お怪我は? 火傷の応急処置程度なら出来ましてよ。特に問題が無ければ、そこから本国へ御戻りを」最後に「お疲れ様」と付け加え、魔方陣を指し示した。
「お帰りなさいませ、ティエン様」お一つ如何?と差し出された煙草に、頂きます、と応えて一本だけ受け取る口に咥えて、懐をまさぐった時点ではたと気付いたそういえば、火が無いふ、と溜息がこぼれ出る悪魔の説明を聞きながら暫し思案ま、帰れると言うのなら「じゃ、先に帰ります。火傷も国に戻って病院へ顔を出すとしますヨ」治療が済めばすぐ戦線復帰になるだろうが…篭手の下の火傷の痛みを感じながら思う戻ったらまずは誰かに火を借りるとしよう一服の後、全てはソレからだ魔法陣に足を進める。戻った先で敗戦の報が待っていると知らずに